空から蜘蛛が落ちてきた
空から降ってきたソレを見たアーヴァインは新種の生物の登場に警戒心を高める。
丁度この日はノアの二十六歳の誕生日を祝う為に、船員が総出で島の広場に集まりバーベキュー祭りを楽しんでいた。
共和国滅亡から数えて三十二年ほど。二十五の誕生日もこの島で祝ったが、その当時はイティーたち……彼らにとってのキャットマンとの交流も始まったばかりで、翻訳機も完成していなかった。それでも何か楽しいことをしている事は理解されたらしく、餌付けに近い形でのパーティーとなった。
ノアの船団にとってノア船内で最初に誕生したノアは正にこの船のマスコット的存在だった。何せ一番若い赤子だ。成長も共に見守ってきた。
それから別のカップルができたり、新しい赤子が生まれたりしてノアはお姉ちゃんになった。
それが今では立派なお姉さん。三十路も近いので下手をすればおばさんと呼ばれる日も近いだろう。
そんなノアだが……未だ、結婚はしていなかった。
「ノアよ。誰か良さそうな相手は見つかったか?」
そう聞くのは父であるアーヴァイン。年としてはもうお爺ちゃんな年齢な男である。
「ごめんなさいねお父さん。どうしても船の仲間をそういう相手に見ることができないの」
早く孫の顔が見たい。そんな父の心境を知りつつも、ノアにとっての船団の仲間は家族も同然。弟をどうしても異性として見ることができなかった。
ノアの後に生まれた子供の中には別の子供、中にはノアよりも年上の大人たちと結ばれた者もいた。
なのでこれはノアに限った話になった。
「まあまあ艦長。今日は祝いの席なんですから」
「うむ。ノアよ。二十六の誕生日おめでとう」
レーダー担当のハッコォーンに言われアーヴァインがさっきから全く隠れていない誕生ぴプレゼントの箱をノアに渡す。
ノアは今年は一体何を渡されるのかとドキドキしつつ受け取った。去年はアサルトライフルだった。どうしろと。
「お父さん、今年は何かな?」
「中を開けてみなさい」
言われて開いてみると、中にはまた箱が入っていた。
「箱……?」
それをさらに開くとまた箱が。こけしか! というツッコミを入れる人もおらず、黙々と箱を開き続ける。
そうして遂に中身のプレゼントが明らかになる。黒い宝石のついた指輪だ。何故無駄に箱を使った。
「ええっと、指輪かな?」
「ただの指輪ではないぞ」
とアーヴァインが言うと、ラッミスに皿に取ってもらった肉を平らげた島の長であるキャットマン、ニャーの技術者ノクトがアーヴァインの頭へ上り手を組む。
「うむ。我らニャーの技術とキミたちノアの技術の融合体だ」
「具体的には?」
「その指輪の宝石は身に着けた者の意思に従い力を発揮する。貴様らの言うワームホール技術により、好きな物を宝石より発生する亜空間へ収納が可能だ。さらに取り出すこともできる。取り出す際には貴様の脳内に一覧が自然と分かるようになるので、そこから取り出したい物を念じれば良い」
「便利だけど……無駄に凄い技術だね」
「元々は貴様らの技術であるぞ。我らはそれを再現したに過ぎない」
過去にメルセデス共和国――ノアの知らない父たちの故郷ではこの技術を使った基地もあったと言う。何かと制限が多く、ドラッケン
と、ワームホールの事を思い出していたら気付いた事があった。
「ねえ、これってエネルギー源ってどうなってるの? 私大丈夫? 死なない?」
「何、まさか生命エネルギーを必要とするのか!?」
「待て待て掴むな掴むな揺らすなうぐぐ……」
頭に乗ったノクトの首根っこを掴み大きく揺らす。ノクトが気持ち悪そうに目を回していた。
「お父さんノクトさんが苦しそうだよ。そのままだと話もできないから、放してあげて」
「……で、どうなんだ?」
解放されたノクトがげほごほと咳をした後、二足で立って二人を見上げる。
「貴様らが別の惑星で手に入れたという無限エネルギーを生み出す鉱石。それの複製に成功した」
「何……!?」
「ちょっと、ノクトさん。それ始めて聞いたんだけど!」
驚く二人。周りの聞き耳を立てていた船団員たちもノクトや近くにいた別のキャットマンに問い詰める。
何か特別な物を作っているとは聞いていたが、それがここまでの代物だとは協力していたアーヴァインも含め誰も思わなかった。
確かにエネルギー源になってるエナジーストーンを見せていたが、そこから複製を行うなど……。
「成功したと言っても、貴様の持つ小型ので精いっぱいだった。ワームホール技術と合わせて作り出したからだろうな。貴様らの乗るマシンナーズを動かすには足りぬよ」
「それでも凄いことだよこれは」
「ああ……と言っても、今のエネルギーだけで生活する分は事足りるが」
「だろう?」
「確かに」
地球という惑星は共和国人にとってとても住みやすい環境だった。これまでの何れの惑星も何かしらに欠落し、永住するのは困難とされていた。
この地に永住を決めた時点でノアの箱舟を動かすのに使っていたエネルギーは別の用途に使われるようになった。
キャットマンが作り出したマシンナーズのエネルギーもその余剰分から来るものだ。探索部隊を使い別の地域の探索も始めているが、あくまで島が戦場になった際に必要な物資が手に入る場所や避難場所などを探したいのが大きな目的となる。
また、マシンナーズの新たな部品になりそうなものも見つけたい。これはキャットマンからの要望が大きく採用された。
「複製がさらに可能になれば、さらに機体を増やせるか?」
「部品があればな」
「イザナミ……だっけ。天神帝国って奴らを私は知らないけど、それの親玉なんだよね」
「そうだ」
イザナミについて船団が知ることは少ない。
天神帝国の神だと名乗ったこと。共和国を滅ぼした存在だと言うこと。そしてイザナミがいつか自分たちを追ってくる可能性があること。
もしもそれが攻めてきたら対抗する手段は必要になる。
敵はイザナミだけじゃない。
「
「うむ。勿論我らとて最悪の事態には備えたい。黙っていたのは悪かったが、下手に期待させてもな。今の内に言ってしまえば、現在の我らと貴様らの技術力でこれ以上の大きなエネルギーを作り出すことは困難だ」
「小型のをさらに複製して使う事は?」
「その小型を作り出すパーツも足りんのだよ」
「難しいね」
「っと、今日は祝いの席だったな。今は遠い未来のことは忘れて楽しむとしよう」
最後にそう言うとノクトは新たな獲物と言う名の肉を探そうとして、それに気付く。
「――ばッ!?」
「どうした?」
ノクトの事を目で追っていたアーヴァインがその視線の先、空を見上げた。
黒い雲。それが地面へと降り立つ。
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