おかしなバトル
翌日、リィノとシャラは、大魔王を討つために魔族の本拠地がある西へと向けて、町を旅立った。
「この付近に出現する特筆すべきモンスターのことは頭に入ってるわね」
「ああ。通称『熊殺し』またの名を『剛勇首落とし』だったな。どれだけ力強い魔物なんだ。恐ろしい」
旅立ちの前に、二人は町の書物で、付近に出没するモンスターの情報を調べていた。
そんなやり取りをしながら歩いていたその時、突然、大柄なクマが木の陰から飛び出してきて、リィノ達の前に姿を現した。
しかし、妙なことに、そいつには首から上が無かった。そして、その代わりにというように、右手に握る釣竿から垂れる糸の先に自分のものらしき頭をぶら下げていた。
『釣られクマ』
その特徴的な姿形は、リィノたちにそんな名前を想起させた。
「こんなエサを待ってたクマ――!」
飛び出てくるや、クマはリィノ達を倒して捕食しようと、釣った頭をモーニングスターのように振り回して攻撃してきた。
色々と面食らったリィノ達であったが、その面だけは食らうわけにはいかず必死にかわし続け、隙を見てシャラが反撃の魔法光弾をクマの胸板に食らわせた。
と、クマは衝撃でよろめいたが、倒れずに踏み止まり、飛び退って一度間合いを置いた。
「やるクマな。こうなれば、月の輪にかけた奥の手を出すクマ!」
そして、クマはそう告げると、手の中に魔力で光の円月輪のようなものを作り出し、それを投げ付けてきた。
それには不意を打たれたが、それでも間一髪のところでリィノ達はそれを回避する。
と、流れた光の輪が、背後の木々を次々と切り倒していく。
その威力を目にしたリィノ達は、もし当たっていればひとたまりもなかっただろうと肝を冷やした。
「ふっムダだ。光の輪はブーメランのように何度でもオラの元に返ってくる。オラはこの技で自分の首を切り落とした」
さらに、安堵するのはまだ早いとばかりに、クマはリィノ達に不敵にそう告げてくる。
いや、威張って言うことじゃねえだろ自分で切り落としたんかい、とリィノ達は思ったが、ともかく、その言の通りに光の輪はクマの手元に返っていく。
しかし、クマがその奥の手に自信を持ち過ぎ、饒舌が過ぎたことが運の尽きだった。
それを聞いたリィノとシャラは互いに素早く目配せを交し合うと、その光輪が戻っていく瞬間に合わせて、同時に踏み出した。
「うわぁぁぁぁ―――!」
と、クマはリィノ達と光輪、三つの驚異に同時に対処しなければならなくなり、一気に恐慌状態に陥った。
「べぁっ!」
そして、クマは自身が作り出した光輪に、今度は胴を切り裂かれるという、哀れな最期を遂げた。独特な断末魔と共に。
戦闘終了後、リィノは一息つき今の戦いを振り返ると、ある確信に至り、怒りの声を張り上げた。
「『熊殺し』またの名を『剛勇首落とし』って、自分で自分の首を切り落としたってだけかよ! どんな意味で特筆すべきモンスターだ!」
名前負けってレベルじゃねえぞ! 肩すかしを食らいまくり、体から力が抜け切ってどっと疲れてしまうリィノ達なのであった。
「ブーメランで自分の首を切り落とす……来世の適職は、政治家ね」
シャラの痛烈な皮肉が、後世まで特筆されたという。
ともかくそんなようなモンスター達には勝つことができ、リィノ達は次の町へと進むことが出来た。
(お読み頂きありがとうございました。続きます)
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