橋の下の花嫁
これは留学生のOさんが体験した話。
Oさんはその日、学部の友人との飲み会があり、帰りがだいぶ遅くなった。
Oさんは学校からそう遠く離れていない場所に友人とルームシェアをしていて、家は友人の希望で川の近くの少し広めのアパートを借りていた。何でも、Oさんの友人は水にとても惹かれるらしかった。
その日も電灯しかない川沿いの暗い道を歩く。酒が回っているのか、足取りはゆっくりとしたものだった。
しばらく歩くと橋にたどり着き、顔を上げれば自分の住むアパートはすぐそこだった。部屋には電気が付いていなかったので、きっと友人は眠っている。
Oさんが気持ち急いで橋を渡ろうとした時だった。
川面で白い何かがゆらりと揺れたような気がする。
何だろうと思って目をやれば、それはレースの薄い布のように見えた。川は色々なものが流れてくるので、白いレースが流れてきても不思議ではない。
だが、薄暗い中で不思議とその白いレースに目が吸い込まれてしまって、Oさんはそのレースがどこに引っかかっているのか、と目線を上に動かした。
橋の土台の部分にウエディングドレスを着た人物がぽつりと立っている。
Oさんが驚いて目を見張るが、その人はまんじりともしなかった。
不気味に思いながら、その橋を渡ってアパートの部屋に滑り込む。
白いレースが忘れられずその一晩悶々として過ごしたが、Oさんの中にある考えが浮かんでいやな気持ちにさせた。
もし、あの女性が自殺をしようとしているなら。そもそも、あの時間帯に、ウエディングドレスで川の中にいることの方がおかしいのだ。
だが、Oさんは恐ろしさに煽られてもう一度確認に行くことができなかった。
陽が昇ってから、友人を伴って橋を確認しに行ったが、その人はもちろん、レースの一欠けらも落ちてはいなかった。
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