幕間 パーティの日常
「あ~! あ~! あ~!」
砂漠を越えた後のある日の野営中のこと、その日の料理当番はシャラ。しかし彼女が作った赤いシチューを一口食べるや、勇者リィノ号泣。あまりの辛さに号泣。
「なんだこのシチュー! どんだけスパイス入れたんだ真っ赤じゃねえかよ!」
「燃えるミートシチューよ。なに言ってんの、辛ければ辛いほどおいしいのよ。フフフ」
「せっかく俺が捕まえてきたジビエ肉が!」
シャラ、大の辛党。周囲に迷惑をかけるほどの。
リィノは山育ちのため、昔から猟をしたり木こりをして生活の足しにしていた。才能がないので売れるほど量は採れないが。
「こんなもん食えるかい。もういいや。俺、自分で買ってきたお菓子食べるから。えーとクッキーでしょ~、ビスケットでしょ~、チョコ、プリン、ラスク、ムース、ババロア、コンポート、タルト、カップケーキ、マシュマロ……」
「どんだけ買ってきてんのよ! おやつは300ゴールドまでって約束でしょ! 糖分とりすぎで死ぬわよ!」
「これはおやつじゃないから! 食事だから! 俺は甘い物を食べるために生きてるんだよ!」
リィノ、大の甘党。食の好みの相性に関しては苦労しそうなコンビであった。
翌日、森の中を進んでいると、なぜか森の中に置かれている精巧な女性の石像を二人は発見した。
いや、石像じゃない。あまりにも精巧すぎた。それは石化させられた女性であった。
「コカトリスとかメデューサとかにやられたのかしら」
「そうかもな。さてと、とりあえずと……」
と、リィノ、突然腹這いになって石化した女性のスカートの中を見上げようとし始める。
が、瞬時にシャラにその顔面を蹴り上げられて阻止される。「ぐぁっ!?」という悲鳴と共にバッタリとうつ伏せに沈むリィノ。
「相手が動かないからってローアングルから攻めようとしてんじゃないわよ。石になってるもん見て何が面白いのよ。さてと……」
しかし、そう言うシャラ、そこで唐突に金やすりを取り出し、石化した女性の豊かな胸元に手を伸ばし始めた。
「おい、自分が小さいからって妬んでんじゃねえよ! 削るなら石になってる今、じゃねえんだよ!」
それを見たリィノ、慌てて声を上げて彼女を止める。
全く人のことを言えない貧乳シャラなのであった。
「で、まじめにどうする? 教会までロープで引きずっていって治してもらうしかないが、重くて無理じゃないか?」
「そういう時は、まず手持ちの袋に石や土を詰め、それらを自分達の体にくくり付ける。と、自重が上がり摩擦抵抗が上がるので、重いものをラクに引っ張ることができる」
「ウソだろ!? ……ホントだ!!」
相談の結果、シャラの言う通りにやってみると、効果大だったので目からウロコのリィノ。
「ただし、引きずる時はうつ伏せでよろしく」
「だから胸を削ろうとするな。まじめにやろうって言ってんだろ!」
「あ~ダメだ水がもたない。海が近いから海水はあるが……もう海水を飲んで腹壊して死ぬしか道がないなこれは」
女性を助けた後の旅でのこと、携帯していた水が底を付き、途方に暮れるリィノ。
「そんな時は、二つの空き缶の上部に穴を開け、そこに竹筒を通し繋ぐ。そして片方に海水を入れ火で熱し続けると、もう片方に塩やゴミのないキレイな水が蒸留する」
「マジかよ!? ありがたいわ~」
と、そこでシャラが出した二度目の助け舟に救われて、彼女を拝み倒すリィノ。
こうして、彼女はアホの子のリィノにはない知恵で旅を助けてきたのである。
しかし、こんな一面もある。
「どうだリィノ、かっこいいだろう!」
町の宿屋で一泊した後のある日の朝、彼女は黒塗りの兜ですっぽりと頭部を覆い隠して、姿を現した。顔まで覆っているので、声を聞くまでリィノは誰だかわからなかった。そして、なにがカッコいいのかもわからない。
「これからは私のことを黒騎士と呼んでくれ!」
昨晩、町に来た行商人から買ったのだという。彼女、もろもろセンスが致命的に残念なのである。
そして、砂漠もまだ近い日差しの強い地域でのことである。それを被り旅立ったシャラは、小一時間で突然、ぱったりとダウンした。
「黒騎士――――!」
それに慌て、脱水症状でダウンする恥ずかしい相棒の恥ずかしい二つ名を叫びながら駆け寄り、彼女を助け起こすリィノ。
「ダメだリィノ……この兜、ありえないぐらい重いわ分厚いわ、黒いから日の熱を吸うわで……」
「だったらヘバる前にさっさと脱いどけや!」
「いや、実は、この兜外れないのよ……」
「呪われてんじゃねえかよ!」
呪われているものを気付かず買ってしまうほど残念なセンスのシャラ。
仕方なくリィノ、近くのキレイな川に連れて行き、シャラに水を飲ませる。
目元や口元はバイザーで開けられる形状になっている。シャラは両手で川の水をすくい、それを飲もうと前屈みになった。
「ほぉっ!?」
その瞬間、兜の重みに耐えられず、シャラ、川へと落下。
「黒騎士――――!」
呆れながらも駆け寄り、彼女を救助するリィノ。シャラ、兜の重みで浮き上がってこられなかった。リィノがいなければ死んでいた。
さらに、その後の戦闘でのこと。
リィノが敵をけん制している間に詠唱を終えたシャラ、魔法を放つ。
「フェニックス・ストライク!」
と、その瞬間、丸々と太った巨大な鳥が、リィノの眼前にぱっと現れた。
「あ~せっかく召喚してもろたのにすまんけど、ワイ太りすぎてて成人病で全く身動きできひんねん。でも不死鳥だから死にはせんねん。恥ずかしいわ不死鳥なのに成人病て。不死鳥っていったいなんなんでしょうなあ」
「……なにこれ!? おい黒騎士なんだこれ!? 炎の鳥が襲い掛かるみたいな魔法だったはずだよなそれ!?」
「……呪文を間違えて失敗したみたい。どうもこの兜、頭が上手く働かなくなる呪いがかかってるみたいで」
「アホの子に見られるアイテムだと思ってたら、ホントにアホの子になる呪いのアイテムだったのかよそれ!」
その後、撤退するのとか、強い呪いだったゆえ教会で解くのに大金が必要だったりと、色々大変だったという。
やはりシャラのせいで苦労する時も多々ある旅だったという。
また、ある日のこと。
「煉獄三重殺デルタ・プルガトリウム!」
煉獄三重殺とは、シャラが持つ中で最大級の威力を誇る魔法。雷、炎、風、三属性の魔法を一度にぶっ放すスンゴイ魔法である。
この一撃で、シャラはオーガという巨人のようなモンスターを葬ってみせた。
「ぎゃあああああああああ!」
なお、この悲鳴は勇者リィノのものである。
生じた爆風に巻き込まれて吹っ飛んで悲鳴を上げていた。
この手の強力な魔法は呪文の詠唱に一定の時間が掛かるので、その時間をリィノがけん制して稼ぐ、というのが強敵が現れた場合の必勝戦術として定着してきたのだが、そうすると立ち位置の問題で、必ずリィノが巻き込まれるのだ。
しかし、そうしなければ勝てないのだから仕方がない。
アイテムで回復した後、リィノはシャラのことを背負って歩いていた。何度も大魔法を使ったので魔力が切れて動けなくなったと言うので。
「ハァ……ハァ……1人を背負って長距離を歩くのはキツイ」
「まあまあ。ホントは触れて嬉しいくせに」
「な、何を言うんですかこの子は!」
体に力が入らないと、シャラ、しなだれかかりリィノにかなりピッタリと密着した状態でいる。
とぼけた女だが、見た目はかなりの美少女である。実際、リィノは内心、相当ドギマギしていた。
「ふふ、何度も爆風に巻き込まれて頑張ったご褒美って言ったら?」
「ふぇっ!?」
「本当は力なんて抜けてないって言ったら?」
「っ!? い、いや、降りてくれ!」
「ふふふ」
翻弄されタジッタジになりながら、リィノはシャラを近くの町まで輸送した。
二人旅を続けているだけに、リィノとシャラはかなり馬が合っていた。戦闘時の連携もだいぶ深まってきた。絆のようなものも生まれつつあった。
そんな二人だが、しかしこの先待ち受けているのも、結局ムチャクチャな展開ばかりであったという。。
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