10話 4月、調理実習 その2

 合同の調理実習は終了した。女子は、そのまま調理室での昼食となる。因みに、健康診断だった男子は、いつも通りである。

先程、班で作った料理を、同じ班の人達と食べる。今日は、家庭科教師の野口先生も、ここで一緒に食べている。野口先生は、肩までの髪がふわふわした可愛らしい先生だが、見かけによらず厳しい教師のようなのだ。


食事の前に、班の料理を一つ一つ丁寧にチェックし、評価を付けていた。味見をしたり、見た目を観察したり、調理中も細かくチェックされていた。

「綺麗に盛り付けていますね。」とか「味も問題ないですね。」とか、評価されることもあれば、反対に「もう少し、見た目を気にしましょうね。」とか「味が濃過ぎですね。」とか指摘されることもあった。


私達の班は、味も見た目も大丈夫だったようだけど、「あれから上手く野菜を再利用していますね」という、(嫌みに聞こえたのは、私だけ?)の一言をもらった。

これって、私がダメにしかけた皮むきのことかなぁ?うん、確かに私も「よく利用出来たね」とは思ったけれど。こら其処、笑わないでちょうだい!


隣の班である夕月ゆづの顔が、俯いていて見えないようにはしているけれど。

夕月ゆづ、隠しても気が付くわよ!?しっかり、肩が震えているからねっ!

声に出していなくても、笑っているのが丸分かりなのだからっ!


 昼食は、各クラスで話が盛り上がっている。他クラスとは兎も角、自分のクラスの生徒とは、皆仲良く話をしているようである。

昼食が終わった班から、片づけをおこなう。調理器具はもう既に洗ってあるので、食器を洗ってから、全ての物を棚などに仕舞う作業をした。

全て終了した班から、解散となる。


クッキーは自分で食べても、誰かにあげてもいいので、皆持ち帰るようだ。

私は、両親と家の皆に、食べてもらおうと思っている。

先程1つ摘まんでみたの。とても美味しく出来ていたので、これなら大丈夫だわ。形は歪でも、だと思うのよ。だから、いいのですわ。


野口先生が職員室に一度戻ると言って出て行き、ほとんどの班が片づけしていると、窓の外から1人の男子が、ひょっこり顔を覗かせた。


 「何か、いい匂いすると思ったら、女子は調理実習なのかぁ。いいなあ。」


そう言って、窓から顔を出したのは、中等部で演劇部に所属していた、同じ1年生男子生徒『飛野 晶麻ひの しょうま』。サラサラショートヘアの、男子にしては小柄で、可愛い系の顔をしている。どことなく、ウサギを連想するような感じの男の子だ。

彼も、小学部からの内部生である。


 「おっ、北岡!なんかない?」

 「クッキー作ったから、今日の部活のおやつとして、後で持って行くよ。」

 「やった~!楽しみにしてるっ!」


夕月ゆづを見つけると、飛野君は何か分けて欲しいと、で要求してくる。

そう、ウサギなのに子犬って感じで…。夕月ゆづは仕方ないなぁ、という表情だ。

自分が作ったクッキーを、映像部男子部員に、分けてあげるようだ。


夕月ゆづの返答を聞くと、飛野君はガッツポーズを取って、嬉しそうにニカっと笑うと、他の男子と合流する為、身体の向きを変えて走り去って行く。

夕月ゆづからクッキー貰うなんて、本来なら許せないところだけれど。

う~ん、個人的にはその表情、


 「飛野君って、ちょっとイイよね。」

 「うん、あの笑った時の顔とか、可愛いよね。」


A組とB組の女子達が、飛野君の噂話をする。

実は、飛野君は、演劇部の男子の中でも、断トツで人気があるのよ。勿論、『に、ではあるけれど。そう、夕月ゆづの方が人気者なの。うふふ。

流石、夕月ゆづですわ。男女共に、人気があるのですもの。


飛野君は、『北岡君』よりも小柄な背丈だから、カッコイイというより、小動物系のような動きや仕草で、とっても可愛いと評判である。

女子って、カッコイイ男子も大好きなのだけれど、年下系の可愛いとか、女子みたいな風貌で可愛いとか、そういう可愛い男子にも、のです…。




        ****************************




 入学式の次の日、私の前の席の女子に、私は声を掛けられた。


 「おはよう。昨日、入学式の新入生代表で挨拶したから、声を掛けられていた子だよね?」

 「おはよう。うん、そうだよ。私、菅 萌々花すが ももか。よろしくね。」

 「私はね、深水 鳴美しみず なるみ。中学までのあだ名は、『ナル』とか『ナルっち』だよ。こちらこそ、よろしく。」


目が大きくてクルクルしてて、可愛いらしい子だなあ。私は、『ナルちゃん』と呼びたいな。そう思ってすぐ、「ナルちゃんって呼んでいい?」と聞いてみれば、「いいよ!」と元気な声が返ってくる。


これが切っ掛けで、あれからナルちゃんとは大の仲良しになった。ナルちゃんからは、萌々ももちゃんと呼ばれている。萌々ちゃんって、あまり呼ばれたことがないから、なんかこそばゆいな。


 「ねぇねぇ、ず~と萌々ちゃんに聞きたかったんだ!例の新入生代表だった、、『』と呼ばれてたでしょ?何でそう呼ばれているか、知ってる?」

 「う~ん、入学式で初めて会ったばかりだから…。私も、よく分かんないんだけど…。どうやら、、この学苑の中等部で、演劇部に入っていたらしいよ。」


ある日当然、ナルちゃんが彼女について聞いてきた。1年女子合同体育で、クラス対抗試合が終わった、その日の授業終了後に。家に帰る準備をしていたら、後ろを振り返ったナルちゃんから、話し掛けられたのだ。

どうやらナルちゃん、前々から聞きたくて仕方なかったそうで、ウズウズしていたみたい。でも、…私に聞かれても困るのよね。上手く説明出来る程、まだの事、知っている訳じゃないし…。


すると、ナルちゃんの前に座っていた女子が、行き成り立ち上がったかと思うと、私の机に突進してきた。私とナルちゃんは、思わず身を退く。何だか、目がキラキラしているみたいなんだけど…。五月蠅くて、怒ったとかじゃなさそうな…。


 「あのね、はね、この学苑では超有名な人なのぉ!でねぇ、何でも、小学部の頃から、男の子っぽい感じだったんだってぇ。」

 「ふ~ん、そうなんだ。」

 「でねぇ、この学苑の中等部で、演劇部に所属していて、『北岡君』という名前で男装して、男子役演じていたんだってぇ。それから更に人気者になっちゃって、他の生徒達に、あだ名として、そう呼ばれるようになったんだってぇ!」


突撃してきた女の子が、かなり食い気味に話してくる。ナルちゃんが乗り気になって、話を聞いていると、もうそれは弾丸のように話してくる。私は、目を丸くして話を聞いていた。聞けば聞くほど、、不思議な人なんだなあ、と。


何だか凄い情報なのだけど、どこから仕入れているのだろうか?

彼女も、外部生の筈なのになあ…。まだ入学したばかりなのに、ホント、よく知ってるね。私は呆れるよりも、感心してしまった。


未香子みかこさんという、を見つける度にいつも一緒にいる人。

この前、私が初めて話し掛けた時も、と一緒に居たっけ…。

その未香子さんは、といつも一緒に居るのだとか、未香子さんがヒロイン役で、が相手役なんだとか、他にも色々教えてくれる。


ナルちゃんの前の席の、この少女の名前は、『佐久間 郁さくま いく』さん。佐久間さんは、自分の好きな漫画の主人公と、『北岡君』が似ている事とか等々、私が知らないと話すと、色々と親切に教えてくれた。佐久間さんって、楽しい人だなあ。

私も漫画を読まない訳じゃない。アニメになる程有名なのとかは、読んだりする。でも、佐久間さんが話す漫画は、読んだことがなかった。


ナルちゃんは、「ああ、あの漫画ね。私も読んだことがあるよ。いいお話だよね。」と、相槌を打っていた。ナルちゃんって凄い。佐久間さんの話に、付いて行ってる…。ナルちゃんも読んでいるなら、私も、今度読んでみようかな…。

早速、今日の帰りにでも、本屋で探してみよう。


そんな話をしていたら、いつの間にか、クラスの女子のほぼ全員が、私達の周りに集まって来ていた。皆、こういう話が好きなのかな?






=====================================

【後書き】


こちらには、前書きや後書きがないので、今回のお話の後に、追加補足とさせて頂きます。いつも読んで頂き、ありがとうございます。無乃海なのみと申します。


こちらで投稿している『君の騎士 ~君を守るために~』は、『小説家になろう』の方にて投稿している作品(未完結)です。

手直し・加筆等おこなってから、『カクヨム』に投稿しております。

その為、少々表現が異なってはおりますが、根本の話の流れは全く同じです。

修正をしていたところ、加筆もする必要があり、一部内容を変えることになった次第です。結果、『カクヨム』の方が読みやすくなっております。(詳しくは、作者プロフィールに記載。)


今回、後書きとさせて頂いたのは、後半部分(***で区切った下部分)が、本編の内容と、少し前後しています。『なろう』の方で小説を書く際の都合上、仕方なく前後させてしまった部分です。この作品の都合上、訂正・加筆後、こちらでもそのまま記載することになりました。ご了承願います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る