連鎖罠

 ある日のこと、旅の途上で小さな湖を見付けたリィノ達、その湖畔で一休みしていた。と、突然水の中から、なにやら巨大なものがせり上がってきた。姿を現したのは、石造りの神殿。

 そこに入ってみると、中には台座が一つ、その奥に大きな鏡が一つ、そしてエルフ族の老人が一人立っていた。老人はリィノ達に言った。


「言い伝えを知っておるか? 世が乱れた時、選ばれた勇者の元に天翔ける城へと導く神殿が現れる。これがその神殿。ワシはその番人じゃ。この台座に光のオーブを捧げれば、天翔ける城はそなたらに授けられる。オーブはすでに壊れておるようじゃが、問題ない。あの鏡が、オーブが壊れる直前の場に、そなたらを誘う」


 そういえば、そんな言い伝え聞いたことあるなぁと思ったリィノ達は、言われた通り鏡の前に立った。と、次の瞬間、視界が白く染まった。


 そして、気が付くとリィノ達は、どこかの知らない城の中に立っていた。眼前には王とその従者らしき者達。


「セリス、我らが魔物共を食い止めている間に、そなたがオーブを持って逃げよ」

「なんと!? 私が残ります。王がお逃げください!」


 どうやら魔物達の襲撃に遭っているらしい。たしかにその場にいるリィノ達だったが、しかし肉体はない。鏡の力で意識だけがこの場に存在しているような形だ。


「ワシの命よりオーブじゃ。最も俊敏なそなたが適任なのだ。頼む」

「ですが……くっ、わかりました!」

「使用人用の裏通路を通れ。ジョンを案内役に付ける」

「セリス様、こっちです!」


 そうして、女騎士セリスはオーブを受け取り、使用人ジョンに先導されて走った。リィノ達もその後を追う。

 そして、裏通路に入り、その廊下を走り始めた――


 ところで、セリスは突然なにかに滑って転倒。床に力強いトライを決めてしまう。

 オーブは派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。


「ああっ! あそこは!」


 その様を見たジョン、しまったとばかりに大声を上げ、数時間前のことを回想し始めた。


「あーあ、落としちゃったよ。やっぱ一人でグラタン7皿運びはムリだったか。熱かった……」

 天を仰ぎ、失敗を嘆くジョン。



「ちゃんと掃除しておかなかった!」


 回想を終えると、同じようにまた天を仰ぎ、失敗を嘆くジョン。


「ジョ―――――――ン! なにやってんだこのダメ使用人が!」


 リィノの叫びが虚しく響く。リィノ達は、光のオーブの防衛に失敗した。


 しかし幸い、鏡は再トライを許可してくれた。


「セリスさん、ジョン、廊下の足元に気を付けろ。グラタンが落ちてるぞ」

「え!? この声どこから!?」

「我々はオーブの妖精。助力します」

「え、そうなんですか!? わかりました!」


 肉体はないが、声は届く仕様。リィノ達は妖精を騙り、彼女達を誘導することにした。

 そうしてセリスはグラタントラップをクリア。廊下の奥を進むと、そこには扉。


「くっ、開かない! この扉カギが!? くそっ……きゃああああ―――!」


 しかし、その扉が開かない。焦れたセリスが扉に体当たりすると、思いの他簡単に開いてしまい、セリスは勢い余って転倒。オーブは派手な音を立てて粉々に砕け散った。


「ああっ! あそこは!」


 その様を見たジョン、しまったとばかりに大声を上げ、数ヶ月前のことを回想し始めた。


「あー、この扉建て付け悪くなってんな~。もうこの城も古いからなぁ。おいジョン、この扉直しておいてくれ」

「はい、わかりました!」

 先輩の指示に明朗な返事をするジョン。しかし――



「ちゃんと直しておかなかった!」


「ジョ―――――――ン!」


また天を仰ぎ、失敗を嘆くジョン。リィノの叫びが虚しく辺りに響いた。



 やり直したリィノ達、扉はジョンに開けさせ、セリスはさらに奥へと走った。

 しかし、その先の曲がり角で別の使用人と激突。地に落ちたオーブは派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。


 その様を見たジョン、数日前のことを回想し始めた。


「ジョン、この通路は戦時下では王族の脱出ルートとなるから使うな。他の使用人にもよく言っておけよ」

「はい、わかりました!」

 先輩の指示に明朗な返事をするジョン。しかし――



「ちゃんと伝達しておかなかった!」


「ジョ―――――――ン!」



 やり直したリィノ達、件の使用人の突進をやり過ごさせると、セリスはその先にあった階段を上り始めた。ところで――


「ぐぁっ!?」


 セリスは突然、段差につまづいて転倒。地に落ちたオーブは派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。


 その様を見たジョン、数ヶ月前のことを回想し始めた。


「すいませーん、私の鉄靴、サイズが全然違ってブカブカなんですけど」

「す、すいません! すぐに発注し直しておきます!」

 セリスの苦情に明朗な返事をするジョン。しかし――



「ちゃんと発注しておかなかった!」


「ジョ―――――――ン! ていうかセリスさんもちょっとドジっ娘すぎないさっきから!?」



 やり直したリィノ達、慎重に階段を上らせると、セリスは階段の先の廊下を走っていった――ところで、突然脇の部屋の扉が開き、セリスは思いっ切り扉に顔面を打ち付けて卒倒。地に落ちたオーブは派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。

 その様を見たジョン、数日前のことを回想し始めた。


「この扉、内開きに直さないと廊下通る人が危ないんじゃないか。この廊下狭いし。おいジョン、直しておいてくれ」

「はい、わかりました!」

 先輩の指示に明朗な返事をするジョン。しかし――


「ちゃんと直しておかなかった!」


「ジョ―――――――ン!」



 やり直したリィノ達、ドアトラップをやり過ごさせるが、しかし進んだその先には既に魔物達が待ち受けていた。

 慌てて進路変更するもテラスに追い詰められてしまうセリス達。


「きゃあああああ!」


 そして、善戦虚しく屈強な魔物に体当たりを食らい弾き飛ばされ、柵を越えて宙に投げ出されてしまうセリス。


「セリスさん!」

「受け取ってジョン!」

「はい!」


 しかし、落下しながらもセリス、柵から身を乗り出すジョンに向かって必死にオーブを投げる。

 ジョン、それを受け取り――損ない、ジョンの顔面にオーブがめり込んだ。


『ジョ―――――――ン!』


 ユニゾンで叫ぶリィノとセリス。オーブはジョンもろともテラスから落下。派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。



 モンスターがいない方へ誘導し、セリスはやっと城の裏口へ辿り着いた。そして、城の裏手へと続く扉を開けた瞬間、セリスは突然モップで顔面を殴り飛ばされ、卒倒。地に落ちたオーブは、派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。


「あ、ごめんなさい。モンスターかと思って……」


 モップを手に持った若い女性の使用人の姿が、そこにはあった。

 今回はジョン悪くないな!


 扉を開ける前に名乗りを上げさせモップを回避したセリスは、裏手へと出ると、そばにある厩舎へと向かった。

 馬に乗って逃げようと、そこにいた馬の元に駆け寄った瞬間、セリスは突然後ろ足で蹴り飛ばされて卒倒。地に落ちたオーブは、派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。


 その様を見たジョン、数ヶ月前のことを回想し始めた。


「おいジョン、この馬、気性荒いから、よく調教しておけよ」

「はい、わかりました!」

 先輩の指示に明朗な返事をするジョン。


「ちゃんと調教しておかなかった!」


「ジョ―――――――ン!」



 後ろから近寄らないように助言して馬に乗らせると、セリス、ジョンはそれぞれ馬に乗って荒野を駆けていった――ところでセリスが乗る馬が突然前転するようにひっくり返り、セリスは押し潰されて卒倒。オーブは、派手な音を立てて粉々に砕け散ってしまった。

 その様を見たジョン、数日前のことを回想し始めた。


「おいジョン、この馬の蹄鉄、取れかけてるぞ。ちゃんと付け直しておけよ」

「はい、わかりました!」

 先輩の指示に明朗な返事をするジョン。


「ちゃんと直しておかなかった!」


「ジョ―――――――ン!」



 その後も、馬で吊り橋を渡ろうとしたらロープが弱ってて落ちたり、アリ地獄にはまったりと、何度やってもオーブが壊れる運命になっていたので、リィノ達は天空の城の入手を諦めた。

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