いつもの朝のちょっとした騒動
『いただきます!!!』
全員が席についたところで、家族全員揃っていただきますの挨拶。別に習慣づけてるつもりはないのだけど、家族がみんな揃ってる食卓はきちんと挨拶しようという気持ちがみんなに根付いてるみたいでちょっと嬉しい。
「ん〜!やっぱり朝ご飯は和食よね〜!朝の胃に染み渡る〜!」
大袈裟に感激している隣の遥香を見て思わず私は苦笑を浮かべる。遥香は父親が大企業の西園寺グループの元会長(遥香と知り合った当時は現役の会長さんだったけど、今はその地位も息子さん達に譲って優雅な隠居生活を楽しんでるらしい)というお嬢様なので、昔の私は勝手なイメージで遥香は豪華な食材を使った洋食が好きなのかと思っていた。けれど、遥香は和食が大好きである。特に、朝食には和食がいいというのもあって、昔遥香が私に作ってくれた朝食のメニューは和食が多かった。
「このアジの塩焼きなんて最高!」
「良かった!それ自信作なの!初めて
私が桔梗さんの名前を出した途端、遥香が何故か笑顔のまま固まった。
ちなみに、桔梗さんとは遥香の幼馴染兼専属のメイドさんである
「奥様は名実共にお嬢……遥香様の奥方になられたのですから、私の事は呼び捨てで呼んでください」
と、言われたのだけど私の性格上それは無理だった。それに、週に何回か桔梗さんから料理を習ってる身としては、桔梗さんは今や私の先生でもあるので、余計に呼び捨てにしづらい。
「ん〜!このきんぴらごぼうも美味しいよ!真由美!」
遥香が固まったのは数秒で、すぐに今度はきんぴらごぼうを食べて私に笑顔を向けてくれる。
「良かった!そのきんぴらごぼう!最近ようやく桔梗さんに合格点もらえたのよ!」
桔梗さんって案外スパルタな上辛口評価だから、合格点まで達するのも厳しかったりするのよね〜……そんな事を思い返してそう言ったら、何故か遥香再び笑顔のまま固まった。あれ?私……またなんか余計な事言っちゃった?
「ご……ご飯も綺麗にふっくらと炊けてるね……!」
が、それでも固まっていたのは数秒で、すぐに笑顔でそう言う遥香。若干頰が引きつってるのは気のせいかしら?
「そうなの!そのご飯も桔梗さんにふっくらと炊くコツを教わったのよ!」
ちょっとした一手間で、安い炊飯器でもあんなにふっくらと炊けるんだから本当にビックリよね〜……などと思い返していたら、遥香がまた再び固まってしまった。あらら?私なんかやっぱりまずい事言ったかしら?
しかし、今度の復帰は先程よりも早く、遥香はスッと立ち上がり、リビングのソファにダイブして
「うわあぁぁぁぁ〜ん!!?私の真由美が桔梗に調教されてるよぉ〜!!?」
「えっ!?ちょっ!?調教って!?どうしてそんな話になるの!!?」
私は急いで遥香の側まで駆け寄って、グズついている遥香の頭を優しく撫でる。
「うぅ……!?真由美がぁ〜……!?私の真由美がぁ〜……!?桔梗に料理教わりながら桔梗に魅了されていってるよぉ〜……!?」
もう……急に泣き出したから何事かと思ったら……私が桔梗さんの話題ばかりするから嫉妬するなんて……本当に何年経っても私の最愛の人は可愛い人なんだから♡こんな素敵な人がいるのに誰かに魅了されるはずないでしょ!
「バカね……私が桔梗さんに魅了されるはずないでしょ。私が桔梗さんに料理を教わってるのは、私が貴女を喜ばせるような料理を作りたいからって前にも言ったでしょ?」
「……言った……」
若干まだ拗ねた感じの口調でそう答える遥香。
「今の私の生活は、全部遥香の為にしてるの。私は身も心も全部遥香に捧げたつもりよ」
「……本当……?」
「もちろん」
「……ん……じゃあ……キス……して……?」
う〜ん……なんとなくここまでもっていきたくて、あんな事をしたんじゃないか?という考えが私の頭をよぎったけれど、最愛の人にこんなに可愛くおねだりされたら断れない。私は自分の顔は遥香の顔に近づけ
『ごちそうさまでした!!』
キスまであと少しのタイミングを見計らったかのように、娘達がごちそうさまの挨拶をする。見れば、3人のテーブルには食器だけで、朝食は全部食べ終わっていた。朝食が残っているのは私達2人だけ。
「お母さん達。急いで食べないと娘達の出迎え出来なくなりますよ」
遥美が最後にそう忠告すると、3人の娘達は自分の部屋へと向かう。恐らく、学校へ行く為の準備や確認をしに行ったのだろう。
私と遥香はしばし呆然と3人の娘達を見送っていたが、すぐに2人してハッと我に返って急いで朝食を食べた。あまりに急いで食べたせいで、自分が作った朝食の出来栄えがよく分からなかった……
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