瞬間移動ばばあ

 初めて見たのは確か、中学生の時の帰り道。

 郵便局の通りの前を背中が丸まったおばあさんがゆっくり歩いていた。郵便局の前は大通りだったから、まっすぐな道がずっと続いていて、しばらく歩いたら追い抜かせそうだななんて思っていたのを覚えている。

 友人に話しかけられて、横を向いてからさてと顔を戻せば、そのおばあさんの背中は小さくなっていた。

 またしばらく歩くと、服の柄が見えるくらいまで追いついて、ああ、また追い抜かせそうだと思った瞬間に、小道から車が飛び出してきたので、いったん歩みを止める。車が去ったあと、おばあさんの背中は豆粒くらい小さくなっていた。


 それが見たことあるものだと思い出せたのは何故だったか、おそらくは何か理由があったが今では定かに思い出せない。

 高校生の夏だった。

 うだるような暑さで、少し離れた所ではアスファルトから陽炎がゆらゆらと立ち上がっていた。

 視線の先には一人の老女。夏なのに、長袖に茶色っぽい毛糸のベストを着ていた。手に持っているものが白菜の入ったビニール袋だとわかるくらいに近づいた途端。

 暑さに陽炎が揺らめいた瞬間、その老女も揺らめいて。

 気が付けば数十メートル先である。


 大学の飲み会の帰りだった。地元も離れ、しばらく一人暮らしが続いていたためか、生活はあれていた。

 深夜の道をふらふらと歩いていれば、対面から老女が一人とぼとぼと歩いてくる。真夜中も回った良い時間だったのに、白菜の入ったスーパーの袋を下げて、茶色い毛糸のベストを着た、背中の丸まった老女が一人。

 いつかの時みたいに、路地からにょっきりと車が頭を出して、道路の方へと走っていく。老女も車に進行を阻まれていたはずであるのに、その姿は、私のはるか後方にあった。

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