☆祝☆ 弟子入り、なんだよぅ!

「よくやったな、アスミア」

「ふわっ!?」


 すぐ後ろに、おししょー様がいた。あまりに驚いちゃって飛び退くボク。


「む……すまない。驚かせるつもりは無かったのだが」

「う、うぅん、ボクも大袈裟に驚いちゃってごめんなさい」


 むぅ、おししょー様ってばすっごいカッコいい人だから、近づかれ過ぎると余計に驚いちゃうんだよなぁ。本人がそれを自覚してないっぽいのも余計にタチが悪い。


「え、えぇと、おししょー様もハイオークを倒した、んだよね?」


 恥ずかしさを誤魔化すために話題を逸らしてみる。辺りを見回してみるも、立っているオークやハイオークの姿はどこにもない。


「ああ。そちらのハイオークに対処するべく、言霊で手早くこちらのハイオークを倒したのだが……任せて、と君が言うから少し様子を見させてもらった」

「あ……そっか。おししょー様は言霊があるんだもんね。なのに、しゃしゃり出ちゃってごめんなさいだよぅ……」


 おししょー様がハイオークに苦戦する、なんて早とちりしちゃってボク、すっごいバカみたい。うぅ、恥ずかしい。


「いや、謝るのは私の方だ。君にオークの相手を安心して任せられると思い、剣のみでハイオークを倒す練習を、などと考えてしまった。戦場にあるまじき油断、挙句の果てに君の命を危険に晒した。すまなかった」


 深々と頭を下げる。真面目なおししょー様らしいや。


「そ、それならお互いダメダメだったって事で、チャラにしようよぅ!」

「ふ……そうだな。予定通り、オークの集団も制圧できた事だしな」


「はい、おししょー様のおかげで皆殺しに出来ました!」

「あぁ、うん、まぁ、そうだな。確かに皆殺し、だな」


 ちょっと微妙な表情のおししょー様。むぅ、皆殺しって言うのそんなに変なのかな?


「しかし、見ていてひやひやしたぞ。一歩間違えば、君は死んでいた」

「にはは……えぇと、うん。それくらいじゃないとダメかな、って思って」


 ハイオークは体を魔力で覆って、そのおっきな体をもっと強化して闘っていた。つまり、ボクと同じ怪力バカなわけ。なら、ボクと闘い方も似てるのかな、って思った。

 となると、攻撃の時に体の魔力を得物に集中させてるんじゃないかなぁ? そう考えたら、拳で殴りつけただけなのにあんなにおっきな穴を作ったのも納得がいく。


 なら、攻撃の瞬間だけは体を纏う魔力がめちゃくちゃ減るはず。その間ボクのヘルサイスでも斬れるって思って。

 って事で、捨て身で攻撃を避けつつ、魔力がハイオークの体を覆い直す前に仕留めた。ちょっと危なかったけど、悪い判断じゃなかった……って思いたい。


「魔力による攻撃を見極め、隙を突いて反撃に転じた事は評価できるが、やはり無鉄砲すぎるな。命がいくつあっても足りない。闘いの基本はまず自分が生き残る事だぞ?」

「うぅ、精進するんだよぅ」

「まずはその鎌から見直した方が良いな。扱い慣れた得物の方が良いのは分かるが、元が農具ではいくら魔力で強化しようと切れ味にも耐久性にも限界がある」


 むぅ、やっぱしそうなのかな。まぁそもそもこれ、草を刈る為の鎌だもんね。


「……とは言え、見事だ。君はきっと良い冒険者になれる。師として、追い抜かれないように気を引き締めないとな」

「またまたぁ。ボクなんておししょー様に比べたら全然……え? 師って、それってもしかして……!」


 目を輝かせるボクに、おししょー様は柔らかく相好を崩した。


「ああ、合格だ。君を私の弟子として正式に認めよう」

「やったぁ! ありがとう、おししょー様!」


 あまりの嬉しさに、ボクはヘルサイスを投げ出しておししょー様に飛びついちゃった。勢いのままにぎゅうっと抱き締めると、おししょー様が今まで見せた事がないくらいに動揺した顔になってしまう。


「あ、アスミア! 嬉しいのは分かったから、一度離れてくれ」

「あ! う、うん、ごめんなさいだよぅ!」


 おししょー様、ちょっと顔が赤いや。強く抱きしめすぎちゃって苦しかったのかな? うぅ、悪い事しちゃったんだよぅ。

 服を整え直したおししょー様はこほんと咳払い。まだほんのりと赤い顔を逸らしながら続ける。


「一つ、訊かせてくれ」

「? うん」

「君は冒険をする為に冒険者クリーヴァーを目指すと言った。その思いは、今も同じか?」


 冒険者は冒険をするだけじゃなく、人々を護らなきゃダメ。おししょー様はあの時、そう言ってボクを怒った。

 だからここは、また怒らせちゃわないように『同じじゃない』って答えた方がいい……んだけど、


「同じだよぅ。ボク、冒険をしてみたい」


 嘘は付かない。付きたくない。だって、この人は今この時から、ボクのたった一人のおししょー様になったんだから。


「でも、おししょー様みたいな冒険者にもなりたいとも思うよぅ。誰かを護る……なんてえらそーな事は言えないけどさ」


 これも嘘じゃない。ボクの馬鹿力で誰かを助けられたら。バカなボクでも誰かの役に立つ事が出来たら。

 きっと、嬉しいもんね!


「……ふ、そうか。今はそれでいい。弟子がどう成長するかは師である私次第、だからな」


 そう言って笑うおししょー様。あ、こんな柔らかい感じの笑顔、初めて見たかも。

 おししょー様とホントの意味で仲良くなれた。そんな気がした。


「しかし、そのおししょー様というのはやはり私の事なのか。むずがゆいな……」

「え、あ……」


 そう言えばボク、さっきから普通におししょー様って呼んじゃってる気がする。弟子として認められてから呼ぼう、って決めてたのに。


「ご、ごめんなさいだよぅ。イヤならやめるけど」

「イヤではないのだが……まぁ、好きに呼ぶといい」

「は、はい! おししょー様!」


 良かったぁ……嫌われたかと思っちゃった。

 何にせよ、これでボクはおししょー様の弟子! 冒険者になる為には、冒険者協会ってとこに行かなくちゃいけないらしいけど、これで第一歩だ!


「さて。君を弟子にする為の最後の条件だが」


 第いっ…………はい? 


「えと、おししょー様? ボク、弟子になれたんだよね?」

「ああ。私は、許可を出そう。だが、君が私の弟子となって旅に出るにはもう一つ許可を得る必要があるだろう?」


 おししょー様の顔は、心なしか悪戯っぽく見えた。


「条件は一つ。育ての親から旅立つ許可をもらう事、だ」

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