ラスボス現る……と思ったら現れませんでした

「ばっちゃから許可を貰う、かぁ……」


 村長さんにオークを皆殺しにした事を報告し、確認の為に村長さんや村の男衆数人とオークの拠点まで行ったりしてる内に、日が暮れてきてしまった。おししょー様と別れたボクは、いつもの畦道をとぼとぼと歩く。


 ハイオークを倒す事が出来れば全部上手くいくと思ってたのに、まさかのラスボスがばっちゃだとは……むぅ、困った。


「いやさ、別に悪い事をしようって訳じゃないんだし」


 なのに、いざばっちゃに『冒険に出るから農作業はもう出来ない』と言うのは何かヤダ。気が引ける……うぅん、後ろめたい、かな? 

 ボクだって気分で農作業をサボったりする事はわりとあるし、それが元で口喧嘩する事もたくさんあったけど、何と言うかそれとは別の問題と言うか。


 逆に、冒険に出るボクに『穀潰しのポンコツがいなくなって助かるねぇ』とか言ってきたりして。むぅ、それはそれでムカつく。


「あーもう! なんかめんどくさいよぅ!」


 頭の中がモヤモヤしちゃって、ボクは思わず叫んでしまった。と、


「ミア。そんな叫ぶと近所迷惑だよ」


 声が呼ぶ。夕色の降り注ぐ畦道の向こうから、見慣れた人影が歩み寄ってきていた。


「あ、カンナ」

「やはー。って、どしたの? いつにも増して汚らしい格好だけど」


 ……確かに、オークとの激闘をくぐり抜けたボクのシャツとかパンツはすっごい色になっちゃってたけど、汚らしい格好はひどいと思う。ボクは花も恥じらう乙女なのに。

 まぁいいや。今は怒る気になれないし。


「えっとね、さっきまでオークと闘っててさ」

「は……? オークって、確かリューネさんが討伐しに行ったってヤツでしょ?」


「うん。ボクも弟子にしてもらう試験として連れてってもらったの。で、見事弟子にしてもらう事が出来たのだ!」

「へぇ」


 パチパチ、とすっごい控えめな拍手の後、カンナはメガネを押し上げながらボクの横に並ぶ。


「で、怪我とかはしてないの? あんた、ちょっと前はそのオーク相手に苦労したって言ってたでしょ」

「うん、慣れれば結構簡単だったから。ハイオークと闘う時にちょっと死にかけたけど……次やる時はもっと余裕で勝てる気がする!」

「あっそ。なんかさ、ミアって日に日に人間離れしてくよね」


 むっかぁ。それを言ったら、言霊が使えるようになったカンナもわりと普通じゃなくなってる気がするけど。

 頬を膨らませて抗議するボクに、ごめんごめん、と絶対にごめんと思っていないような口振りでカンナが笑う。


「で、それなら何でそんなに困った顔してるの? 冒険者の弟子になれたのに」

「それがさ……」


 おししょー様の出した条件を話す。おししょー様はこの村で為すべき事は終わったから、明日の朝には村を発つって言ってた。つまり、今日の内に勝負を付けなきゃいけない。


「なるほどね。でもミア、前にも言ったと思うけど、ジルバさんはあんたが冒険者になるって言っても反対はしないと思うよ?」

「そう、かなぁ」


「そうだよ。あんたは深刻に考えすぎなの。普段は能天気なくせに」

「一言余計だよぅ!」


 けど、そっかぁ。ボクの考えすぎかぁ……うん、そうだよね!


「ありがと、カンナ! ボク、とっととばっちゃと話してみるよぅ!」

「あぁ、うん。ま、頑張って。明日村を出るんだよね? 見送りくらいはしてあげるから。あんたの唯一の友達として」

「だから一言余計なんだよぅ!」


 いいもん。ボクが将来有名な冒険者になっても、カンナにはサインとか書いてあげないもん。後で謝ったって知らないんだからね!


「んじゃま、頑張れミア」

「にしし! うん、頑張る!」


 カンナに別れを告げ、ボクは走り出す。善は急げ、って言うし、さっさとばっちゃと話をするんだ!

 オーク狩りで疲れた体に鞭打ち、一目散に家へ。ボクは力いっぱいにドアを開け、思いっきり息を吸い込む。


「ばっちゃ! ボク、聞いてもらいたい事……が……?」


 萎む声。家の中には、誰もいなかった。

 用意してた朝ごはんとかは無くなってるし、ばっちゃが農作業をしてた痕跡は色んなとこに見えるのに。


 見回すと、一つの書置き。


『ちょいと出てくるよ。先にメシ食って寝な』


 あぅ……思いっきり出鼻を挫かれたんだよぅ……。

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