説明、前フリ回ゆえ、とにかく次回まで見てください!

 クマに勝ったその日の夜、町の宿屋にて、


「シャラ、俺、今日の戦闘でレベルが上がって、神剣を持つ勇者の固有魔法を覚えたぞ」

「あんな戦闘で? それで、どんな魔法?」

「『鼻から君のローション放たれて』。鼻から水鉄砲を放つ魔法だな。ちょっとぬるっとした」

「きも」


 そして、翌日のことだった。準備を整えようとそれぞれ買出しに出た後、宿の部屋で合流したところで、二人は異変に気が付いた。


「シャラ、回復アイテム買っておいてくれた?」

「ええ。はいこれ。魔法の力が込められており、食べれば体力が回復する、回復のミノ」

「ミノ!? さっと食べられるものにしてくれよ! いかにトドメ刺される前に早急にできるかが勝負だろ回復ってもんは! 何回噛まないといけないんだよ!」

「でも、この町、これしか回復アイテム売ってなかったのよ」

「はぁ!? どういうことだよ!?」

「完全にバグってるわね」

「バグってる!? まさか!?」

「大魔王の奴、どうやらバグルールの魔法を使ったみたいね」

「なんだって! 昨日の魔物も妙にどこかおかしいと思ってたら!」

「あんたの魔法もね」


 バグルール、それは魔族の王に選ばれた者のみが使える魔法といわれており、世界を奇天烈に変容させてしまう魔法で、本来の運命の中で起こるはずだった出来事、通称『イベント』まで内容がグチャグチャになってしまう禁断の魔法である。


 リィノ達が自分の下に辿り着くことを阻止するため、旅の円滑な進行を阻むために大魔王バラックが用いたものと考えられた。

 

 宇宙の法則が乱れた!


 旅はやり難くなってしまったが、それでもやるしかない。リィノ達は気を引き締め直しての再出発を決意した。



 しかし、宿を出たところで、再び事件は起きた。


「うわー急いでるんだー! どいてくれー!」


「うわっ!」


 外に出るや、ふいに三人組の男達が走り込んできて、リィノは思わず声を上げながら飛び退いて道を開ける。と、三人はリィノの体を掠めて、町の外に飛び出していった。


「……なんなんだよ、あいつら」


 その傍若無人な振る舞いに文句を言いながら、リィノ達は町の出口まで行き、出発の用意を始めた。

 と、その時だった。


「……あれ? あれ!? ない! 道具袋が!」


 腰に着けていた回復のミノが入った袋が無くなっていることに、リィノは、ふいに気が付いた。


『……あいつらだ!』


 すぐに、はたと容疑者に思い当たり、リィノ達は声を揃えた。



 被疑者達は町のすぐ外で見付かった。


「お前らだな。俺たちのミノを盗んだのは」


 見付けるや、リィノは彼らに背後から声を掛け、尋問を始めた。と、彼らはピクりと身を竦めた後に振り返り、抗弁を始めた。


「いや、盗んで、くっちゃくっちゃ、ないっすよ、くっちゃくっちゃ」


「めちゃめちゃミノくちゃくちゃ言わせてんじゃねーかよ―――!」


 すぐに飲み込めないから隠しようがないようだった。

 何食わぬ顔で誤魔化そうとするも、口元は明らかに何かを食っている。

 動かぬ証拠。リィノ達は彼らを現行犯逮捕。

 その目が細く眉が太く泥棒ヒゲを生やした、同じような顔をした三兄弟をす巻きにして、町の衛兵の元に突き出そうとした。

 が、そこで彼らが哀願の声を次々と上げ始めた。


「すまねぇ、頼むアニキ見逃してくれ。オレたち働いても貧乏で、こいつが、一番下の弟が腹減ったってわめくもんだから、つい……」

「これで捕まったら仕事もクビになっちまう……これっきり、もう二度としねえから、お願いだ勘弁してくれ……」


 いいオッサン達が頭を下げ懇願してくる様子に、リィノ達はついほだされて縄を解いてしまった。


「約束通り、二度とやるんじゃねえぞ」


 釘を刺してから放してやると、三人は何度も頭を下げ、「ありがとうございますアニキ!」「この御恩は忘れません姉御!」「あんたは神様だアニキ!」などと口々に言いながら去っていった。


 釈然としなかったものの、慈悲のアニキ、姉御となったリィノ達は、そう拝まれては堪えるしかなく、やり場のない怒りを抱えたまま、町を後にした。



 その後、再び旅立ったリィノ達は、火山の麓にある、大魔王の側近が棲むという洞窟の前にやってきた。

 大魔王の側近、いわゆる魔王となれば、放っておくことはできない。リィノ達は準備を整え、洞窟の入り口を潜る。


 流れ出た溶岩が固まってできた洞窟らしく、赤褐色の溶岩石で全体が覆われ、所々から噴き出す溶岩で、内部は不気味に照らされていた。

 異常なまでの熱気と湿気。そして、溢れ出る溶岩が感じさせる脅威が、訪れる者の進入を拒んでいた。

 とはいえ、リィノ達は往かなくてはならない。覚悟を決めて踏み出した。


 そして、リィノ達は洞窟の最深部に辿り着いた。そこはいかにも魔王の間というような開けた造りになっており、そして意を決して足を踏み入れたリィノ達をそこで待っていたのは、リィノの倍以上の体躯を誇る、巨大な溶岩石のゴーレム。


 見るからに頑強な、接近戦を得意とする力押しタイプの魔王だった。

 その姿を目にしたリィノ達は、互いに目配せを送り頷き合う。と、リィノは鼻から水鉄砲を放ちゴーレムを牽制、足止めしながら後ろ走り。シャラは身を翻し、二人して一目散に逃げ出した。

 敵はあまりにも強そうだった。一度撤退して、何か作戦を立てないとまずい。


 しかし次の瞬間、魔王は水鉄砲などものともせず、その巨体に似合わぬ俊敏な動きで一気に踏み込むと、目にも止まらぬ拳でリィノのアゴをかち上げた。


「ぐえええええ~!」


 リィノは回転しながら、鼻からローションを撒き散らしながら宙を舞った。

 凄まじい勢いで噴出される液体は、みるみる辺りの地面を覆っていき、足元に降り注いできたローションに足を滑らせて、シャラも激しく転倒。その場から逃げ出すことに失敗する。

 が、しかし、辺り一面はすっかりローションにまみれた。


「ふっふっふ、だがこれで魔王の方もカンタンには近付いてこれな――」


 地に落ちた後立ち上がり、その状態を確認したリィノがそう不敵に言おうとしたしかしその瞬間、魔王が再び踏み込んできて、拳でリィノの顔面を弾き飛ばした。

 吹っ飛ばされ、ローションで床を滑っていき、したたかに壁面に頭を打ち付けるリィノ。


 ローションなんてちゃちなもんは、魔王には通用しなかった。そりゃそうだ。

そして、やはり攻撃が重い。シャラが倒れるリィノの下に駆け寄り助け起こすが、ダメージで足元がおぼつかない。


 絶体絶命。


 しかし、その時だった。


「アニキ! 恩を返しに来ましたぜ!」

「ドロ、グロ、バロの三兄弟、助太刀致しやす!」

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