廃墟の話

 これはCさんが家族旅行に行った時の話。

 その頃のCさんは高校生で、変わった趣味を持っていた。というのも、廃墟の写真や動画を見るのにはまっていたのだ。

 その旅行先でも、手ごろな廃墟を見つけて、胸を高鳴らせていたほどだった。

 さて、親の目を盗んで弟とその廃墟に忍び込もうとしたわけだが、それほど手ごたえのあるものでもなかった。

 入り口は開け放たれたまま、中はさほど荒らされてもおらず、きっちりと目張りされた室内は確かに埃臭く暗かったが、想像していたものよりもずっと拍子抜けするような内容だったわけだ。

 建物はもともと土地柄か、土産物屋か何かだったようで、壁一面の大きな棚や、人が一人寝そべることができそうなくらいの大きさのテーブルなど、めぼしいものは何もない。

 数枚だけ写真を撮ってから、さて帰ろうかとなったとき、泣きの一回と言いながらCさんが一枚シャッターを切る。その時カメラのフラッシュの中にCさんは確かに人影を見たのだ。

 土産物を展示する用の大きなテーブルをはさんで反対側から、まるで靴紐を結んでいるような体勢から起き上がってきたように、しゃんと背筋を伸ばして、背の高い男が姿を現したのを見たのだ。

 ああ、先客がいたのだ、と驚きながらも、Cさんは冷静にその場を後にした。

 何も言わずに弟だけをつれてその場を後にして、旅館に戻った頃だった。

 弟が一言、


「なんであのタイミングで突然帰るなんて言い出したんだ?」

「え? だって、人がいたから……」

「いなかったよそんなの」


 Cさんは未だにその時のフィルムを現像に出せていない。

 どちらが嘘をついているのかはっきりさせるのが怖いのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る