黒い死神
奏は母親である紫苑を探し商店街に来ていた。
行きつけの店などを探してみるも、それらしい姿は見当たらない。知り合いのおば様方に聞いてみるも一個人を見かける確率はそこまで高くなく、中々に情報も集まらない。
「今日はパトカーが良く走ってるなあー」
交通事故が多いのか、サイレンの音がさっきからずっと行ったり来たりをしている。母親が巻き込まれていなければ良いが……。
さらに探そうとしていると、乾いた音が聞こえてきて耳を疑った。
「今のって……銃声? まっさかー……」
銃声はさらに響いてくる。場所も近い。
何か事件か。興味半分、母親が巻き込まれていないかの不安を半分にその場所へ向かう。
すると向かい側から走ってくる男の姿があった。その姿には見覚えがある。奏の兄、雄介だ。
「お兄ちゃんっ!?」
「奏ぇっ!? 逃げろぉーーーッ!」
「ちょえ何その後ろの……!?」
雄介の後ろには巨大な黒い蜘蛛がいる。
空からトラックを潰すように現れたソレは近くの獲物を探し複眼を様々な方へ向かせていた。
ここで攻撃に該当する行動をとらなければ雄介が追いかけられる事もなかった。
残念なことに彼らの目的を知らぬ雄介からすれば、トラック転生は避けられたけど異世界の化け物が目の前に現れたである。
しかも目がいろんな方向を見ている中で、助けた……助けようと突き飛ばした親子の方を見たではないか。
怯える少女の姿が、悲鳴を上げる母親の姿が目に入る。
そこで雄介は勇気を出して蜘蛛の気を引こうとした。
通学鞄は親子の元に駆け出した時に投げ捨ててきた。ポケットの中にはスマホくらいしか入っていない。それを投げるのを一瞬躊躇うも、こうしなければ二人が殺される。早合点と共に投げつけたスマホは見事攻撃行為と思われた。大蜘蛛の目が雄介へと合わさる。
「く……」
雄介は怯えるも、震える足を立ち上がらせて親子とは逆の方向へと走り出す。
「おい、こっちだ!!」
叫び声も効果があったのか、大蜘蛛は雄介を狙いのっしのっしと動き出した。
幸い動きは遅いものの、運が悪ければ跳ねて来てそのまま潰される。そうとは知らない雄介は取り合えずその遅さに安心し、化け物から逃げる事に集中した。
その途中警察が駆け付け助かったと思ったら、銃弾が効かず逆に警察が殺された。目の前で人が死んだ事に吐き気を催し、実際に吐いてしまうも逃げる事に集中する。
途中、尿意がした。おしっこがしたい。凄く、おしっこが、したい。
だが、トイレに立ち寄っている内に化け物に襲われてしまうだろう。大蜘蛛は雄介を敵としてロックオンしている。こりゃもう駄目だ。
止められない尿意はズボンの股間部を濡らしていく。温かな液体が染み出し足の方に垂れて靴下を抜け靴へ入り込む。正直気持ち悪いし恥ずかしいことこの上ないが化け物を前にそんなことも言っていられない。おしっこ大量放出しつつ逃げる逃げるわ不知火雄介。
そんな逃げてる雄介の前にいるのは妹奏さん。雄介を見て、おしっこでぬれてしまったズボンを見て、化け物を見て、混乱しているそんな奏の手を取る。
「逃げるぞ!」
「逃げるけどおしっこ漏らした?」
「逃げるぞッ!!」
「うわぁ……」
手を振り払って自分の足で一緒に逃げつつ、漏らしてしまった兄を半目になって睨む。
雄介はその視線に顔を赤らめるも、あれちょっと気持ち良い? とMな感性に目覚めつつあった。大丈夫か。
そんな二人を追う蜘蛛。いつの間にか数が増えている。何でやねんと突っ込みつつ、角に逃げ込むとそこにも蜘蛛が。
「はああ!?」
「なんか多いんですけど。お兄ちゃん蜘蛛に恨まれてるの?」
「知らないって! 兎に角、こっちだ!」
逃げ道を探しそこへ駆け込む。
何故か別のアンチイティーにも狙われた雄介。どんどん追ってくる数は増えていき、総勢十匹の蜘蛛がずらりと道に並んで追ってきた。
体力の消耗が激しく、そろそろ倒れそうだ。倒れたら終わりだジ・エンドだそこが死に場所になってしまう。
無理やり走る雄介に対しまだまだ余裕の奏はこの兄捨ててけば自分だけは助かるんじゃねと捨てるタイミングを見計らっていた。
「ぐえ――ッ!? ぐ……奏」
「お兄ちゃん! 大丈夫かーーーーー!」
「逃げ……」
躓いて頭からこけた雄介は顔を起こして奏に逃げろと言おうとして、奏がそんな自分のことなぞ捨て置きさっさと遠くに行っているのを見て言葉を失った。
奏は言葉ではそう叫びつつ、あばよ兄貴達者でなと見捨てて逃げようとして、自分もこけた。
「あばっ!」
「奏ぇ……」
あ、これ自分たち死んだなと思う雄介。近くに蜘蛛が寄ってくる。
もう終わりだと思ったその時、空から新たな存在が降り立った。
それは雄介の蜘蛛の間に降り立ち、壁の様になる。
蜘蛛と同じ黒い体。桜模様の浮かぶ人型機械。
奏はそれに見覚えがあった。立ち上がってさっさと逃げようとした状態で、その名を叫ぶ。
「コノハサクヤ!?」
その似ているけど違う、でも似ている。そんな奏の声に反応し、コノハサクヤはマスターと設定されていたイザナミを破棄、本来のマスターであるカナデを再度マスターとして設定し、反応を示す。
「お久しぶりです。マスター」
「きえええ!? しゃ、喋ったぁ!?」
マシンナーズが人語を介した事に驚きつつ、新たな闖入者であるコノハサクヤに襲い掛かるアンチイティーを蹴り飛ばした際に発生した衝撃により吹き飛ぶ二人。
二人して重なるようになった結果、うめき声を上げる。
「お兄ちゃん……重い……汚い……」
「すまん……」
おしっこまみれのズボンの股間部が奏のめくれたスカートの太ももを汚す。最悪な気分だった。
コノハサクヤの蹴りによりアンチイティーたちが吹き飛ばされる。そのまま後方へ、二人の横へ並ぶとまた衝撃で体が軽く転がった。めっちゃ痛い。
「マスター、搭乗を」
「うべろばあ……コノハサクヤ……何でここに……話は後で聞かせて貰うから!」
そう言ってコノハサクヤの手に乗り、そのままコックピットへと乗り込む。太ももが地味にぬれて気持ち悪い。
モニターには現在のコノハサクヤの情報が目まぐるしい速度で表示される。懐かしさと共に聞く必要のある大半の情報を得た奏は追加されている武装の一つを使う為にコノハサクヤを動かした。
「
コノハサクヤの強化された刀を抜き放つ。ゼットでゼロである。この前一挙放送していた某アニメのオープニングを口遊みつつ一閃する。
それにより凄まじい衝撃が起きた。その威力は島で戦っているドラッケン
別のアンチイティーが横から飛びかかってくるも、突き刺したアンチイティーを振り払うようにそちらへ投げつけ攻撃を回避。さらに吹き飛んだ先へ武装の一つである小銃を撃ち込めば、先の一撃で装甲が剥がれてた本体へ直撃。緑の血をまき散らしつつその場へと転がる。
ものの数秒での戦闘。しかし手に入れた情報によれば他にもこの蜘蛛がいるのだとか。
兄のことは完全に忘れて、チグサや母が襲われている事も想定し、それを探すべくこの場を離れる。
後に残ったのは蜘蛛だった者の残骸と、物言わぬ死体となった巻き込まれた町の人々のみだった。
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