ボク、何か変な事言った? おししょー様

 ボク達の暮らすこの世界には、大きな海とそこに浮かぶ大陸が幾つかあるんだって。で、その中で一番大きな大陸がここ、『ファレットホデグ』。


 他の大陸は人間と魔物どころか、動物すらもいないみたい。良く分かんないけど、生き物が暮らせるような環境じゃないからだとか何とか。


 だから、この世界で生き物がいるのはこのファレットホデグだけ。って事で、この世界そのものをファレットホデグ、って呼ぶ風習が出来たっぽい。


 そして、ファレットホデグには大きな国が二つ。


 ボク達人間が暮らす『ジルディア王国』。

 元々は人間が暮らしてたけど、今は魔物に支配されちゃってる『ガロード皇国』


 この二つの国が、大陸を真っ二つに分けるようにして睨み合ってる感じ。元々魔物は大陸のあちこちに散らばってたけど、その魔物達がみんなガロード皇国に入ってきちゃった、みたいな?

 元々皇国に住んでいて、魔物から逃れて来た人達のほとんどは今、王都ラドンと冒険都市ネスティスにいるみたい。すっごい数の人が逃げて来たみたいだけど、こういう状況を想定して元からすっごい大きな構造にしてあったんだって。


 まぁ、つまりボクが何を言いたいのかというと。


「……ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ! っっっっっっっっき~~~~~~~~いんだよおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぅ!」


 ちょっと前のボクにとっての全てだったアゾート村が、ファレットホデグにとって、そしてジルディア王国にとって、米粒みたいにちっぽけだったって事!


 冒険都市ネスティス。街の外から外観を眺めるだけでも予想できてた事なんだけど、街の門をくぐって見えた景色は、その想像を四段階くらい飛び越えて来た。


 とにかく、大きい! 広い! 人が多い! 建物も多い! 店も多い! 


 アゾート村には土の地面と畑と川と木の家、そして山ぐらいしかなかった。なのにここは何もかもが違う。ぜんっぜん違う!

 石造りっぽい家が整然と立ち並び、道にも石が敷き詰められているせいで歩くたびに違和感しかない。畑臭さももちろん無いし、山、というか木の一本すらない。

 道行く人の服一つ取っても、村の子達のそれと大違いだ。何というか……うん、もぉ、なんかオシャレ! そうとしか言えないよぅ!


 ねぇ何なのアゾート村って! 田舎だ田舎だとは思ってたし行商人さんにも散々言われてきたけど、これはちょっともう違う世界にしか見えないよぅ!


「ちょいとごめんよ、お嬢ちゃん」

「はぅ! ご、ごめんなさいだよぅ!」


 後ろからの声に振り向けば、おっきな馬が二匹とその後ろに座る御者のおじさんが一人。馬は荷台を引いていて、何かのマークが記されてる。

 慌てて飛び退いたボクにニカッと笑いかけた後、おじさんは馬を駆って街の奥へと進んでいく。ボクは茫然とそれを見送る事しかできなかった。


(……あのマークって確か……?)


 アゾート村に取引に来る商人は、比較的軽装な行商人さんが数人で来ることが多い。けど、たまにおっきな馬車で来る商人さんもいた。

 あのマークは、その時の馬車の荷台にも記されてた気がする。って事は、あの荷台の中にはアゾート村のお野菜とかおイモさんも載ってたりするのかな……?


「まったく……予想通りの反応ですわね、アスミアさん」


 と、額に手を当てたディアーネが歩み寄ってくる。


「いかにも『田舎から出てきたお上りさん』みたいな反応のオンパレードですわ。ここまでアレだと、もういっそ清々しいですわね」

「し、仕方ないじゃん! 実際、村とぜ~んぜん違うんだから!」


「それは分かりましたけど、もう少し反応を抑えていただけません? お上りさんらしき人の叫びを遠巻きに見た事はありましたが、それが自分の連れだとなると話は全く違ってきますわね……あぁお恥ずかしい」

「なんだとぅ!?」


 ボクはボクの素直な驚きを言葉にしただけなのに、なんて言い草だ! 王都ラドンで育った超都会っ娘だからって上から目線で語るんじゃないよぅ!

 ふんだ、いいもん。いつか超田舎代表のアゾート村に連れて行って唖然とさせてやる。あぁお恥ずかしい、ってこれ見よがしに言ってやるんだから!


「二人とも、あまり騒がないように。目立ちたくはないだろう?」


 と、おししょー様が割って入る。小さく含み笑いながら。

 ……なんか最近思うんだけど。おししょー様、ボクとディアーネの言い争いを楽しんでないかな?


「そうは言いますがリューネさん、アスミアさんの反応は行き過ぎだと思いますわ」

「初めての、あるいは未知のモノに出くわしたら興奮してしまうのが、人間というものだ。私も、とても農民の少女とは思えない立ち回りをして見せたアスミアに、同じような思いを抱いたものだしな」


 ボクのフォローをしてくれるおししょー様。って、あれ? 


「ねぇおししょー様。それって、ボクを見て興奮してくれたって事?」

「……えぇと、アスミア? 君に他意がない事は重々承知しているんだが、誤解を招くような発言をこんな往来でするのは慎んだ方がいいぞ? いや、慎んでくれ」

「? うん、分かったよぅ」


 あんま分かってないけど。おししょー様、なんであんな焦った顔してたんだろう。ボクはおししょー様に認めてもらえて嬉しいって言っただけなのに。

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