似たタイプの短編作です。よかったら。 ※戦闘シーンなし

  『勇者なのにカッコ悪すぎる死に方をする人達』


 魔王が復活する時、戦神の像の元に勇者とその従者となる者たちが召喚される。

 この世界に広く知られる言い伝えは本当だった。

 ある日のこと、気が付くと俺は戦神の石像の前に立っていた。勇者の従者として召喚されたのだ。


 俺ことフッツは、戦闘経験もない普通の18歳。正直、従者が俺なんかでいいのかという疑問を抱くばかりだ。


 一緒に召喚された従者はもう一人、長い黒髪とクールな無表情が印象的な美少女フィア、17歳だ。若くして腕利きと知られている剣士なので、彼女が選ばれたことは理解できる。


 そして勇者、瞳に強い意志を宿らせた端正な顔立ちの青年アル。彼が戦神に選ばれた勇者である。


 神の意志に従い魔王打倒の旅に出た俺たちだったが、旅立って早々に、勇者アルの故郷の村が襲われて壊滅したという不穏な情報を付近の町で聞き、魔物の仕業かと村へ急行した。


 村は壊滅していた。しかしアルが召喚された隙に村を襲ったのは、魔物ではなく、アルの学友だという眼鏡をかけた長髪の青年だった。


「カイン、なぜこんなことをした」


「アル、キミがいたせいでボクはいつも二番手だった。勇者に選ばれたのもやっぱりキミ。そんなことはボクのプライドが許さない。これは復讐さ。キミにはここで死んでもらう」


「フッ、お前も所詮小物だったか。いいだろう、相手をしてやる。だがな、憎しみの刃では俺は倒せん」


 そうして、身勝手な理由を述べたカインと、勇者アルの戦いが始まった。踏み込んだ両者の白刃が交錯する。


 次の瞬間、勇者アルは首をちょいーんと刎ね飛ばされて死んだ。


 もうもの凄く情けない「こんなはずじゃ!」感が全面に表れた顔をして惨めな感じで死んだ。


 そんな彼に、生き残った村人たちは、なんともいえない冷たい視線を送っていた。

 おらが村が排出した勇者にかけていた期待の分だけ、温度差の大きい目の色だった。


 なお、カインはその後、フィアがあっという間に倒してしまった。

 それを見て、村人たちはよりいっそう冷たい視線をアルに向けていた。


 その後、戦神の像の元に新たな勇者が召喚された。彼の名はイル。瞳に強い意志を宿らせた端正な顔立ちの青年だったのだが、人食い宝箱のトラップに引っ掛かってあっさり死んでしまった。


 その後、戦神の像の元に新たな勇者が召喚された。彼の名はウル。瞳に強い意志を宿らせた端正な顔立ちの青年だ。


 ウルと俺たちは、魔物が生け贄を要求してきて困っているという、ダマス村という村を訪れた。


 村長の案内で俺たちは魔物が棲み付いたという谷底の前までやってきた。周囲を断崖で囲まれた緑深い谷底の奥に、その巨大な熊のような魔物はいた。


「あの森の先にいるのが、その魔物か」


 確認するウルに、村長は答えた。


「はい。生け贄を捧げないと崖を登ってきて村を襲うんです、というわけで、と」


 そう言うや、村長は突然後ろから俺たちを谷底へと突き落とした。悲鳴を上げながらもなんとか着地した俺たちは、崖を見上げて口々に怒声を上げた。


「最初から俺たちを生け贄にするつもりだったな!?」


「魔物を倒したらロープで上げてやるよ。また明日見に来てやるから」


 俺の問いに飄々と答えて去る村長。


「おのれ! ならば俺たちは必ず魔物を倒し、生きてここから出てみせるからな!」


 それを聞いて奮起し、ウルは力強くそう宣言してみせた。


 と、その時だった。そこで村長と入れ替わるようにして一人の少女が崖の上に姿を現し、俺たちの元へロープを垂らして言った。


「村長がすみませんでした。これは村の問題です。旅の方たちを巻き込むわけにはいきません。生け贄は私が代わります。みなさんはこのロープをつたって登ってきてください」


 その村の少女のありがたい申し出に、フィアはきっぱりと答えた。


「いえ、みすみすあなたを犠牲にしては、あまりにも寝覚めが悪い。私たちは元々、魔物と戦うためにここに来たので――ってオイ」


 が、フィアが断っている間に、ウルはこれ幸いとロープを登り始めた。唖然とするばかりの俺とフィア。


 その後、怒りのウルが村長に詰め寄ると、


「私が村長です」

「ですが、あなたのことなど知りません」


 などと露骨にすっとぼけてきたため、キレて襲い掛かったのだが、返り討ちに遭って死んだ。


 なお、魔物はその後、フィアがあっという間に倒してしまった。



 その後、戦神の像の元に新たな勇者が召喚された。彼の名はエル。瞳に強い意志を宿らせた端正な顔立ちの青年だ。


 旅立ったエルと俺たちは、魔族に囚われた王女を激闘の末助け出すと、その夜、近くの町に宿を求めた。


 と、宿屋へと向かう途上、エルは露出の多い格好をした女に声を掛けられた。


「あらカッコイイお兄さん、パフパフいかが?」


 救出したお姫様を抱きかかえている格好のままだったにも関わらず、だ。


 当然、エルはそれをクールに断った。のだが、それでも女への苛立ちを抑えきれなかった俺は、嘆くようにエルに言った。


「まったく、声をかける相手の状況をよく見ろってんだ。ね、エルさん」


 と、エルは鼻で笑いながら答えた。


「フッ、そもそも、ああいった夜の店にはどんな危険が潜んでいるかわかったものではないからな。行くべきではない。わかったなフッツ」

「あーそうですよね。さすがエルさん」



 翌朝、風俗店で冷たくなっているエルの姿が発見された。


 昨晩、王女を抱きかかえたまま宿屋に入ったはずの彼の身に何が起こったのか、俺の脳みそでは理解することができなかった。


 そんなエルの亡骸を、王女はゴミを見るような目でひたすら見続けていた。


 なお、エルが所持していた金品は全て持ち去られていたのだが、俺たちにとって問題なのはそんなことではなかった。



 その後、戦神の像の元に新たな勇者が召喚された。彼の名はオル。瞳に強い意志を宿らせた端正な顔立ちの青年だ。


 旅立ったオルと俺たちは、魔王が棲むという渓谷のほど近くにある山の山頂に来ていた。その山頂には、一振りの剣が突き刺さっていた。その剣を見ながら、オルは口を開いた。


「俺はかつて、親友だったバレスと共に、ここで魔王と戦った。もっとも、俺は魔王の強さに恐れをなし、逃げ惑っているばかりだったがな。バレスは命と引き換えに魔王を退けた。これはバレスの剣だ。俺に、この剣を受け継ぐ資格があるのだろうか」


 その問いに、俺とフィアは熱を込めて答えた。


「今のオルさんだったら、絶対にその資格がありますって!」

「そうよ。今のオルなら、バレスもきっと認めてくれるわ」


 それを聞き決意を固め、オルは友の剣に手をかけた。


「ありがとうみんな。聞こえるかバレス! この俺が、勇者として戻ってきたこのオルが、友である君の遺志と聖剣アロンダイト、今ここに受け継ぎ、魔王を討つ!」


 気高き誓いと共に、オルはその美しい剣を力強く引き抜き、天へとかざした。


 その日、彼はモチをのどに詰まらせて死んだ。


 それからの勇者は、戦神の召喚失敗により死んでいった。百人死んだ。そして、百一人目として召喚されたのが、勇者カル。瞳に強い意志を宿らせた端正な顔立ちの青年だ。


 カルと俺たちは快進撃を続け、ついに魔王の元まで辿り着いた。しかし魔王は想像を遥かに超えて強く、俺たちは苦戦を強いられた。と、その時だった。


「フィア、フッツ、下がっていてくれ。これから封印を解く」

「え?」


 封印とは一体……。戸惑う俺たちの眼前で、カルの体がふいに眩い光に包まれた。と次の瞬間、カルの体は一瞬にして巨大なドラゴンの姿へと変貌を遂げた。


 そして、そのドラゴンは口から燃え盛る炎を吐くと、その炎はたちまちの内に魔王の体を焼き尽くしてしまった。


 魔王の打倒を果たすと、ドラゴンは俺たちの方へ振り返り言った。


「今まで黙っていてすまなかった。竜族の秘術で人間の姿になっていたのだが、この封印は一度解くともう戻れない。竜族の力は、今見せたように絶大だ。人間たちとは一緒にいない方がいい。ここでお別れだ。私は人間と友達になりたかった。みんな、私と友達になってくれてありがとう」


 それだけを告げ、カルはどこかへ飛び去っていった。


「カル――――!」

「カル―――! ありがとう!」


 去りゆく友の背に、俺とフィアは何度もそう叫び続けていた。


 その後、カルはダマス村付近の谷底に棲み付き、村に生け贄を求めるようになったので村長に殺された。


 終劇。

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