お、おししょー様が言うから一緒に狩りをしてあげるだけなんだからね!

「まぁ、そういう事なんだよぅ! だからラングさん、ボク達に任せて欲し」

「お、お待ちなさいな! 分かりましたわ、わたくしも協力いたします。あなた達と一緒にゲイルハウンドを狩って差し上げますわ!」

「……えーー」


 横槍を入れないでよぅ、冷徹女。


「な、何ですのその態度は! もっと喜びなさいな!」

「いいよ、ボク達だけでどうにかするから。ね、おししょー様?」


「いや、彼女の申し出を受けよう」

「えぇぇぇぇ……?」


 予想外の言葉に、ボクはすごくイヤそうな顔になってしまった。けど冷徹女は反対に明るい顔になる。


「だが、それならば私は手を出さない。二人だけで狩るんだ」

「えぇ!? 何でだよぅ!」


 さすがにそれは納得できない。おししょー様は続けた。


「常に私が君のそばにいるわけではない。ゲイルハンドに関してはすでに習性も対策法も教えたはずだ。君一人では難しいかもしれないが、彼女と協力すれば狩れるだろう」

「で、でも! 初めて会ったばかりの人と一緒に闘うのって難しいよぅ」


「冒険者となれば、時に他の冒険者と共闘する事もある。様々な相手と連携できるに越した事はない。特に、彼女は言霊使いだ。有意義な時間になるだろう」

「むぅぅぅ……じゃあおししょー様はどうするんだよぅ」


「村の防衛に回る。群れの長を刺激する事で、興奮した配下のドッグハウンドが無差別に人を襲う事も予想されるからな」


 元々は彼女に防衛だけでも頼もうと思っていたんだが、とおししょー様が冷徹女に向き直る。


「問題ないだろうか?」

「ええ……まぁ。あたしの言霊は防衛よりも狩りに向いてますし」


「それと、君の言うように冒険者は依頼に則って動くのが基本だ。君が村人の直接の依頼を断ったのも間違いではないだろう。それでも手伝ってくれるのか?」

「イモ娘さんが言うように、冒険者の本分を果たすべきだ、と思っただけの話ですわ」


 ボクをちらりと見てくるので、何となく鼻を鳴らした。


「そうか。君の名は?」

「ディアーネ、ですわ」


「ではディアーネ。ゲイルハンドを狩って村の安寧を取り戻す為に一時、力を貸してくれ」

「お任せくださいな。それと……あなた」


 冷徹女がボクを見る。背はボクよりも高いけど……うん、胸はボクよりもちっちゃい。見下ろされてる屈辱に耐える為にも、ボクは敢えて胸を張って見返す。


「何だよぅ」

「アスミアさん、でしたわね。失礼な呼び方をしてしまいましたが、それはそちらも同じ事。ここは両成敗、という事にいたしませんか?」


 ……ボクの事を名前で呼ぶから、ボクもそうしろって事かなぁ? 

 まだちょっと引っかかる事はあるけど、表情からして多分それはあっちも同じだろう。ここでボクがごねたらただのわがままなイモ娘になっちゃう、よね。


「うん、分かったよぅ。よろしく、ディアーネ!」

「ええ、こちらこそ」


 握手……したのはいいけど、なんかやけに向こうの力がこもってたので、ボクも負けじと握り返す。


「痛っ!? あ、あなた、どういう力してますの!」

「ボク、普通に握り返しただけだもん!」


「普通でこれって、どう考えてもおかしいですわよ! この怪力娘!」

「うるっっっっさいんだよぅ!」


 いけないいけない。負けたくない一心から、魔力の制御がちょっと不安定になって力が強くなってたみたい。気を付けなきゃ。


「……お聞きの通り、これは正式な依頼ではありません」


 ボク達のやり取りを見ていたおししょー様が、ラングさんに声を掛けた。おししょー様、ちょっと呆れたように溜息を吐いてた気がするけど、気のせいだよね? よね?


「通りすがりの旅人がゲイルハンドの話を聞き、興味本位からそのテリトリーに足を踏み入れる。ただそれだけですので、報酬など必要ありません」

「だがよぅ、それじゃあさすがに俺達の気が済まねぇぜ」

「……では、この話は一旦保留としましょう。対象の討伐が完遂できるかどうか、現時点では不透明ですからね」


 むぅ? おししょー様ってば、ボクの事を信用してないっぽい? カチンときたボクは、おししょー様とラングさんの間に立った。


「おししょー様、ボクを信じてよぅ。ちゃんとこなしてみせるもん」

「アスミアさんの言う通りですわ。例え彼女が足を引っ張ろうとも完全完璧にその犬っころを討伐して差し上げます!」

「何でボクが足を引っ張る前提なんだよぅ! ……あ、そうだ! ラングさん、ボク達がちゃんと出来たらたっくさんご飯食べさせてよぅ。それでお返しって事で!」


 結局、美味しそうな料理の作り方とか匂いとかは堪能できたけど、まだ一口も食べられてない。それくらいは望んだっていいよね?

 ラングさんはちょっと呆気に取られてたけど、腕を組んで不敵に笑った。


「へへっ、任せときな。この俺の料理、たらふく食わせてやるぜ!」

「ゲイルハウンドは狩りを夜に行う事が多い。ちょうど日も暮れた頃合いだ、探すなら早い方がいいだろう。だが、無理はするな。最悪偵察だけでもいい」


 二人がそう言った事で、他の村人達も拍手交じりに湧いた。まるでもうゲイルハウンドを狩って来たみたいな騒ぎだ。

 これをまた、あんな重々しい空気になんて変えたくない。その為には、ボクが頑張ればいい。それだけのこ……っ!?


「ほら、何をぼーっとしてるんですの!」


 ばしんと肩を叩かれ、よろめくボク。ボクを後ろから叩きやがったディアーネがちょっと勝ち誇った様に言う。


「善は急げですわよ! 遅れたら置いていきますからね、アスミアさん!」

「だぁれに言ってるんだよぅ! ディアーネこそ、遅れても待ってあげないから!」


 ボクとディアーネは食堂の喧騒に押されるように外へ。空はもうすっかり、夜。

 って事は、どこで襲われたっておかしくない。ボクとディアーネは頷き合い、森の奥へと足を踏み出した。

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