弟子たちのぼやき ~たまにはディスる事もあるのです~
「あ、ディアーネ。依頼の報告、終わったんだね」
「ええ、おかげさまで順調に。……どこぞのイモ娘さんがあたしの目を盗んで逃げだしていた事を除いては、ですが」
「はぅ……そ、それはさておきだよぅ!」
ボクは強引に話題を変える。
「それじゃようやく、ボクの冒険者登録が出来るんだね、おししょー様!」
「ああ、そうだな。これが君の冒険者証だ」
「にしし、ありがとう……ありがとう?」
おかしいなぁ……ボクの望んでた言葉となんか違うよぅ。おししょー様が差し出したそれをひとまず受け取り、ボクはおずおずと尋ねる。
「あの、おししょー様? これは……?」
「君の冒険者証だ」
「あ、うん。そういう事じゃなくて……ボク、今から登録をするんだと思ってたんだけど」
「協会に着いて君を探す前に、あらかじめ申請をしておいたんだ。で、ディアーネの依頼報告を待つ間に申請が通ってな」
「あぁ、うん……なるほどぅ……」
ボクは頷いて自分を納得させようとしたけど、やっぱりなんか違う。ボクの様子を見てか、おししょー様が首を傾げた。
「どうした、アスミア。何か問題でもあったか? 名前の綴りが間違っているとかであればすぐに再発行を」
「そーじゃなくって。なんかこう、ボクにとってのスタート! って感じになると思ってたから、知らない内にあっさりと終わってたのが拍子抜けと言うか……?」
「む……そ、それはすまなかった。早く登録をしていたがっていたから、この方が喜ぶだろうと思ってな……」
「だぁっはははは! 相変わらずそういう情緒とかは分かってねぇんだな、リューネ!」
「お前にだけは言われたくないぞ、ノクトス……!」
大笑いするノクトスさんに珍しく感情的に噛みつくおししょー様。
「思い出されますわね……登録の為に初めて協会に来た時、中に入る事すら出来ずに冒険者証を投げて渡された事を。あたしの緊張と興奮、返して欲しいですわ……」
「くすくす、そう言わな~いの。どうせノクトスは忘れてるでしょうしぃ、思い出しても時間の無駄じゃなぁい」
向こうは向こうでなんかぼやいてる。うん、まぁその気持ちはわかるよぅディアーネ。
けど、まぁいいや。ボクは申し訳なさそうなおししょー様に笑みを向けた。
「おししょー様はボクが喜ぶと思って、こうしてくれたんでしょ? それならボク、とぉっても嬉しいよぅ」
「そ、そうか。そう言ってもらえると、助かる」
ほっと胸を撫で下ろすおししょー様。ボクは受け取った冒険者証に視線を落とす。
おししょー様の体温がちょっとだけ残っているそれには、ちっちゃな文字がたくさん並んでいた。冒険者が守るべきルール、みたいな内容っぽい。それはひとまず置いといて、裏返すとボクの名前が記されている。
その横にでかでかと記されてるのがランクだろう。ボクは……F!
「ボク、Fランクなのぅ?」
「ああ、そう申請した。ハイオークを単独で狩った事、そしてCランクと協力してとはいえゲイルハウンドを狩った事から、十分その資格はある」
「へぇ、やるなぁ嬢ちゃん!」
ノクトスさんが褒めてくれたので、ボクもピースサインで応える。やっぱり実力を評価してもらえるのは嬉しいよね!
で、『師匠』の欄におししょー様の名前。ちょっとだけにやけてしまう。
「にしし。こうやってちゃんとした形でおししょー様の弟子になれた、って分かるの、すっごく良いかも!」
「はは、そう言われると師匠冥利に尽きるな」
おししょー様は笑う。ちょっと照れ臭そう。にしし、照れた感じもかっこいいよぅ。
と、パンと手を叩く音。その音を奏でたメメリエルナさんを見る。
「さぁて、これで一区切りよねぇ? これでみんな、全員冒険者って事で、ちょぉっと真面目な話をしましょうかぁ」
「そうだな! おいリューネよ、お前はこれからどうすんだぁ?」
「アスミアに冒険者としての基礎を叩きこみつつ、依頼を受けるつもりだ。教えるべき事は山ほどあるからな」
山ほど、かぁ……おししょー様から何かを教えてもらうのは嫌いじゃないんだけど、ここまでの旅路で結構たくさん教えてもらったはずなのに。あれがほんの序の口だった、って思うとちょっと気が重いよぅ。
「だぁっはっははは! お前、真面目で几帳面だから教え好きっぽいもんなぁ」
「そういうお前は教え下手としか思えないが。ディアーネの指導が出来るのか、少し心配になってくる」
「だ~いじょうぶよぉ。その為に私がいるの。長い付き合いだし制御もお手の物よぉ?」
「たまに一緒になって暴走しますけどね……」
ディアーネが小声で、多分ボクだけに聞こえてる声で言う。とりあえず、ぽんぽんと肩を優しく叩いておいた。
「そういうお前こそ、これからどうするつもりなんだ? ノクトス」
「俺は今からちょいと遠出するぜ。徒歩で一週間以上はかかる距離らしいが、俺の〝風〟ならすぐだって事で上の人間から頼まれちまってな!」
「そうか……ふむ、〝風〟か」
おししょー様はボクをちらと見て、短く考え込む。何か思いついたみたい。
「ノクトス、メメリエルナ。今、〝地下〟の利用は制限されていないな?」
「そ~ねぇ、特に問題は起きてないはずだけどぉ……あ。もしかして、アスミアちゃんにアレを見せておく、って感じ?」
「ああ。早い段階で説明しておいた方がいい」
「そいつぁいいな! 俺達もディアーネに説明できてねぇし、この際だからもう少し付き合うぜ!」
「いや、お前は今から依頼をこなすんじゃないのか」
「少しくらい誤差だ誤差! だぁっははははは!」
そう言って意気揚々と歩き出す三人。ボクとディアーネは顔を見合わせる。
「……何の話か分かる? ディアーネ」
「いえ、こればかりは。ですが……どこか蚊帳の外にされてる感じがしてムカつきますわ」
「同感だよぅ」
とかぼやいてたってしょうがない。早足でその後を追った。
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