いい話だな~。草wwがなければ。

 メタルマンと別れた後、宿を求めて訪れた町で、リィノ達は町のちょっとした怪異に気が付いた。買い物に出たシャラが戻ってきた時のこと。


「リィノ、この町の道具屋、どくけしそうしか売ってなかったわよ」

「へー、なんでだろう。周囲によっぽど毒持ちの魔物が多いのかな」

「いや、いかにも毒を消しそうな見た目をしているだけの、ただの草よ」

「毒消しそう! 推量系! ただの雑草じゃねえかよ!」

「あまつさえ、武器屋や防具屋すら、どくけしそうしか売っていなかったわ」

「……アイテムがみんなどくけしそうになっちまってんのか。この辺りはバグり方がキツそうだな、また」


 そしてその後、その町から少し進んだ位置にあった、グラスエッジ王国の要請を受け、リィノ達は王国軍と共にモンスターの大軍を相手に奮戦していた。王国は魔物の侵攻に遭い、戦時下にあったのだ。

 長時間の奮闘により体力、魔力が尽きたリィノとシャラ、そして軍の指揮官達は、休憩のため予備戦力と交代して一度王城に帰還。軍議室にて一息ついていた。

 室内の空気は重かった。王国軍は明らかに兵数で劣っている上、リィノ達が加わる前日に、支柱であった騎士団長を戦場で失っていたのだ。


「グレイス将軍! すぐにお父上の部屋にいらしてください! 遺言が残されております!」


 そんな重苦しい雰囲気の部屋に、一人の使用人が血相を変えて飛び込んできた。

 グレイスとは、亡き騎士団長の息子である若き将。胸が詰まり自ら行えず、父の遺品整理をこの使用人に頼んでいた。


 騎士団長の部屋に駆け込んだグレイスら将とリィノ達は、机の上に置かれた一枚の手紙を目にした。手紙には、こう書かれていた。


 グレイスへ。 我が国に伝わる秘宝、グラスストーンのことは忘れていまいな? 使用者の肉体を強力な魔法剣へと変える秘宝だ。

 グレイスよ、子供の頃に突然失踪した母親のことをいつも気にしていたな。つらい思いをさせてすまない。そう、私がいつも手にしていた剣、それこそがお前の母親、魔法剣マリアなのだ。

 かつて、この国の危機を救うため身を捧げたこのマリアの剣を持って、今度はお前が国難を救ってくれ。

 私には、この剣を十分に扱う才覚がなかった。だが、今のお前にならば、きっと使いこなせる! 私はそう信じているぞ!


 そして、その手紙の隣に置かれていたものは、一振りの美しい剣――


ではなく、どくけしそうであった。


「使いこなせるか―――! なんの効能も持ってねえんだよそれ! おおい、バグってるぞ―――! 団長―――! マリアさ―――ん!」


 そうツッコミを絶叫するリィノをよそに、そのどくけしそうをひしと抱き締めて慟哭するグレイス。


「うう……お父さ――ん! お母さ―――ん!」


「いや、感極まるところじゃないぞ! エラいことになってるぞ!」


 教唆の言葉を声高に上げるリィノ。

 しかし一方で、アイテムが全部雑草になっちゃうバグがわかっていたのに……ここに来る前に何か手を打つべきだったと後悔の念、一色に心の中が染まっていた。


 その後、軍議室に戻った指揮官達。先の団長の言葉に突き動かされ、思い思いに口を開いた。


「ウォード、最後になるかもしれないから言っておくよ」

「なんだベラ、改まって」


 ウォード、ベラ、共に熟練の猛将たる男女。同期入団の二人である。


「ウォード、この戦い、なんとしてもアンタは生き残ってくれ。大勢の人間に慕われてるアンタは、この国に欠かせない男なんだ」

「ハッ、そっちこそ長生きしろよ。お前みたいな腕っ節の立つ女の方こそ希少だろ」

「ウォード、アタシの子供達の未来を託せるのは、アンタしかいない。頼んだよ」

「ハッ、あのじゃじゃ馬娘が……母親になりやがってよ」


 若い頃から互いを知る二人の目には、涙がにじんでいた。


「おいカイル」

「なんだゼル」


 続いて口を開いたのは、常に腕を競ってきた二人の若い将。


「部隊長の座を決める試合では譲ったが、俺はまだ負けたつもりはねえぞ」

「いい加減認めろよ、副長どの」

「エリスのことだって、あの女は男を見る目がなかっただけだ」

「女々しいぞゼル」

「見てやがれ。この戦で後世まで武名を轟かすのは俺の方だ」

「ハッ……」


 競い合い、反目し合うことしかできなかった。それは互いに認め合っているからこそなのだと、心の奥底では理解しながらも。二人は若かった。


 そして、ベラとゼル、二人の将は、互いの同期に思いの丈を語り終えると、ふいに目配せを交わし、頷き合って立ち上がり、部屋の奥へと下がって、首から提げた宝石に念を送った。

 そう、将軍の座に着いた者が国から証として贈られる物こそ、使用者の身を強力な魔法剣へと変える秘宝、グラスストーンだったのだ。


「ウォード、あんたの気持ちに応えられなくて、他の男と一緒になっちまってごめんよ。ふっ、アタシだって気付かないほどバカじゃない」

「カイル、言っただろ。名を残すのは俺の方だってな。……ライバルに恵まれた人生に感謝する」


「ちょ、ちょっと! ちょっと待った!」


 そのことに気が付いたリィノとシャラが慌てて立ち上がり止めようとするも、時すでに遅し。

 別れの言葉を残した二将の体が眩い光に包まれる。魔法剣は、変化前の人間が強者であるほど強力なものになる。だからこそ将軍に託されるのだ。

 光が止んだ時、そこにあったものは、二振りの豪壮な剣――


 ではなくて、どくけしそうであった。二房の。


『ああ―――――っ!』


 頭を抱えて崩れ落ちるリィノとシャラを尻目に、ウォードとカイルは、滂沱の涙を溢れさせながら、友の剣、もとい草を恭しく手に取った。


「ベラ……なんてひでえ女だ。俺の気持ちに気付いていながら、お前の剣を俺に振るえっていうんだな。そこまで俺のことを、信頼して」

「ゼル……エリスのためなんだな。お前って奴は。ライバルに恵まれたおかげで、今の俺がある。それにやっと気が付いたよ」


 そして、感慨深げな言葉を残すと、ウォード、カイル、グレイスの三将は、決意を秘めた目で軍議室を後にする。

 ところだったので必死に制止したリィノとシャラだったがしかし、無念にも振り切られてしまった。


 三将軍、なぜか雑草を片手に出陣して討ち死に。


 この珍事は後世まで語り草となったという。笑い草ともいう。


 なお、魔物軍は、この後駆け付けたメタルマンに殲滅された。

 リィノ、シャラ、ベラの子供達、エリスらは無事であったという。

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