女には、譲れないモノがあるのだ
なので、分かってる事も結構多い。昼行性、夜行性という区分はあまりなく、起きたら狩りに行く、疲れたらご飯食べて寝る、というのを昼夜関係なく繰り返してるっぽい。すっごい本能に忠実な暮らしだよぅ。ちょっと憧れるかも。
で、おししょー様が言うように狩りは夜にする事が多い。多分、夜目が利くから夜に動いた方が狩りの成功率が高い事を本能で分かってるんだろう、って。
だから、日が暮れた後にゲイルハウンドのテリトリーに入ったボク達はいつ襲われたっておかしくないわけで。誘き寄せたらそのまま狩っちゃえばいい……んだけど、実際はそんなに上手くいかなくて。
ドッグハウンドに数体襲われただけで、本命のゲイルハウンドっぽいヤツは影も形も見えない。多分、向こうもボク達を警戒してるんだろう。
こんなにか弱くてゆるふわ髪なボクと、性格はともかく綺麗な顔立ちをしたディアーネが一緒なのに、何をそんなに警戒する事があるんだろう。いやまぁ、ボクは新品のピッカピカなヘルサイスを両手に持ってるけどさ。
ともかく、このままじゃ埒が明かない! って事で、
「プチ野宿開始だよぅ!」
という感じに。ボク達は風裂き猟犬のテリトリーだって言う森のど真ん中、燃え盛る焚火の近くに腰を下ろした。
やっぱり夜は冷える。ボクもディアーネも上着を着てるけど、やっぱり夜風は冷たい。焚火の温かさが素直に嬉しかった。
「まさか、野宿を避ける為に立ち寄った村で野宿をする羽目になるとは……」
隣でぼやくディアーネ。ボクは笑った。
「にしし、この軟弱者め! 冒険者たるもの、野宿ぐらいでぐちぐち言ってどうすんのさ!」
「あたしはあなたのような野生っ娘とは違うんですの! いくら野宿をしたところで、女は磨かれませんわ!」
「む……それは確かに、女の子としてちょっと一大事なんだよぅ」
言われてみれば、毎日野宿してるような女の子っていうのはちょっとおかしい気がしてきた。いやでも、冒険者としては間違ってないと思うし……難しいんだよぅ。
ていうか、イモ娘に怪力娘と来て今度は野生っ娘だって? 次から次へと呼び名を変えないで欲しいんだよぅ。……全部当たってるのが微妙に悔しいけど。
と、ディアーネがふぅと息を吐いて木々の合間から見える夜空を見上げる。
「まぁ、さっさと魔物を狩る事が出来れば村に戻れるのですし、そう悲観する必要もありませんわね」
「それなんだけどさぁ……こうやって焚火を囲んでたら風裂き猟犬が出てくるはず、って言ってたの、ホント?」
そもそもこのプチ野宿、発案はディアーネだ。こういうのを思いつくのはボクの方に違いない、って色んな人に言われそうだけど、断じてボクじゃない。
の割には、野宿はイヤだとぐちぐち言う始末。こうなると、何で野宿を提案してきたのかが全然分からないよぅ。
「そうですわね……根拠は二つ。まず、野生動物は火に近寄る性質を持ち、魔物はそれを理解した上で『火の近くに行けば獲物がいる』と考えるモノが多いですわ」
「あー、まぁ確かにそれはあるかも。二つ目は?」
「これです」
そう言って、ディアーネはぴっと人差し指を立てた。その指先が光っている。
紫色を帯びている光で、ディアーネの言霊によるものらしい。森を歩いている時はこの光で道を照らしてた。
「この光はつまるところ、魔力を放出している事と同義ですわ。その魔力を感じ取った風裂き猟犬が必要以上にあたし達を警戒した……と考えられません?」
「なるほど。キミ、ちゃんと考えてるんだね!」
「バカにしてますの!? 失礼ですわ!」
「別にそんなつもりは無いよぅ」
唇を尖らせるディアーネに軽く謝った後、ボク達はちょっとお話をした。
ディアーネがボクと同い年、って事。とある貴族の出だって事。ある目的を果たす為に冒険者になった事。
その目的が何かまでは教えてもらえなかったけど……まぁいっか。
「貴族かぁ。農民だったボクには全く縁がない人達だよぅ」
「同じ人間ですわよ。生まれた家がたまたま貴族だっただけ。何一つ威張れる事なんてありませんわ」
「へぇ、キミってそういう事言うんだぁ。ボクのイメージだと貴族ってすっごくプライドが高い人達だと思ってたし、キミもそんな感じだと思ってたのに」
「……いちいち物言いに棘がありますわね。あたしだってプライドくらいはありますけど、それはあたしが生きて来た、そして生きて行く人生で得たモノを守る為のモノです。生まれながらに強制的に手に入れたモノに命を懸けるなんて、願い下げですわ」
そう言うディアーネの横顔はとっても真剣で。ボクもそれ以上何も言わなかった。
けど、うん。ボクにだっておししょー様と一緒に色んな事を学ぶ、っていう大切な目的があるんだ! 他人の事を気にする前に、まずは自分の事から頑張らないと!
「そ、それでアスミアさん? 今の話とは全く関係ないのですけど……折角ですので、一つ質問してもよろしくて?」
と、ディアーネの口調が変わった。何て言うか、ちょっと挙動不審な感じに。
「へ? 何?」
「その……アスミアさんは普段、どのような物を食べてらっしゃるんですの?」
? 何でいきなりそんな事。まぁいいけど。
「どのようなって言われても、普通のお野菜とか、山で狩った獣の肉とか?」
「そ、そうですか。となると、アスミアさんは人一倍たくさん食べているのでは?」
「人を勝手に大食いにしないでよぅ。むしろボクはあんまり食べてない方だと思うよぅ。特別な事がなければ質素なスープだけとかの日も多かったし」
「そ、そんな……」
何故か、この世の終わりを見た、みたいな顔になるディアーネ。うん、ホント訳分かんないんだよぅ。
「そんなはず、ありませんわ! じゃないと、その、そんなおイモみたいに大きく育つはずが、ありませんもの……!」
とか何とか言いながら、視線をボクの顔から下、胸元あたりに。あーなるほど、さっきから話してるのってそういう……って、はぁぁ!?
「ちょ、ちょっと待ってよぅ! まさかボクをイモ娘って呼んだのって、ボクの胸を見て言ったのぅ!?」
「むしろ他に何がありますの! さっきまであなたが農家出身だったことなんて知りもしなかったのですから、あなたの身体的特徴を見て言ったに決まってるでしょう!」
「だぁれの胸がおイモみたいだってぇぇぇ!! じゃ、じゃあボクも君と同じ事を言ってあげるもん! このぺちゃんこぉ!」
「だぁれがぺちゃんこですってぇぇぇぇぇ!?」
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