だってオークじゃもう満足できないもん
慣れてくると、動きがのろまなオークの攻撃を避けるのはすっごく楽になった。
でも、避けつつ走り抜けつつ反撃する、っていうのはすっごく難しくて、半分以上狩り損ねてしまった。でも、リューネさんはそれを目にも止まらぬ剣技であっという間に仕留めていく。
やがて、オークの襲撃が途切れる。もう皆殺しに出来たのかな? と思ったのも束の間、鬱蒼とした木々に阻まれていた視界が一気にばぁっと開けた。
明らかに誰かの手で作られたっぽい、木と丸太で出来た塀。でもここは村の人達が絶対に来る事のない山奥……きっとオークの仕業だ。って事はつまり、
「ふむ、簡易的とはいえ大きめな拠点だな。オークのモノにしては上等だ」
リューネさんが木の塀を見上げて剣にこびりついた血を払う。何となくボクも真似して、ヘルサイスについた血を近くの葉っぱで拭い取った。
「群れの長であるハイオークは恐らくこの中だ。まだやれるな? アスミア」
「勿論!」
「よし、取り巻きの排除は任せる。行くぞ!」
勢いよく突入していくリューネさん。あれだけ走ったのに、全く息が切れてないっぽい。山でよく狩りをしてるボクでも結構疲れてるのに。
元々、ハイオークの相手はリューネさんがする事に決まっていた。普通のオークと違って、魔力を操る危険なヤツだからって。
心配されているのは分かってるけど、やっぱりちょっと寂しい。でも今はそんな事言ってらんない。リューネさんがハイオークとの闘いに集中できるよう、他のヤツの相手をするのがボクの仕事だ!
一つ二つ深呼吸を挟み、ボクはリューネさんに続いてオークの拠点に突入する。リューネさんとハイオークの闘いは既に始まっていた。
「でっか……!」
オークも十分大きいけど、それよりも二回りくらい大きい。全力でジャンプしてようやく喉まで攻撃が届くかなぁ、って感じ。
体が大きいから攻撃が避けにくそうだし、防具もすっごくゴテゴテしてて丈夫そう。他のヤツのよりも大きな棍棒は、ボクのヘルサイスで受け止めようとしたら丸ごとぺしゃんこにされるかも。
それでも、リューネさんは終始優勢を保ってハイオークとやり合っていた。棍棒を紙一重で避け、確実に一撃ずつ剣で斬り付けていく。オークよりも体が硬いのか、リューネさんの剣でも致命傷は与えられてないみたい。
「っと、いけない!」
見とれてる場合じゃない。殴り掛かって来た取り巻きオークから距離を取りつつ、一匹ずつ確実に仕留めていく。
うん、もうオーク相手に一対一で手こずったりしないもん。早く全部片付けてリューネさんとハイオークの闘いを見て色々勉強したい。
そんなボクの心の緩みを突いたかのように。ぞわりと、悪寒。
「……ぃっ!?」
背後から、攻撃。前に飛び込むようにして辛くも避ける。
危なかった、もうちょっと遅かったら確実に殴り殺されてた。冷や汗が全身を駆け巡る中、振り返る。そこにはオークが……、
「ヤルナ、ニンゲン」
「……こいつ、違う……!」
二回りは大きな体、より重厚な得物。ボクの三倍くらいはありそうな巨体の威圧感は、オークのそれとは段違いだ。
「くっ、ハイオークが二体も……逃げろアスミア! 君には無理だ!」
リューネさんが声を張り上げる。ボクはヘルサイスを手にハイオークを見上げる。
ボクはリューネさんの弟子になりたい。だから指示には従わないといけない……、
「……ダメだよぅ!」
その指示に従ったら、今度はリューネさんがピンチになる。リューネさんでもハイオーク二体を相手にするのはかなりきついはず。
ボクの仕事は、リューネさんが向こうのハイオークとの闘いに集中できるように他のヤツを倒す事。こいつだって、他のヤツだ!
行け、ボク! リューネさんを……未来のおししょー様を、助けるんだよぅ!
「おししょー様! ボクに任せてよぅ!」
両足を叱咤し、突撃。ハイオークも棍棒を振り回して反撃してくる。
オークのそれと比べて振るスピードは速いけど、動き自体は分かりやすくて何とか避けれた。ボクは棍棒の一撃を避け、巻き起こす風圧に吹き飛ばされない様に足に力を入れつつ、思い切りジャンプした。
でも、ちょっと不安定だったのかハイオークの首まで届きそうにない。それなら……!
「うおりゃぁっ!」
重厚になっているとはいえ、元々は粗い造りのハイオークの防具。その隙間に差し入れるようにして、ハイオークの体をヘルサイスで切り裂く!
「っ!?」
そう思ってたのに、切り裂けなかった。手応えからして、多分ハイオークの肌を引っ掻いた程度だろう。
思っていた以上の硬さに戸惑って、つい反射的に距離を取ってしまう。けど、それが結果的には幸運だった。
「うわぁっ!」
ハイオークが棍棒を構え直すより先に、得物を握っていない左手で殴りつけてきた。歪な拳は空を切り、そのまま地面に突き刺さる。
どごぉん! と轟音が響き、見やると地面に直径一メートルくらいのくぼみが出来ていた。
「ど、どんな馬鹿力してるんだよぅ……?」
普通のオークは、棍棒を振り下ろした時にちょっと地面に穴が空く程度だったのに、こんなに違うのか。
ヘルサイスだってそう。魔力で強化されてるはずのボクの鎌は、ハイオークの体が相手だとまるで金属に殴り掛かってるみたいで。
(って、そっか。ハイオークも魔力を使ってるんだっけ)
ついさっきおししょー様に教わったばかりなのに、もう忘れてた。魔力を全身に纏っているからあんなに体が硬いんだ。
って事は、あの拳の威力も攻撃の時に魔力を集中させてるから…………んん?
「……にしし! それならボクにもやれるかも!」
ヘルサイスがまともに通用しないなら、通用させてみせるだけ!
その為にボクがすべき事は、二つ。
「よぉし、ハイオーク! これで決着をつけてやる! 勝負だ!」
まずはハイオークを挑発する事。言葉は一応通じるはず。
「コロス」
……通じてる、のかな? 通じてるよね。通じてる事にしよう!
棍棒を手に、こっちに歩み寄るハイオーク。何て言うか、全身から殺気みたいなモノが漲ってるように見える。それとも、アレが魔力なのかも?
まぁいいや。ボクが次にすべき事。
「行くぞぉぉぉ!」
〝死ぬ気で〟迎え撃つ。ただそれだけ!
走り出したボクを見て、ハイオークが棍棒を持ち上げる。ただの拳であの威力だ。棍棒を喰らったら、きっと死ぬ。
でも、それでも! 冒険者になりたいなら、やらなきゃ!
「シネ」
「死なない!」
ギリギリまで。ギリギリまで棍棒をひきつけ、死の一撃を紙一重でかわす。と同時に、ボクはハイオークの懐まで潜り込んだ。
回避と同時に反撃するボクに、敵は全く反応できていない。隙だらけの足目掛けてヘルサイスを振るった。
「~~~~~~!」
舞う血飛沫。今度は、切り裂けた。
苦悶の声を上げて膝をつくハイオーク。狙うべき喉元が。あっちから近寄って来た。
ボクは足をぐぐぐっと折り曲げて力を貯めこみ、一気に跳び上がる。そして。
「てやぁぁぁぁあ!!」
両手の得物を力いっぱいに振りぬいた。左右から鎌で切り裂かれたハイオークの首が胴体を離れ、遅れて血が噴き出す。ぐらりと揺らいだハイオークの体は、転がり落ちた首を追いかけるかのように崩れ落ちた。
ハイオークがどれだけ強靭な体だろうと、魔力を操ろうと、首を刎ねられて生きてられるわけがない。ボクは深く深く息を吐きだし、右手を天に突き上げた。
「よっし……ボクの、勝ちだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます