ぶらり二人旅、目指せ冒険都市!
ふらふらと寄り道をしながら旅をしているボク達だけど、当てのない旅ってわけじゃない。ちゃんとした目的地がある。
その名は『冒険都市ネスティス』。
ド田舎のアゾート村で暮らしてたボクでも知ってる大きな街だ。ボクが知ってる街の名前って言えば、このネスティスと『王都ラドン』くらいのものだし。
で、ネスティスにはこの街にしかない施設が二つある。その内の一つが
冒険者は魔物対策に必要不可欠な人材だから、それを統括する組織はこの国、『リルベール王国』の中心にあった方が良い、って事でネスティスが出来て、今みたいにすっごく大きな街になったんだって。冒険都市、って名前はそこから来てるんだって。
で、冒険者になる為にはその冒険者協会ってとこで登録? しないといけないらしい。つまりボクはまだ、半人前ですらないただの農民だって事。
ちょっと悔しい。ハイオークだって倒せたのにぃ。
「まぁそうしょげるな。君は既にGかFランクに匹敵する実力と実績を持っている。それは私が保証するから安心してくれ」
おししょー様が言う。野宿に使った小さな森を抜け出て街道に出た辺りの事だ。
独り言でちょっと不満を漏らしただけだったんだけど、聞こえちゃってたんだ……なんかちょっと恥ずかしい。
「え、えと、ランク、ってどういう事なのぅ?」
なので、質問する事で恥ずかしさを紛らわせてみる。前を行くおししょー様が歩く速度を緩めながら振り返った。
「そうか、説明して無かったな。冒険者にはランク制度があるんだ。上はA、下はJランクの十段階で評価される」
「評価……って事は、強いか弱いかで決まるのぅ?」
「そうなるな。本来ならJランクから始まるが、ハイオークを単独で倒せるほどの腕があるならばそれなりの評価は貰えるはずだ」
「ふぉぉ……!」
何かとっても、冒険! って感じがしてきたよぅ。これからもっと強くなればもっともっと高いランクになる事だって出来るはずだし!
「よぉし、それならこの勢いで一気にAランクまで」
「それは無理だ」
……おししょー様は、なんて言うかこう、ボクのやる気を絶妙なタイミングで削ぐ癖みたいなモノがあるみたい。こうやって水を差されたのは一度や二度じゃないもん。まぁ、調子に乗るな、って事なんだろうけど。
よっぽどボクがイヤそうな顔をしてたんだろう。おししょー様はボクを宥めるように言葉を付け足した。
「いや、すまない。君の実力や才能は認めているし、鎌の扱いと魔力の扱い方、どちらも伸びしろはかなりあると思う。だが、ランクに関しては明確なルールがある。言霊が使えなければCランク以上にはなれない、という基準がな」
あ、なるほど。魔物に対抗する一番の手段は言霊なわけで、言霊使いの方が強いに決まってる。魔力は扱えても基本はヘルサイス二本で魔物と闘うボクにとっては、越えられない壁ってヤツだ。
「むぅ、言霊かぁ……ボクも早く使えるようになりたいなぁ」
「あぁ、それなんだが……アスミア。もし知らないのであれば早めに伝えておくが、魔力を扱えても言霊に目覚める事の出来ない人はたくさんいるぞ?」
「……へ? そなの?」
魔力が使える=言霊の素質があるって思ってたのに。
「それじゃぁ、ボクがどれだけ頑張っても言霊に目覚めない、って事もあるのぅ?」
「無論、あるだろうな。だがそう悲観する事はない。言霊に目覚めた冒険者は強制的にCランクに格上げとなるわけだが、その大半は戦闘経験が未熟、あるいは言霊に頼り過ぎるきらいがある。むしろ魔力の操作に熟練してDランクまで上り詰めた冒険者の方が魔物討伐の腕は上だ。ランクにばかりとらわれ過ぎてはいけない」
「そっかぁ……っておししょー様? なんかもうボクが言霊に目覚めない前提で話をしてる気がするんだけどぅ」
「す、すまない。まぁ……言葉のあやだ、気にするな」
「もーー」
ぷんぷんと頬を膨らませて怒……ったフリ。おししょー様が慌てる姿を見るのが最近ちょっと楽しくなってきちゃった。ごめんね、おししょー様。
ボクは駆け足でおししょー様の横に並ぶ。おししょー様はやっぱりばつが悪そうだったけど、怒ってないよぅ、って言うとちょっとだけ安堵の息を吐いた。
さて、昨日は野宿だったけど、おししょー様の持ってた地図によれば今日は小さな村まで行けるはず。今はお昼過ぎで、ここから予定通りに行けば、だけど。
アゾート村周辺の地図とかは村長さんの家にあったけど、おししょー様の持ってる地図は王国とか皇国まで描いてあるから、とにかく規模が違う。一日歩き通しだったのに、地図で確認すると爪が伸びたくらいの距離しか歩いてなくて軽くショックだった。
さて、そうなると村に着くまで大分時間があるはず。で、おししょー様が一度黙ってから次に喋り出すまで待ってると陽が暮れちゃう。
「そう言えばおししょー様?」
だから、新しく話を始めるのはだいたいボクの方から。これも弟子の大事なお仕事なんだよ、うん。
「どうした」
「言霊について訊きたいの。おししょー様の言霊」
ぴく、とおししょー様の眉が動く。うん? 初めて見る反応かも。
「……私の言霊が、どうかしたのか?」
「うん。確かおししょー様の言霊って〝地〟の言霊なんだよね? あれをもう一回見てみたいなぁ、って」
言霊には一文字、その言霊を象徴する言葉が付くらしい。カンナの言霊は〝水〟で、文字通り水に関するモノや水から連想できるモノを放つ、みたいな感じらしい。
言霊の勉強をしてるカンナに〝地〟の言霊について訊いてみたけど、本には載ってなかったみたい。だから、もう一度見てみたい。それだけなんだけど、
「……すまない、アスミア。今は、出来ない」
何で? と聞く事も出来ないような、ちょっと不思議な圧迫感がそこにあって。
「そっかぁ」
だから、ボクもすっと引き下がる事にした。おししょー様にはおししょー様の事情があるんだろうし。
「それと、一つ頼みがある。私の言霊……〝地〟について、誰にも口外しないで欲しい」
「うん、分かった!」
力強く頷くと、おししょー様は相好を崩して元の顔に戻った。
「すまない、ありがとう」
「にしし、ボクはおししょー様が嫌がるような事なんてしないよぅ。でも、今は、無理なんだよね? なら、いつか見せて欲しいよぅ」
「……あぁ、そうだな。約束しよう」
ボクの頭をぽんぽんと叩くおししょー様。ボクのゆるふわ栗色ヘアーを誰かに触られるのはあんまり好きじゃないけど、この時は全然イヤじゃ無かった。むしろ、おししょー様との仲を深められた事で胸がいっぱいだった。
もっともっと仲良くなりたいなぁ。いつかはおししょー様と弟子、って関係じゃなくなるのかもしれないけど……、
「う、うわぁぁぁぁぁあ!!」
「っ!?」
白昼に降り注ぐ陽光を切り裂く、悲鳴。ボクとおししょー様は同時に声の方を見やった。
遠くの方に、人影が見える。二つ……いや、三つかな。
そしてその後ろの方に、明らかに人間じゃないシルエット。あれは……犬っぽいけど、魔物だ!
「やれるな、アスミア!」
「勿論だよぅ!」
初めて闘う魔物だけど、おししょー様の話に何度か出て来たヤツに違いない。特徴も対策法も分かってる。ボクでも、やれる!
剣を手に走り出すおししょー様を追って、ボクもヘルサイスを両手に構えた。
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