友との再会
朝食を終えた少女は沸かしていたお湯を百グラム千円で買った鹿児島の一番茶の茶葉を入れた急須にお湯を注ぐと、湯飲みにそれを入れていく。
最初の分は若干色が薄く、二杯目が一番濃くなってしまった。三杯目で丁度良いくらい。四杯目は流石に薄く、味がしなそうな感じになった。
順に母、自分、謎の人物、兄へと並べていく。兄のだけ湯飲みじゃなくてマグカップだけど中身は濃さは違えど同じだし別に良いだろうと適当な少女であった。
因みに謎の少女は流されるままに普通に朝食を食べていた。普通なら食べ始める前に何かしらの話をすべきなのだが、この家族、全体的に緩いのか食べ終えてからで良いだろうという事になった。兄である雄介だけは「え? え?」とずっと混乱していた。きっといれば父も同じ感じだ。
「それじゃあ話を聞きましょうかー」
母がぱんぱんと手を叩いてそう言った。
それを合図にするように、謎の少女は言葉を紡ぐ。
「童も良くは分かっておらぬ」
雄介がズッコケた。他の二人はズッコケなかったので、三人組にはなれなかった。
「恐らく、出雲の門出を受けたのであろう」
そう謎の人物は言う。出雲という言葉には三人とも聞き覚えがあった。出雲大社なんかは有名だろう。すぐに雄介がスマホを操作し写真を出す。
「これか?」
「む? 確かに似た建物はあったが……ここは天神帝国なのか?」
「ここは日本だよ~」
少女が謎の少女にそう返す。確かに日本も大日本帝国を名乗っていた時代もあったが、天神帝国とは名乗っていない。服装からというか、喋っている言語から日本人だろうと思っていたが、どこか話がかみ合わない。
そこで雄介はふと、昨日読んでいたライトノベルを思い出す。そう、『エルフがなぜ日本に?』という、異世界のエルフが日本に来ちゃって主人公の男と同居しエッチなことをしたりエッチなことをしたりする挿絵とかそれ全年齢で置いておいて大丈夫なの? って感じのライトノベルだ。
もしかするとこの子もそうなのかもしれない。見た目も整っているし、もしかしたら自分はその物語の主人公なのかもしれない。
雄介のどことは言わないが元気な部分が元気になった。
だが残念。雄介、君は主人公ではないのである。
「おうちは分かる? 連絡先でもいいんだけれど」
母は子供たちより幼い少女の親御さんが心配しているだろうと聞く。
既に謎の少女はここが天神帝国ではない、似たような別の場所だと把握しており、どう答えたものか迷ってしまった。
謎の少女とてただ朝食を食べていたわけではない。外を見れば庭に生えた植物は人工物ではないし、共和国領内かと思ったがそれらしい単語も出てこない。何より家族の見た目が帝国人と同じだし、かかっていたテレビのニュースでマシンナーズの姿も無かった。
何より自害した記憶があるのだから、別の見知らぬ場所にやって来たで間違いないだろう。
「童の故郷は既にない」
その答えで重苦しい空気になったと雄介は感じた。謎の少女も馬鹿正直に答えるべきではなかったか、もう少しオブラートな言い方をすれば良かったと僅かばかり後悔。
そんな空気を換えたのが、少女の声だった。
「ならチグサ、一緒に住もうよー」
「あらあら、それは良いわね。お母さん、娘が増えるのは歓迎よ」
これは俺の時代来たのではと考える雄介。高校二年で大学受験のことも本格的に考えないとまずい時期だが頭の中は冬だと言うのに春だった彼は謎の少女と結婚するルートまで確定してしまっていた。大丈夫か。
謎の少女も本当に良いのだろうかと考えてから、ふと名乗っていないのに自分の名前を呼ばれた事に気付く。
「待て。童の名はチグサだと、名乗っただろうか?」
それを聞いて母と雄介もそう言えば名前を聞いていなかったなと、なら何で娘(妹)はその名前を知っているんだと首を傾げる。
対しニコニコ笑顔のまま、件の少女は言葉を返した。
「転生じゃなくて転移なところが帝の特権って感じだよねー、久しぶり? なのかな。願い星に感謝しなきゃ!」
「むむ……? お主、名は……?」
「カナデだよー、今生の名前も
この二人の邂逅と時を同じくして、遥か遠い宇宙の彼方から、災厄が迫るのだった。
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