第10話 レコーディング1日目
レコーディングのため、特製の蜂蜜入りの温かいリンゴジュースを飲んで寝た。
声の収録や音楽番組の前日では、必ず寝る前にこれを飲んでいる。
そうしないと良い声が出せなくなりそうなためで、一種のおまじないのようなものだ。
レコーディングは2日に渡って行われる。
1日目は、アルバムに入っている15曲の内、8曲を収録。
残りの7曲+ユニット曲の収録を2日目。
これを5人分収録する。
スケジュールがタイトなのは、1日丸ごと空いている日程が、この2日間しかないためである。
前以てマネージャーがこの2日間は、5人のスケジュールを”レコーディング用”に空けていたからだ。
そのため、早朝から夜中まで続く事になる。
時間で言うと、朝6時〜深夜1時前後だ。
トップバッターの音弥は既に収録している。
純斗の番は10時からだった。
自宅では大声を出せないため、早く来て発声練習をするためだった。
「あー。あー。ら、ら、ら。」
発声練習をしていると、音弥が入って来た。
「おはよう、次純斗の番だよ。」
「おはよう、もうそんな時間か。」
レコーディングルームへ行こうとしたら、音弥に呼び止められた。
「純斗のレコーディング終わったら、ユニット曲の確認したいんだけどいい?」
「もちろん、大丈夫!」
ヘッドホンを付け、スタッフと少しやり取りし収録に入った。
アルバムのメインになる曲をまず収録した。
曲名は、“Love Planet”。
この曲は、アップテンポで”世界中の誰よりも、君は魅力的に見える”。でも、中々気持ちを伝えきれない、そんな想い込められている。淡い恋心だ。
当初の予定では、8曲を1日で歌う事になっていた。
自分のパートのみの収録といっても数はあるし、何度も撮り直す。
結果、5曲が精一杯だった。
明日もこの調子だと、時間内には終わりそうにない。
時間内に収録できなかったものは、後日各々のスケジュールが空いている時間に撮影される。
各々のため、スタッフは都度都度、集まらないといけないから大変だ。
14時からのレオンが部屋の前で待っていた。
「おはよう!何曲歌った?」
「5曲。予定通りにはいかないね。」
笑いながら言うと、そうだよな〜、といいレコーディング室に入っていった。
今日は、レコーディングのみの仕事だったので、後はオフだ。
純斗は、軽く伸びをし、欠伸をしながら楽屋へ入った。
「音弥〜。終わった。ユニット曲合わせる?」
楽屋で音弥が歌詞カードを見ていた。
「いや、収録直後だから疲れたでしょ。少し休憩してからでいいよ。」
「じゃぁ、少し横になってもいい?寝てたら起こしてくれていいから。」
わかった、と音弥が再び歌詞カードに目をやった。
《『純斗、ここ入ろう!え、もしかして純斗怖いの?お化け屋敷。大丈夫、俺が手繋いでてあげるから。』遊園地か?手を繋いでいるのは永人か。そうか、今日は遊園地に遊びに行くって言ってたっけ。にしても、暗いな。お化け屋敷ってそこら辺にいる人間がやっているってわかってても怖いものだ。『地獄へ連れて行こうか〜』》
「ぎゃー。」
はぁはぁ、びっくりした。なんだ夢か。
ダセー、お化け屋敷如きに魘されて起きなきゃなんないんだよ。
両手で髪の毛を乱し、ふと気がついた。
「は、今何時!?」
音弥の方を見ると、これでもかと言うくらいに目が見開いて純斗を見ている。
「大丈夫か?すげー、悲鳴だったけど……。怖い夢でも、見た?」
「あ、いや、ごめん。恥ずかしいんだけどさ、お化け屋敷の夢見たみたいで……。」
お化け屋敷?、と音弥がキョトン顔から大声で笑った。
「あははは!お化け屋敷の夢見て、魘されて飛び起きたの?純斗可愛いね。お化け苦手だったっけ?」
笑うなよー、と不貞腐れた。だって、余りにも音弥が爆笑するから。
「ごめん、ごめん。そんな不貞腐れんなよー。誰でも不得意のものはあるからさ。」
「バカにしてんだろ。」
していない、してない、と言っているが、まだ笑っている。
「それより、今何時?俺、結構寝ちゃってた?」
時計を見ると16時を指していた。
「え!2時間も寝てた!?起こしてくれても良かったのに。ごめん。」
「いいよ、爆睡してたし起こすのも可哀想だなと思って。それにこの後、何も入っていなかったし。」
予定入っていた?と、音弥が水を渡した。純斗は首を横に振った。
「なら、今からユニット曲付き合ってくれない?」
もちろん、と音弥の横に座った。
申し訳なさでいっぱいで、ごめんな、と言うと、もういいよ、と音弥が笑った。
“Promise〜星ニ願イヲ〜”がユニット曲だ。バラード曲になっていて、気持ちが入りやすい歌詞になっている。
一通り歌った後、気になった部分を合せた。
時間は、既に18時を指していた。
「純斗、付き合ってくれてありがとう。明日もあるし喉壊すとアレだから、この辺で帰ろうか。」
明日もよろしく、と音弥が肩を叩いて出ていった。
12月と言うこともあり、18時でも外は暗かった。
この時間からゆったりできるのは久々だった。
どこにも寄らず、家でゆったりする事にした。
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