バカは言葉よりも行動で理解するのです
「
目の前にリューネさんの顔がある。鼻先が触れ合いそうなくらいだ。けれどドキドキはしなくて、ちょっとだけ怖い。
リューネさんの声はやっぱり静かだけど……ボクに対して、ホンキで怒ってる。
「君が魔物を狩れなかったら人々が死ぬかもしれない。あるいは、君自身が死ぬかもしれない。それを自覚できない者に冒険者を名乗る資格はない」
「死、ぬ……」
「そうだ。ここは前線から離れているから実感は湧かないだろうが、私達王国側と魔物の支配する皇国の国境はひどいものだ。あの光景を見たら、冒険者をただ〝冒険するだけ〟の存在だと言い放つ事などできない」
「…………」
確かに、この辺りは基本的に平和だ。派遣されて来た兵士さん達もみんなそう言う。同じ王国内でも、オークが出る事なんて日常茶飯事な村もあるらしいし。
「冒険者。弟子。言うだけなら簡単だ。今の君には、それを形に出来るだけの意志があるとは思えない」
「意志……」
「そうだ。……だから、もう帰れ。私も今から出かけるのでな」
捩じり上げていたボクのシャツから手を離すリューネさん。そして昨晩も来ていたコートを着込みながら靴を履き始めた。
「出かけるって、どこへ……?」
「君には関係ない事だ。失礼する」
どこか逃げるような口振り。リューネさんはさっさと支度を整えると、オンボロドアに立てかけていた剣を手に取り、
「……女性の胸倉を掴むなどと、騎士にあるまじき失礼な真似をした。すまなかったな」
では、と小屋の外へ。ちゃんと女の子として扱ってくれた事に、ちょっとだけ嬉しくなる。村だと怪力娘だの野生女だのイモ娘だの、散々な評価だし。
(冒険者になる、意志……かぁ)
正直、よく分かんない。こういう小難しい事を考えるのは昔から嫌いだし。
でも、冒険者になる事を諦める……とはならなくて。
「……うん。やっぱりボクは、リューネさんの弟子がいいや」
自分でもよく分かんないけど、リューネさんに怒られた事で余計に冒険者になりたいって気持ちが強くなった気がする。
言霊が使えるようなすっごい冒険者さんなのに礼儀正しくて、ボクみたいな小娘にも真摯に向き合ってくれる。お金とかじゃなくて沢山の人を護る為に冒険者をしている、っていうのもすっごいかっこいい。
きっとボクも、なりたいんだ。リューネさんみたいにキラキラしてる、かっこいいい人に。
なら、どうしよっか? そんなの、決まってる。
「にししし……逃がさないよぅ、おししょー様!」
ボク、バカだから。ちょっと拒絶された程度じゃ諦めてあげないもん。
遠くで小さくなってるリューネさんの背中を見つけ、一目散に走りだす。
とゆー事で、その日。ボクはすっごい冒険者さんに弟子入りしたのだった。……ボクが勝手に言ってるだけ、だけどね!
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