第5話 昨日の記憶

 頭が痛い……。それに寒い……。

ボーッとする頭でも分かった、見慣れない天井。

 どこだ?頭が痛い……。


 腕に重みがある事に気づき、その腕の方に目をやった。

 「え。」

 状況が理解できない、どういう事なのか。


何故、永人が純斗を腕枕にして寝ているのか。しかも裸⁉︎


ここが自分の家でない事は、目が覚めた時に既に理解済みだった。

という事は、ここは永人の家。

昨日のことが丸で思い出せない。

撮影後に永人に誘われて二人で食事に行った。

それから仕事の話や、将来の夢や目標を酒を交わしながら二人で熱く語り合った。


それから、二軒目にバーへ行った。

二人して、結構呑んだ気がする。

しかも、純斗は昨日、撮影で足を引っ張ってしまった自分の悔しさから永人の倍は酒が進んでいた。


 そうだ、バーで撮影の話をしていた。

慣れない表情の撮影で、純斗は相当苦労した。

何故、自分は出来ないのか。

何が自分に足りないのか、自分自身葛藤した。

意外にも仕事には真面目に取り組んでいた純斗にとって今回の撮影は応えた。


あるハリウッド俳優が言っていた言葉が頭に浮かんだ。

“何事も経験だ。経験なくして得るものなし。いい役者とは、自分を犠牲にしてまで何者かになりきる事が出来るかどうかだ。”


純斗は、“何者”かになれる日が来るのだろうか。

昨日の撮影からはまだまだ道は遠そうだ。


 永人が言っていた“好きな人をカメラに例えてやってみる”。

永人は、永人なりに考えて仕事に臨んでいた。

純斗も見習わなければと思いその話題を持ちかけた。


 それから、永人が“何か”大事な話しがあると言っていた。

一番大事な“何か”が、どうしても思い出せない。

永人は大事な話をするために純斗を食事に誘ったのだ。

それなのに純斗は自分の事で一杯一杯になっていた。

申し訳ない気持ちで永人を見た。気持ち良さそうにスヤスヤ眠っている。


 時計を見ると十一時を指していた。


 「永人、永人、起きろ。」


 んー、と息を漏らしながら目をパチクリさせ純斗に抱きついた。

 「おはよー。純斗。」


 「ちょっと何してんの?ここお前の家だよな?昨日、俺をここまで運んできたのか?それになんで裸なの?」

 申し訳なさと反比例して、いきなり抱きつかれた事に驚き一気に話してしまった。


 「起きていきなり質問攻め?まぁいいや、順番に言うよ。まず、ここは俺の家。で、昨日、フラフラだった純斗をここまで運んだ。裸なのは、純斗も裸じゃん。」


 二日酔いで頭が働いていなかったせいか、確かに純斗も裸だ。

ちなみに、下は履いていた。


 「ごめん、昨日俺フラフラだった?」

 「もうフラフラも良いとこだよ。撮影で迷惑かけたー。ってずっと言ってたよ。別に迷惑かかってないし、最後はちゃんとOKだった訳だし。カメラマンも良かったって言ってくれたじゃん。って何回も言った気がする。ん?何、覚えてないの?」

 「いや、バーに行ったまでは覚えてるよ。ただ、それからは……。」

 「じゃぁ、そのバーで俺が大事な話した事は?」

 「そこら辺が曖昧で……。大事な話してくれたのにごめんな。そのために誘ってくれたんだろう。」



 しばらく沈黙が続いた。

 純斗は、自分の情けなさを恨んだ。後悔しかない。


 「俺も、酒の場で言う話じゃなかったから気にしないで。」

 「そうは、いかない。酔っていた上に覚えていないなんて最低な言い訳だけど、って今聞く話じゃないか。ごめん。」」


 「優しいよね、純斗は。」

 「優しいも何も、俺が悪い訳だし。」




 「昨日言った大事な話って言うのは、純斗の事が好きだって事。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る