第2話



「行ってよし、、、」最後に彼はそう言った。


...私はその後のことは、あまり覚えていない。


眠っていたようだ、


あぁ、それにしてもなんだか、、、


あまりにあっさり、解放されたような気がして……


ただ、「行ってよし」と言われて、車の中から外へのドアを開けたとき、


まだ外は全然昼間で、キラキラ差し込む西日にビックリしたことは、よく覚えている。


少なくとも夕方か…とっくに日が沈んでいてもおかしくない気がしていた私にとって、容赦なく差し込む光線はあまりにも眩しすぎた


男は、車をでてからはもうすぐに車のドアを締めてしまった。


バタン、と音がしてあの男が遮断された時は、拍子抜けすらしたほどだ。


ナンバーの確認もしない程に、、、


いや、してても無駄か、きっと対処する方法を幾通りも考えているだろう


ここは都内の公園かな、、、


トボトボと道を歩き帰路へ着く


電車を乗り継ぎ自身の住んでいるアパートへと帰ってきた


正直その最中も頭の中は上の空で


どこをどう歩いてどう帰って来たのかもあまり覚えていない程だった


部屋に入り、改めてベッドに突っ伏すと、急激に巡りだした思考を整理すべく、頭に指を添える。


(ええと……ええと……)


いやな出来事だった、悪夢だ


思い出したくはないが、ゆっくりゆっくり、今日の『出来事』を回想してみた。


そう、思えばかなり散々な目に合わされた、


拘束され、くすぐられて笑わされ、


しまいにはマシンを使って無理やりイカされた


元はと言えば私が悪いことをしたのだけれども


そんなことまでする必要があったのだろうか


彼は「正義」だと、「悪人を成敗する」のだと語っていたけれど行動はあまりにも邪悪そのものじゃないか?


私にこれほどの恥辱を、、、


そして写真をばら撒くというのが、彼の言う「正義の行使」による口封じの「保険」……と考えるのは、いかにも楽観的すぎる


むしろあれは、これからも私を従わせるための材料なのではないだろうか!


となるとこれは終わりではなく始まり、、、


と、彼女は推測する、


彼のおどしに泣き寝入りするわけにはいかない。


くそ、車のナンバーを覚えておけば良かった、、、無駄かもしれないが。


「警察に届けを出すしかないわね、やはりあの男は逮捕してもらわなければ」


彼の言う正義よりも


警察のほうが正義に決まっている、


彼女は警察へと、連絡した


その頃、警察署では


「高梨美香」が休憩室の長イスでコーヒーを飲んでくつろいでいたところだった


「ふう、、」


28歳 167センチ。


かなりの高スタイルのため


スーツのパンツもよく似合う。


署の男性警察官からの人気も高い


しかし本人は仕事一筋で


男に興味がないらしく


男性経験もほとんどない


性格はクールでいつもピシッとしている


正義感は人一倍強い


誰よりも警察官らしい人物だろう


そのため人気は高いが他者を寄せ付けない独特の雰囲気を醸し出している


簡単に言えば


「オーラがある」


といったところだろうか


そんな彼女がやっとの休憩で


コーヒーに舌つづみをうっているとき


今度は署長がやってきた


「すまん高梨、今空いてるか?」


普通の人間なら休憩時に


仕事が舞い込んでくることを


めんどくさいと思うだろう


いくら警察官だとしてもだ、


しかし彼女は違う


仕事に対する熱意が、


「はい、勿論大丈夫です」


「女性の方が署に来た、そしたら何か被害に遭ったらしい。女性警察官に話を聞いてもらいたいと」


「どういうことですか?」


目が一瞬にして変わった。


そう、女性警察官を指名するということは、性犯罪にあった可能性が高い。


「詳しいことはなにもわからない、行ってくれるか?」


「すぐに行きます」


コーヒーカップを洗い、その被害者のもとへと向かった


彼女は個室で「恵」と会った。


恵はすべて話した


男に眠らされ、拘束状態でくすぐり責め、また電マで責められたこと、それをすべて撮られてなにかあったらバラまくと脅されたこと


男は頼まれてやったこと、原因は自分の職場での不正行為だということも包み隠すことなくすべて話した


「あの男は正義という言葉を使っていました、悪人に裁きを与えると、、、」


「正義、、、なるほど卑劣ですね、たしかに恵さんに悪い部分はあったのも事実ですが、その男の行動は立派な犯罪です、正義でもなんでもない」


「はい、刑事さんも女ならわかりますよね。どれだけの恥辱か」


「わかります、わかります、しかし、、、」


「しかし?」


「今回は恵さんの学校での不正行為も含まれておりますのでなかなか難しい事件なんです、その男の行為は勿論悪なのですが、、、」


「そんな、、、私ほんとにひどいことされたんですよ、刑事さんだってくらってみたらわかりますよ、」


「落ち着いてください、わかってます、ここで放置していたら、次々と犠牲者が増えるでしょう。ですから必ず逮捕します」


そう聞いた恵は息を整え、静かに頷いた。


高梨の頭にふとよぎる、、、


(正義、か、、、)


恵が帰ったあと、高梨は一人で考えた。


彼女にはくすぐられて笑ってしまうことも、イカされるという感覚もどうしてもわからなかった。


くすぐりはいきなりの不意打ちでさえなければべつに耐えようとすれば耐えられるものじゃないか?


さらに憎き男に意地悪をされたからといって、耐えられずに昇天してしまうものなのだろうか


マッサージ機を当ててこようがその相手は恋人でも好きな人でもなんでもない、ましてや憎むべき相手によって昇天なんて、、、


しかしこれは彼女には全くその経験がないことと、男に興味がないこと、並外れた精神力と理性を持っているからこその発想であって


やはり普通の女性にとってはくすぐりも色攻めも耐えられるものではないだろう


だが万が一にも相手に弁護士がついたら、その辺を突いてきそうだ、


「昇天したということはその男へ女性として屈服したということですよね、あなたは好きじゃない男性でも感じてしまうのですか?」


とでも言ってきそうだ、


さらにこの事件の発端は恵自身に原因があるときた、


勇気をもって暴力を訴え出た女性に、大恥をかかすようなことは絶対にできない


女性警察官にそのマシンを当てて確かめるわけにもいかないし、「くすぐるから我慢して」といきなりいうわけにもいかないし


「みんなの意見を聞いてみるしかないわね」


といい捜査会議を開くように署長に頼んでみることにした、

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