第12話 お出掛け 〜海〜

 “もうすぐ着くよ”と純斗は、赤信号中に永人にメッセージを送った。


 レコーディングの日、永人から、“海までドライブがしたい”と連絡が来た。その文章からは、機嫌が悪いなど読み取る事が出来なかった。


 マンションの下に着いたと永人に連絡すると数分で出てきた。


 おはよう、と挨拶を交わし永人は助手席に座った。


 「車の中、綺麗だね。」


 永人が辺りを見渡している。

バックミラーに吊るしていた芳香剤に鼻を近づけ、いい匂いと笑みが溢れていた。


 「人を乗せるんだもん、綺麗にしてますよ。それより、今日晴れてよかったな。少し寒いけど、綺麗に夕焼け色に染まった海が見られそうだ。」


 昨夜は、お互い夜まで仕事だったため、集まるのは14時にしようと連絡していた。

千葉にある九十九里まで大体車で1時間半。

着くのは、16時頃だろう。

夕日を見るならその時間がピッタリだと考えた。


 純斗さ、と永人が口を開いた。


「レコーディングどうだった?初アルバムだったしユニット曲もあったから、俺張り切りすぎちゃってさ。緊張もしてたけど、張り切りすぎて収録中まさかの、声が裏返っちゃうっていうハプニングがあったんだ。」


 笑いながら言いつつも、楽しかったな、と言う顔が、本当に楽しかったのだと、こっちまで笑みが溢れた。


 「俺も楽しかったよ。初アルバムっていう興奮感。ユニット曲なんて、音弥が歌合わせしようよ、って。俺がレコーディング終わるの待ってたんだぜ。その後、収録直後だから、少し休憩してからやろうって言ってくれたんだけど、俺寝ちゃって。しかも、2時間!音弥も起こしてくれれば良かったのに、気持ち良さそうに眠ってたからって、どんだけ優しいんだよって感じだよ。」


 思い出し笑いをしながら永人の方を見ると、窓の外を眺めていた。


 「永人?」


 振り向いた顔は、一昨日に見た顔と一緒だった。


 楽しかったんだね、と不貞腐れ声でまた窓に目をやった。


 「なぁ、一昨日もそうだったんだけど、機嫌悪いよね?何かしたかな、俺。折角、オフの日に出掛けるんだからさ、機嫌悪いのやめない?何かあるんだったら言ってよ、黙って機嫌悪くなられてもわかんねーし。」


 純斗が楽しそうだから、と今にも消えてしまいそうな声で永人が言った。


 「純斗が楽しそうだから!音弥の事を話してる時の、純斗の顔が楽しそうだから!レコーディングの後、2人で仲良く歌合せしてるのも見ちゃったし……。」


 窓に向かって叫んでいたため表情は読めなかったが、明らかに。


 「まさか、嫉妬?だから、機嫌悪いの?」


 真ん丸目で純斗を見た。耳が少し赤くなっている。


 「そ、そ、そんなんじゃないし!」

 「いや、そうでしょ。耳赤いよ?」


 耳を指摘すると両手で隠した。そして、俯いたまま動かない。

可愛くなり、もっといじめたくなってしまった。


赤信号のタイミングで、永人、と呼ぶと振り向いた。

顔を上げきる前に、触れるだけのキスをした。


 口をパクパクさせている永人に、意地悪く口角を上げて見せた。


 青信号に変わり、車を走らせた。

横目で永人を見ると耳が更に赤くなっていた。


 約1時間半、予定通り16時前に九十九里に到着した。

絶好の夕日映え。

冬のせいか、誰一人いなかった。

永人はというと、あれから眠ってしまった。そして、まだ寝ている。


 「永人、着いたよ。」


 揺さぶっても起きない。どうするか……。



 「起きないと、キスするよ。」


 パチっと目を開け、起きました、と車から出た。


 「起きてんじゃん。」

 「タイミングが。だって純斗変な事するし。」


 俺のせいかよ、と言うと、また耳が赤くなっていた。


 夕日色に染まっている海は、幻想的で切ない気持ちになった。


 「冬に海っていうのもいいな。」

 「でしょ?好きなんだ、この景色。だから、純斗にも見せてあげたかったんだ。」


 自分たち以外、誰もいない。

海を独り占めしている気分だった。

世界には、この2人しかいない。そんなロマンティックな思いがした。


 浜辺で座り、暫く海を眺めていた。

段々、陽が落ちて薄暗くなってきた。


寒くなり、車に戻ろうかと言ったが、永人は、まだ居たい、と動かなかった。

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