13話 健康診断 その1

 穏やかな日曜日が終了し、本日、月曜日は、女子の健康診断の日である。

よかったですわ。男子と逆の日程でしたら、私は筋肉痛となって、明日辺りは死んでおりましたわね。冗談は抜きとして…。

そのような馬鹿な事を考えながらも、夕月ゆづと一緒に登校している。


女子の場合、色々と時間がかかるからと、健康診断は丸1日がかりである。

金曜日の授業後は、部活には参加しなかった。というよりも、既に筋肉痛がでており、行けなかったというのが正解なのだけど…。

私を教室に置いて、夕月ゆづ1人だけで、顔を出して来ていた。


調理実習で作ったクッキーを、約束通り持参する為に。だって、飛野君に伝えてしまった後なので、今更持っていかなかったら、男子部員はがっかりするだろうし。

甘いものが苦手の部員も、夕月ゆづが手作りしたお菓子なら食べられるらしいの。


だから、飛野君以外にも、沢山の男子部員達が、夕月ゆづが手作りした食べ物を楽しみにしている。(美味しいのは、お菓子だけじゃないのよ!)

甘さ控えめにしてあるらしくて、とてもあっさりしている。夕月ゆづの手作りお菓子は、どんな有名メーカーのお菓子よりも、比べるまでもなく、の味なのよ。


老舗のお店には申し訳ないけれど。私は、夕月ゆづが作るものなら、お菓子でも料理でも、大好きなの。だって、素朴で懐かしくて、胸が温かくなって。

三千さんの料理も、素朴な味わいのするものが多くて、そう言えば、夕月ゆづが作る料理も似ているかもしれない。


夕月ゆづは、部活に顔を出した後、私が1人では帰れないのもあって、すぐ戻って来てくれた。勿論、1人で帰宅できないという理由は、単に筋肉痛だからではなく、ボディーガードという意味ですけれど。だって、私は何かと男性に狙われやすいようで…。夕月ゆづが言うには、私はという事らしいけれど、そんなに私って、ボンヤリとしているのかしら?


今日は、男子が合同授業の番である。午前中は、女子の時と同じく家庭科、調理実習らしい。メニューも、女子と同じ物を作るそうで、クッキーも作るのかしら?

これは後で知ったことですけれど、C組、D組、G組、H組も一緒に、別の家庭科調理室で調理したようである。(他にも、ミシンなど使用できる家庭科実習室も、あるとのこと。)


午後からは女子同様、体育の合同授業で、クラス対抗試合を行う。然も、男子達はサッカーと決まっているらしい。ただし、クラスで1班とし、勝ち抜き戦となるようである。サッカーでは、クラス全員が試合に出れないからと、少しずつ交代しながら全員参加とするようで。男子達は、朝から、午後の話で盛り上がっていた。


健康診断の為、女子生徒は先に移動して行く。移動先は女子更衣室。因みに、勿論男子更衣室もありますわよ。男女の更衣室は、離れてはいるけれど。

我が学苑には、覗きをするような不届き者は居ないと思われますが、念の為にと、理事長が離して設計させたようです。小父様、それって私のためでしょうか?


体操服に着替えて、下着(と言ってもブラのみだけど)を取り除く。少し気持ち悪いのですけれど、…パカパカしていて。決して、胸が小さいからではないのです。決して…。思わず、周りと見比べてしまう。

はう~、皆、私より胸が大きいような…。いいなぁ…。


前半では、A組からD組が検診を受け、後半では、E組からH組が検診を受けることになる。検診を受けない方の組が、その間は、お手伝い作業(補助)をする。

内部生と外部生が混じって、話をする切っ掛けを作るのが、この健康診断の目的でもある。昨日と違って、どうしても話をする必要があるし、授業とは違って気が抜けるらしく、時々笑い声も聞こえてくる。


女子だけなので、和気藹々としていて、皆が楽しそうである。

そして、皆何故か、夕月ゆづを見ると、顔を赤くして目を逸らしたり、自分のジャージで恥ずかしそうに、胸を隠すような仕草をしたり、まるで女子の中に、が紛れ込んだ雰囲気なのである。


私?私は、幼い時から、一緒にお風呂に入ったりしていたから、全く平気である。えっ?平気な方がおかしい?私って、やっぱりおかしいのかしら?

う~ん。見慣れちゃったのかしらね?それに、夕月ゆづの方が胸が大きい、…って、何を言わせるのよ!うう、自分で言ってて落ち込むわ。


勿論、本当に男子が紛れ込んでいたら、袋叩きに遭っているのだろうけれど。

まぁ何と無く気持ちは分かるけどね。私も、夕月ゆづの前で検診されるのは、これでも、ちょっとぐらいは恥ずかしい、と思っているのよ。


どちらかと言うと、私の場合は、結果を知られる方が怖いなぁ。だって、夕月ゆづのことだから、診断結果を見ては、大爆笑しそうなのだもの。

もし笑われたらと思うと、…ちょっぴり悲しくなってきた。




        ****************************




 午前の健康診断が終わり、昼食時間となる。この学苑には学食があり、高等部専用の食堂がある。中等部までは給食方式だったので、教室で食べていたの。

高等部では、学食を食べるかお弁当を食べるかは、自由である。私と夕月は、入学してからずっと、教室でお弁当を食べていた。


学食だと、買う時に並ぶし、席は取るのが大変だし…。沢山の席は用意されているけれど、ただっ広い食堂の空いている席を探すのは、大変なのである。

それに、お弁当は三千さんが作ってくれるので、毎日楽しみにしている。

夕月ゆづは自分の手作りだから、時々私のおかずと交換してもらうのよ。

それも、私の楽しみの1つなの。


他にも購買という形式のコンビニで、パンとかおにぎりとかの軽食もあり、休み時間なら何時いつでも自由に買える。ここでは、ノートなど学苑で必要な物を、一通り購入出来ることになっている。

ノートや筆記用具忘れても、購買で購入出来るのは、便利である。購買は、小学部でも中学部でも各々あったわね。私は、一切利用したことがないけれどね。


今日は教室に戻らず、健康診断場所でもある体育館に陣取って、クラスの女子達と一緒に、お弁当を食べている。

皆でお話ながら食べていると、萌々花ももかさんがE組女子数人と一緒に、こちらに歩み寄って来た。E組の皆さんは、パンやおにぎりを其々手に持っている。たった今、購買で買って来たのだろう。


 「、私達も一緒に、ここで食べてもいい?」

 「勿論、いいよ。…ふっ。って…、くくっ。」


萌々花さんの言葉に、この場の全員の目が点になっている。いやいや、って、変ですわ!?。男装の時の呼び名なのだから、『北岡君』でなくては…。おかしいですわよね?


夕月ゆづは、顔に手をやってくつくつ笑う。中々笑いが収まらないのか、下を向いて肩を震わせている。まぁ、夕月ゆづじゃなくても、笑うでしょうね…。

この場にいたクラスメイト達も、皆が微妙な表情である。吹き出した生徒もいれば、呆気に取られた顔をした生徒、将又、苦笑いをしている生徒も。


 「萌々ちゃん、『さん』付けはおかしいよ。とかなら、兎も角だけど。」

 「え?じゃあ、…?」

 「ふっ…ふふっ、いや、『様』付けはやめてほしい。『北岡』でいいよ。せめて『君』付けの方にして。」


萌々香さんの隣に座っていた、E組女子生徒が指摘したのはいいのだけれど…。

って、何だかみたいです…。周りに居る女子生徒達皆が、「おおっ!」と沸いているけれど。「似合ってますわ!」ではなくて!

いやいや、萌々香さん。貴方まで、何故『様』付けにしたのですか?

おかしいでしょうに…。


結局、クラスメイト達も冷静になってから、私以外の全員が、『北岡君』呼びに落ち着いたのですけれど、ね。何でも楽しむ傾向がある、夕月ゆづも流石に、これだけは嫌だったようです。ふふっ。女子生徒が皆、「『様』付けも悪くないですわね。」と言い出した時は、に、なっていましたもの。


 「私、佐久間 郁さくま いく、4月23日生まれの15歳で~す。皆さん、よろしくお願いしま~す。ああ、もう、になれて、『麻琴まこと』とで、超ラッキーだわ!」

 「…よろしく、郁ちゃん。で、『麻琴まこと』って誰?」


夕月ゆづが、若干引き気味になって、郁さんに訊いている。確かに調子狂うわよね。

う~ん。何かこの子、妄想がかっているみたい?『麻琴』って誰?はぁ?漫画の主人公で、男装の麗人?あっ、そうですか…。何かどっと疲れが…。夕月ゆづでさえ、珍しく苦笑いをしているようで…。


萌々香さんの隣の女子、『郁』さんが名乗ったのを切っ掛けに、この場にいた全員が、自己紹介をし始める。流石に、ここに居る全員が、郁さんの自己紹介には、した様子でしたけれど。でも皆さん、見事な大人な対応ですわね。


私は、そっと萌々香さんを観察して見る。郁さんは兎も角、萌々香さんへの夕月ゆづの態度が、気になって仕方がない。だから、私は、何だか胸がもやもやして、心の底から笑えなかったの。

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