別に友達でもライバルでもどっちでもいいじゃん
と、ディアーネがおししょー様に食って掛かる。
「そうは言いますがリューネさん、アスミアさんはどうにも大雑把すぎますわ! 魔物との闘いで死んでしまった後では遅いのです。というか、彼女は実際に死にかけたではありませんか。今の内から性根を叩き直しませんと!」
「アスミアの場合はそれくらいの意識の方が上手くいくかもしれないな。理論じゃなく、感覚で闘うタイプなのはディアーネも分かっているだろう?」
「それは、まぁ。この間の狩りで、根っからの野生っ娘である事は良く分かりました」
む、また野生っ娘って言われた。ディアーネがこういう事を言うのはよくあるから別にいいんだけど……おししょー様? 何で笑いながら頷いてるのかな?
「ですが、それとこれとは別問題でしょう。全くの無知ではいざ言霊使いと闘う時に命取りになりかねませんわ」
「言霊使いと、闘う? 人間同士で闘うのぅ? もしかして、盗賊とか?」
アゾート村の近くではほとんど見る事がないけど、大きな街の近くでは行商人を狙った盗賊が出る事もあるとか。魔物で大変な時にどうして人間同士で争わなきゃいけないのか、ホントにわけが分かんないけど。
「言霊使いになったのにわざわざ盗賊に身をやつすおバカさんなんて……いないとも限りませんが、警戒すべきはもっと別の事ですわ。ほら、教本に書いてあったでしょう? 魔物の中には言霊を使うモノもいる、と」
「あー、そういやそんな事が書いてあったような気も……けどまぁ何とかなるよ、うん!」
「その自信はどこから……ちょっとリューネさん! 師匠なのですから、締めるべきところは締めてくださいな!」
くつくつと肩を揺らすおししょー様。なんか今日、おししょー様ってばよく笑うなぁ。こんなに笑ってるとこ、初めて見るかも。
「あぁいや、すまない。本当に注意すべき事はちゃんと注意するさ。だが、ディアーネのような友人が傍にいてくれると、私が口を出す隙がなくてな」
「ゆっ……!? べ、別に友人とかじゃなくて、えぇと、そう! ライバルですわ!」
そう言ってびしぃ! とボクを指さすディアーネ。
「最初は声だけ大きい生意気なおチビさんだと思っていましたが、言霊無しであそこまでやれた事には素直に感心いたしましたわ! Cランクの冒険者であるあたしが、ライバルとして認定して差し上げます。感謝なさいな!」
「別にボクは友達でいいよぅ。ライバルって言ったって、ボクとディアーネが闘う理由なんてないもん」
「空気が読めませんわねあなたは! ライバルと切磋琢磨をして強くなる! これぞ冒険者の王道というモノでしょうに!」
なんかディアーネが無駄に暑苦しいよぅ。こんな子だったっけ?
いや、ボクもライバルとかそういうのに憧れがないわけじゃないけど、ディアーネとは普通に友達になりたいな、って思えてきたんだよぅ。カンナと全然違うタイプだから、よく口論になったりはするけどとっても楽しくって……ま、いっか。
「にしし。それじゃあライバルとして宣言しておくよぅ。ボク、ディアーネなんてあっという間に追い抜いちゃうんだから!」
「ほざきやがりましたわね、このイモ娘! まだ言霊に目覚めてすらいないくせに、よくもまぁそんな大口を!」
「ふーんだ、今から言霊のお勉強をたっくさんしておけばきっと……あ! この教本、後ろの方は絵とかが沢山あって分かりやすそう! これならボクでも読めるよぅ!」
「挿絵があるだけで目を輝かせるとか、まるっきり子供ですわねあなたは!」
「じゃあボクと同い年のディアーネもおししょー様も子供だね!」
「勝手にこちらを巻き込まないでくださります!?」
「ふふ、白熱してるところに水を差すようだが……そろそろ体を休めるといい、二人とも」
ボク達を順に見たおししょー様は、剣を鞘にしまいつつ焚火に枯れ木を放り込む。
「おししょー様、毎日火の番をしてるけど大丈夫? ボクだって火の番とか見張りくらいはできるもん」
「気遣いには感謝するが、ネスティスはここからそう遠くない。一両日中には辿り着けるはず。それくらいはどうとでもなるから、気にせずに眠るといい」
柔らかく笑うおししょー様。焚火から舞う火の粉に囲まれて笑うその顔は、昼間に見る時よりも数段かっこよく見えた……いや、普段からすっごくかっこいいんだけどね!
「むぅ、分かったよぅ……でも何度でも言うけど、疲れたらいつでも起こしてくれていいんだよぅ!」
「あぁ、そうさせてもらおう」
とか言いつつ、今までの野宿でおししょー様がボクを起こしてくれた事は一度もないけど。きっと、今日も起こしてくれない。
ボクはおししょー様の役に立ちたいだけなのに、おししょー様は全部自分だけでやろうとする性格みたい。ずっと一人で旅をしてきたんだから、そういうのが染みついちゃってるのかもしれないけど、やっぱり寂しいよぅ。
「……もぉ。ディアーネ、早く寝るんだよぅ!」
「ちょっ、何をいきなり怒ってるんですのあなたは!」
何となくムカムカして、衝動的に八つ当たり。
ボクはおししょー様に背を向けて横になる。小さく聞こえた笑い声にちょっとだけイラっとしたけど、それ以上に安心しているボクもいた。
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