第7話 告白の返事②
仕事に私情を持ち込むのはプロとして失格だ、とずっと思っていたし、そういう事が純斗自身嫌いだった。
なのに、収録は最悪だった。
もしかしたら、もう呼ばれないかもしれないレベルだった。
「本日のゲストはSOLEILの桂木純斗くんと白井永人くんで〜す!」
「よろしくお願いします!」
「すごいよね、人気。忙しいでしょ。」
「そんなことないですよ。ありがたいことにお仕事たくさんいただいてます。」
「では、お二人VTRフリをお願いします。」
『VTRどうぞ!』
呼吸を合わせるために目を合わすのも、普段なら抵抗なく出来ていた行動すら純斗は出来なかった。
永人の目を直視出来なかった。
VTRに流れていた“縄跳びを二人で飛ぶ”をする事になった。
永人が縄を持った。
一緒に一つの縄で飛ぶ訳だから勿論距離は近い。
私情を持ち込んではいけない、そう思えば思う程、変に意識してしまう。
「始めたいと思いますが……、純斗くん、ボーッとして大丈夫?」
「え、あ、すみません。」
「忙しいからボーッとしちゃったか?あはは、人気者は大変だ。」
MCが笑いに変えてくれたから救われたものの、ボーッとしているなんて前代未聞だ。
結果を残すと意気込んでいたが、結局は私情を挟んでしまった。
収録が終わり、永人と話をするために楽屋にいた。
お疲れ……、と純斗が声をかけようとしたがやめた。
永人の表情がいつにも増して怖かったからだ。
「ねぇ、今日のあれ何?」
「何って……。」
「何って、収録。収録中ボーッとしてるなんてあり得ないでしょ。それに目も合わせないし。プライベートはプライベート、仕事は仕事で分けてくれる?プロとしての自覚が無いと思われたく無いんだよね。俺ら、グループなんだよ?グループみんながそんなんだと思われるのが嫌なんだよ。」
いつもニコニコしている永人が怒っているのを初めて見たかもしれない。
それだけ純斗の今日の態度が悪かった事を証明する。
「ごめん、自分でも分かってる。今日は私情を挟んで仕事をしてしまった。言い訳する気は無い、本当にごめん。」
悪いのは全部純斗だ。
MCの人がいたから何とかなったものの、危うく収録に穴が開くところだった。
生放送でないならいいという訳ではないが、生放送でないだけ良かったと思ってしまった。
永人は、純斗の目をジッと見つめて話を聞いている。
「純斗が悩んで、葛藤しているのは見てて分かってた。でも、それを可愛いとも思っていたのは事実。ただ、収録中に私情を挟んで、危うく穴を開けるかもしれない程悩ませていたんだと、俺も反省している。そうまでして悩んでくれてありがとう。今まで通りメンバーの一員として仲良くしてもらえると助かります。」
その言葉を言って出て行こうとしている永人を引き止めた。
「何で出て行くの?まだ、俺の話終わってないよ。」
目をまん丸くする永人を横目に、言葉を続けた。
「正直、俺は男で、恋愛対象は女なわけで。永人の告白はビックリしたよ。だって、そんな風に思われていたなんて思ってもいなかったし、男から受ける事も今までの人生で経験した事もなかった。漫画だけの世界だと思っていたから。でも、今日までの3日間ずっと考えてた。どうやって断ろうと。周りの目もある、今のSOLEILにスキャンダラスはご法度。永人を傷付けないように断ることばかりずっと考えていた。」
「呼び止めてまで、こんな話聞きたくない。かえって傷付くよ。」
気づけば、涙目の永人を優しく抱きしめていた。
「やめろよ。同情でこんな事しないで。」
純斗の腕の中で暴れる永人をさらに抱きしめた。
「断ろうと思った。でも、自分でもよく分からない。永人の気持ちに応えたいと思ってる自分がいる。」
真っ赤な目で純斗を見る。
「同情じゃない。この気持ちが永人と同じ気持ちではない。ただ、永人の事を考えれば考える程……、気になる。これが一番シックリくる言葉なんだ。曖昧な答えでごめん。永人がこんな俺でいいって言ってくれるなら、付き合ってください。」
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