騎士道(シ、シリアス!?) 

 今回の主役は、魔族が支配する領域・魔界と国境を接する王国、シルド王国のロイ王子と、彼を守る近衛騎士の少女リーン。

 そのロイがまだ十歳だった頃、ロイの父、国王のクラインが突然、他国のスラムで苦しむ孤児達を全て、国に連れて帰って来て職を与え面倒を見始めた。


 いずれ餓死する運命であった子供達はみなそれに感謝していたが、その中でも一際感銘を受けクラインへの思慕をつのらせたリーンという十歳の少女が、クラインを守る騎士になることを志願した。

 そうしてリーンが王城に居住するようになると、クラインは彼女と一人息子のロイ、同い年の二人に分け隔てなく同じ教育を施した。まるで、彼女もまた自分の娘であるかのように。

 どうしてそこまでしてくれるのかと尋ねたリーンに、クラインはこう答えた。


「リーン、俺はな、人が一生の内に学び得たことを次の世代に伝える。それを繰り返すことで人は成長していき、いつか大きな幸せを掴むんだと思ってる。だから人は子を産み、歴史を続けていくんだ。お前やスラムの子達も、生きてさえいれば多くのかけがえのないことを学ぶ。それが答えさ」


 その言葉は、リーンの座右の言葉となった。


 月日は流れ、十八歳となったロイとリーンは、魔界に近いシルド王国の人間の宿命とも言える事態と、押し寄せた魔物の大軍と対峙していた。

 開戦を前に、騎士らしい精悍な顔立ちの少女へと成長していたリーンは、いつも一緒であった、お互いを家族のように思っているロイに語った。


「あの日、クライン様は、スラムの泡沫だった私に、生きる道を、意味を示してくださった。私は、この国の人々が繋ぐ未来を守る。それを導く王家を守る。それが、私の騎士道よ」


 それを聞いたロイは、そんな風に思ってくれてありがとうと、彼女の体をそっと抱き締めた。


 兵の士気を高めるため、ロイ王子自らが大将として、本国を守る砦に布陣していた。

 そこに、長い旅の末、ついにこの地まで辿り着いていた勇者リィノとシャラも合流。合力して魔物の大軍と戦った。


 しかし、健闘虚しく砦は陥落。ロイ、リーン、リィノ、シャラの四人は命からがらの敗走の末、体力が尽き、偶然見付けた廃屋の中に逃げ込み、身を潜めていた。

 しかし、王子の命を狙う追っ手はしつこく、すぐに見付かるであろうことは明白だった。


「……ここまでね。ロイ、今まで本当にありがとう」


 と、割れた窓から冷たい風が吹き込む廃屋の中で、リーンは何かを決意した様子で、ロイのことをじっと見詰めながら、切り出した。


「このありがとうを言うために、私は生まれてきたのかもしれない。きっと、ありがとうを言う時こそが、一番幸せな瞬間なのね」

「リーン!? お前、まさか!?」


 その深い哀別の念がこもった瞳を見た瞬間、ロイの脳裏をよぎったのは、彼女が得意としている、目に映る対象瓜二つへと、その身を変化させる魔法の存在だった。


 まさか、彼女は自分の身代わりになろうとしているのでは!?


「リーン! よせ!」


 そう思い至ったロイは、慌てて止めようと彼女の下へと踏み出した。

 しかし時遅く、リーンは変身魔法を用い、その身を激しく光らせてしまう。


 一拍後、光が止んだ彼女の体は、ロイの後ろの窓越しに見えていた小鳥そっくりの姿へと変化していた。



「それじゃロイ、ご達者で~」



 リーンはロイにさらりと別れの言葉を残し、破れた窓から空へと飛び立っていった。





 ………………。




 ………………。





「騎士道は――――――――――――――――!?」




 あまりにも華麗な裏切りに遭ったロイ、しばし呆然とした後、あまりものショックから自分が今、身を潜めているという状況も忘れ、彼女が逃げ去った窓の外に向かって声を張り上げた。


 その後、あまりの悲劇を目撃し、激しく同情したリィノ、シャラの奮闘により、むせび泣き続けるロイの身は、無事本国に送り届けられた。


 しかし、そのシルド王国に、あの男が迫っていた。

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