妖精の仕業
Cさんはよく失くしものをする。
ある時は、ペン。またある時は、メモ帳。またある時は気に入っていたはずの指輪まで失くしていた。
そのことを問うと、Cさんは決まってこんな話をする。
物がひっそりとなくなることがある。
小さな頃からそう言うことはよく起こったし、自分がそそっかしこともあるので、ペンやメモ帳、ヘアピンやピアス、ネックレスなど小物がなくなってもあまり気にしていなかった。
だが、それが「妖精の仕業」だと気が付いたのは一人暮らしを始めてしばらくたった頃だった。
Cさんには買ったばかりの気に入りのコップがあった。ステンレス製の保温と保冷のできるコップで結構いいい値段がした。正面にオーロラ加工でお湯につかるペンギンの書いてあるコップだった。
Cさんがそのコップに紅茶を入れて楽しんでいた。携帯電話が鳴ったので、机の上にコップを置いて一瞬目を離した隙だった。コップが忽然と消えていた。中身もまだ半分ほど入っていたはずだった。
そそっかしくて失くしものの多い自分でもさすがに一瞬目を離した隙にコップを失くすなんてことはないだろうとぐるりと部屋を見渡すと、部屋の隅でゴトン、と硬い音がして続いて、音のしたほうの床に茶色いシミが広がった。
急いで寄ってみれば、そこは箪笥の裏側だった。細い隙間を覗き込めば、先ほどまで手元にあったコップが横倒しになっている。そこからこぼれた紅茶がまだ湯気を立てている。
こぼれた紅茶を拭こうとぞうきんを隙間に入れてみる。しばらく掃除を怠っていた場所だったので、埃やらで辟易するのを想像していたが、汚れが一緒に捕れることはない。それどころか、失くしたはずのピアスがぞうきんに絡まって出てくる。
スマホのライトを当てて妙にきれいな隙間を再び覗き込んでみると、失くしたはずの手帳やら、ペンやら、ヘアピン、ピアス、ネックレスなどが隙間の中できらきらと光を反射していた。
隙間から助け出したコップには爪の先ほどしかない小さな手形が付いていた。
「妖精って光物が好きなんだと思うよ」
とはCさんの談だ。
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