猫と共存

 ノア乗組員全百二十名はたどり着いた新たな惑星で生活基盤を整え終えていた。

 箱船は島の端に落ちたらしく、マシンナーズを使いぐるりと島を一周し大きさを調べた結果、面積およそ二十一平方キロメートルほどの島だという事が分かった。これは日本の中島に匹敵する面積で、隅々まで調べても人間がいなかったことから無人島であることも判明している。

 そもそも、地球人出ないメルセデス共和国人たちからすればここが無人島であろうが無かろうが関係無い。動植物は存在し、それらが元いた星とそう変わらない事から獲物にも苦労しなかった。

 そして現地住民とも接触できた――と彼らは思っている。現地住民だと思った存在はベイダー人、つまり猫である。ベイダー人はベイダー語を話すのでメルセデス人がそれを理解することはできない。しかし知的生物だと言うことはわかり、猫の身振り手振りを見て数ヶ月生活を共にした辺りで何となく会話が分かるようになった。

 会話が出来ないのだから元からそこに住んでた猫たちを現地住民だと思うのは仕方が無い。共和国には猫がいたので猫に似た動物だと思いある者が餌を与えようとした。その餌付けが彼らとの結びつきを大きくする為のフラグになったので、本当に運が良かったとしか言いようが無い。

 

 ベイダー人は人間たちが大きな船で海岸沿いに住み着き、さらに未知の機械で動き回っている事が気が気では無かった。最悪この島から別の島へ移り住むことも検討していたので、会話は成り立たなくとも共存可能だったことは大きな収穫になった。

 島に住むベイダー人全五十二名は生えている植物を食べ、弱っている動物の肉を食らい生活してきた。安定しない生活はいつも不安の種となった。

 共和国人たちの手で島の森は切り開かれ、畑が作られる。そこで元の星から持ち出した種を植え、育てだした。船の中にも畑はあるのでそもそも生活に苦労することは無かったが、現地で育てた物は船の中で育てた物より良く育った。偶然にもこの島の環境はメルセデス共和国と酷似しており、船では完全再現できなかった気候での育成が可能となったのである。


 さて、そんな猫との和解――ノアの船団がアメリカ北部の無人島にたどり着いてから一年と少しが経過する。


 ベイダー人はベイダー語を話すが、彼らは自らをベイダー人と名乗った事は一度も無い。何せその名称をつけたのはアメリカの研究機関なので、そもそも自分たちがそう呼ばれていることも知らないのだ。

 なのでアーヴァインたちノアの船団は彼らをキャットマンと呼んでいた。因みに日本人がそれを聞くとオヴォヴォベノベになる。オヴォベで猫、ヴォーノが人間。共和国がそれを合わせて読むとオヴォヴォベノベとなる。

  

 理想郷はここにあった。と言う事で旅を止めて移住を終えた船団であるが、イザナミの追っ手の存在だけが気がかりだった。いつか自分たちを滅ぼしに来る。そう考えた彼らはマシンナーズを使い訓練を行っている。ベイダー人たちがそれを最初見た時はあまりの迫力に殺されると思った。

 そしてある日のこと、ベイダー人の一人、一匹? が勝手にノアの箱船に入り込みマシンナーズを収納している倉庫内で勝手に機材を使い何かを作り出す事件が起きた。

 事件、と言っても猫が入り込んじゃった程度の認識だ。そんな軽い認識だったので、見つけた人も「こーら危ないぞ-」と外に出してあげようとした。

 すると何と言うことか。彼はメルセデス共和国の言語で話し出したではないか。これには発見者も腰を抜かし、すぐに偉い人を呼びに行った。


 ノクトと名乗るベイダー人――キャットマンは母星ニャーの技術者だと言う。その知識と船にある機材を使い翻訳機を作り出してしまった。

 ノクトたちの発音で母星はネコニコバンニャニャニャニャースで、翻訳機を通した場合はニャーになった。なので惑星ニャーとなる。アーティファクトテクノロジーの方ではベイダー星と呼ばれているが、そっちの方で翻訳した時もニャーとなる。これは翻訳機の設定がそのようになっているからで、アメリカが翻訳機を作った場合はベイダーとなる。作り手によって多少の違いが出てしまうのは仕方ないことだ。


 翻訳機の完成により船団とキャットマンとの結びつきはさらに大きなものになった。キャットマンたちはやはりこの星の支配者――あくまで本人談――らしく、船団は彼らにとっての友人だと言ってくれた。

 そしてキャットマンたちは元々別の星にいたこと。黒い悪魔ブラックデビルという敵から逃げてきたことも共有された。

 黒い悪魔ブラックデビルとはつまりアンチイティーのことである。アンチイティーという単語もアメリカの一部で語られているだけの呼び名なので翻訳機を通すとこのような呼び方となった。因みに正しく翻訳機の発音を出すとガガギゴギガデビデビである。訳が分からないので本作ではそれの意味である黒い悪魔ブラックデビルで通す。


 船団の者たちも自分たちがイザナミから逃げてきたことを伝える。結果、イザナミと黒い悪魔ブラックデビルは繋がっている事になった。実際は繋がっていないし、何なら別の場所へ転送されたイザナミ配下のマシンナーズがちょっかい出してしまった為、返り討ちに遭い、さらに彼らの本能がイザナミの場所を割り出しそこへ向かい超光速で接近して戦いが始まる寸前なのだが、そんな事彼らが知るはずもないので繋がっている事になってしまった。ある意味で繋がったというのは間違いでないのかもしれないが。


 いつか来る強敵に対抗するため、キャットマン専用機体も余ったパーツなどから開発された。黒い悪魔ブラックデビルに対抗する為サイズは自然とマシンナーズに近く、それより小さな小型のマシンナーズといった風貌に。

 見た目は猫に近く、それを動かす為に五人のパイロットが必要というこれまた変わった仕様となった。

 腕部には砲撃武器。エナジーストーンから補給されたエネルギーを高威力のエネルギー弾と変換し発射する武器が着いている。

 流石に今あるパーツだけではワームホールシステムは作り出せず断念した。UFOを使い地球付近まで逃げるのに使われたワームホール。システムとしてはイザナミが使った遠い地点に行く物と同じで、それの使い切りバージョンだ。一定して転移先が固定されるのがキャットマン仕様なので、最悪の事態に備えて欲しかった。そこで出来たのがこの島を出て探索する為の探索部隊だ。


 探索部隊は全てマシンナーズで構成され、海上の移動が可能なベニホエールとズゴッケン三機の合計四機で構成された。

 どちらも共に共和国から持ち出した機体であり、真面に整備されず動かなくなっていたものをキャットマンたちが直した機体となる。


 ベニホエールは赤いクジラ型の機体で、体の両端にあるアンカークローの他、頭部についたロングレンジレーザーライフル、口を開くことで発射可能な収束エネルギー砲がある。収束エネルギー砲は高威力だがエネルギー源となるを荷電粒子を口から取り込み自機内部でエネルギーを生成する関係上、どうしても時間がかかってしまうのが難点となっている。水中か宇宙での行動が主であった関係上、地上戦はかなり苦手であり、空も飛べるが飛ぶ為のエネルギーが足りないのが現状だ。


 ズゴッケンは蟹のような腕とクラゲの頭部、人間のような脚部を持った二足歩行機体だ。此方は水中での活動も視野に開発された機体で、地上戦も得意である。問題は遠距離武器を現状持ち合わせていない事だろうか。蟹の手での接近戦なら可能なので、いざと言う時はズゴッケンが接近しベニホーエルの収束エネルギー砲発射の為の時間を稼ぐ事になる。


 共に水中を移動しながら必要な資源発見の為移動をするのだが、アメリカ軍のレーダーにその様子がばっちりと写ってしまい彼らとの戦闘へ発展する。

 善戦空しく鹵獲されてしまうのだが、これが後にアーティファクトテクノロジーと島で共存する二つの勢力を結びつける縁となる。


 そんな事が起きているとは知らない島の者たちは、鹵獲から数週間は経とうかという頃に、彼らが帰ってこないことで捜索隊を出すか検討が始まっていた。

 そうして会議をしている時に、それらはやって来る。

 空から降り注ぐ黒い星。黒い悪魔ブラックデビル――アンチイティーが襲来してきた。

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