師匠じゃないよ、先生だよ
魔物を狩って、村に平和が戻った。ゲイルハウンドの死体を魔物の研究材料として
今度また魔物に襲われたとしてもそのお金で協会に依頼を出す事も出来るようになったみたい。ラングさんにも村の人達にもすっごく感謝された。
ゲイルハウンドの最後の攻撃で背中のところが滅茶苦茶になっちゃったボクの服の代わりも用意してくれて、こっちこそ感謝感謝なのに。まるで物語の中の勇者様みたいに優しくてすごい人達だ、とまで言われちゃった。
ちょっとむず痒くて、勿論嬉しかった。けど、号泣している人も結構いて、よっぽど魔物に怯えて暮らしてたんだな、って事も伝わってきて。
ホントに勇者を目指すなら。そうじゃなくても、おししょー様の弟子として立派な冒険者を目指すなら。喜んでばかりじゃいられないって、そう思ったんだ。
「むぅ……こういう小難しい本はやっぱダメだよぅ」
たらふくラングさんのお料理を食べて元気いっぱいになったボク達は、次の日に村を出発した。で、目的地が同じのディアーネにボクは言霊の教本を借りてみた。
魔物を狩って色んな人の役に立つ為には、色んなことを勉強しなくちゃ! って事で、冒険都市ネスティスに着くまでに野宿の時間とかを使って読んじゃおうと思ったんだけど……これは強敵だよぅ。ゲイルハウンドよりも強いね、この本は。
「仕方ありませんわね。あたしが噛み砕いて説明して差し上げますわ」
ボクの手から教本をひったくるディアーネ。夕食を食べ終えた後だからか、ちょっと機嫌が良いっぽい。にしし、おししょー様の為に練習してきた料理だけど、やっぱりこういう顔をして貰えると作ったボクも嬉しいよぅ。
「えっと、よろしくお願いするんだよぅ、先生!」
「せ、先生……悪くない響きですわね」
チョロいよぅ、この先生。
なんかちょっとだけ不安になってくるけど、まぁいっか。ボクが焚火の横で正座になると、ディアーネはこほんと咳払いした。
「では、始めますわ。いきなり全部、と言うのもアレですし、今日はここに挙げられている言霊の三つの特徴について解説しますわね」
「うん。『いちじのかいしゃく』、だっけ?」
「あなた、今完全にうろ覚えで言ったでしょう。一応合ってますけど……『一字の解釈』、つまりその言霊に付けられた一文字をどういう意味で噛み砕くかによって、その言霊は大きく姿を変えるのです」
そう言ってディアーネはあの紫色の光を指に纏わせた。
「あたしの場合は〝雷〟……言霊の中ではわりとポピュラーなものですわね。分かりやすく攻撃的な『一字』ですし」
「うん。ばしぃ! って雷ぶっ放してたよね」
「ええ。まさしく『雷』ですわね。でも、雷という言葉はそこから派生して色々な『意味』を内包します」
「ないほう……ナイホウ?」
「……えぇと、あたしが悪かったです。簡単に言うと、例えば雷は瞬間的に強烈な『光』を放ちます。もの凄い『音』も同時に出します。そして、目にも止まらぬ『
ディアーネは教本を置いておもむろに立ち上がり、
「〝雷〟の声を聞け。たかが一歩、されど一歩。
「わぁっ!?」
言霊を詠唱するや否や、ディアーネの姿が消えた。と、気が付けば一瞬で二十メートルくらい遠くまで移動してる。
「とまぁ、これは〝雷〟を『
こちらに歩いて戻ってきながら、ディアーネは得意げに言う。ボクもディアーネに駆け寄った。
「すっごいよぅ! びゅーん! って飛んでったもん! 見えなかったよぅ!」
「うふふ、あたしの言霊は〝雷〟の『感電』、そして『疾やさ』を軸にした術式を中心に成り立っていますから。まだまだ研鑽が必要ですけどね」
「そっかぁ……うん、何となく『いちじのかいしゃく』については分かったかも! 次、お願いするんだよぅ!」
「……うろ覚えが解消されていない気がしますが、まぁいいです。二つ目は〝目覚める〟の概念について、ですわね」
ボクは腕を組んで、ふふんと鼻を鳴らした。
「それはさすがに分かってるよぅ。魔力を持ってる人がある日突然、言霊を使えるようになるんだよね?」
「付け加えるなら、言霊の才能があるのであれば、ですわね。この教本の言葉に則るなら、神様に愛された者、といったところでしょうけど……まぁそれだけ曖昧な部分なのですわ。結局は〝目覚めた〟者勝ちだとも言えるわけですし」
「そうなんだ。じゃ、全然闘いとは無縁な暮らしをしててもある日突然〝目覚め〟ちゃう事もあるのかな?」
言ってから、カンナがまさにそれじゃん、と思った。普段から獣を狩ってるボクと違って、カンナは完璧インドア派だし。
「それならまだマシですわ。かなりの魔力を秘め、勇者を目指して英才教育を施されてきた実力者であっても、いつまでも〝目覚め〟ないせいでCランク以上になれない人もいます。というか、現時点でDランクにいる人は大体がそういう人だそうですわ」
さぞ歯痒い思いをされていらっしゃる事でしょう、とポツリと言う。見下すとか憐れんでるとかじゃなく、純粋に心配してる感じに聞こえた。
「ふーん……じゃあディアーネは? いつ頃〝目覚めた〟のぅ?」
「詳しい時期は分かりません。あたしは物心ついた時には自然に使えていましたので、その実感もあまりないですわ。幼少の時期に言霊に目覚める事自体、珍しいようですし」
「そうなんだぁ……ディアーネって結構すごいんだね!」
「なんか含みがありますわね、あなたの物言いは!」
むぅ、ボクは純粋に感心しただけなのに、なんで怒られるんだよぅ。唇を尖らせるボクに、ディアーネは一つ息を吐く。
「アスミアさんと話をしていると、何故か疲れますわね……では三つ目。これは言霊の特異性について、ですわね」
「むぅ、また小難しい系の内容な気がするよぅ……」
「あと少しですから我慢なさいな」
そう言って、ディアーネはまた紫色の雷を手に纏わせる。
「さっきも言ったように、あたしの言霊は〝雷〟の『感電』と『疾やさ』という性質を再現しつつ、新たな術へと昇華しています。逆に言えば、雷が持つその他の性質は再現していません」
「むぅ……? よく考えたらそれって、雷じゃない気がするよぅ。やっぱりばちぃ! どごぉん! みたいにすっごい光と音がなきゃ雷っぽくないもん」
「ええそうです。あたしの言霊は、見た目は雷に似ているモノ、を生み出しているに過ぎません」
ディアーネは手の雷を近くの木に向け、見慣れた紫電の槍を放った。瞬時に木にぶつかり、ばちぃ! と弾けて消えていく。
「普通、雷が落ちた木は燃えます。強力な電気は、当たった対象を発熱させるからです。が、あたしは〝雷〟によって生じるその『発熱』も意図的に排除しています」
「はぇぇ……でも何で? 燃えた方が強い言霊になると思うよぅ」
「もちろん、魔物を相手取るのだから殺傷力を第一に考えるべきというのも分かります。でもまぁ、ぶっ放すたびに火事を引き起こす言霊というのも使いにくいでしょう?」
「あぁ、うん、確かにそうかも」
「あたしなりの闘いやすさを考えた結果、という事ですわ。その分、『感電』と『迅やさ』に関しては他の〝雷〟使いに勝っていると自負しています。お分かりになりました?」
「な、何とか……」
その『いちじ』をどう『かいしゃく』するかは結局その人次第……って事だよね。で、それ次第で闘い方とかも全然変わっちゃうわけかぁ。
むぅ……言霊ってもっとこう、〝目覚めた〟瞬間にすっごいパワーアップが出来る! みたいなモノだと思ってたけど、使いこなすのは難しいっぽいや。
そもそも、ボクはそういうのを考えたり想像したりするのが苦手なわけで……、
「……つまり、細かい事は気にしちゃダメ、って事だね!」
「何で今の説明からその結論になりますの!? 言霊使いになりたいんでしょう、あなたは! もっと真面目に考えなさいな!」
「めっちゃ真面目だもん! こういうのは、えっと、『てきざいてきしょ』、なんだからぁ!」
「そのうろ覚えでモノを言うのはおやめなさい!」
「まぁそう言ってやらないでくれ」
と、剣の手入れをしていたおししょー様が久しぶりに口を開いた。あぅ、またおししょー様の事を忘れかけてディアーネとアホな言い合いをしちゃったよぅ……。
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