9話 4月、調理実習 その1

 入学式からしばらく経ち、授業が始まった。今のところは、中等部からの内部組と、外部入学者の外部組との接点は全くない。

学苑側としても、このままではいけないという事で、毎年4月中に健康診断や球技大会などを行い、親睦を図る機会を設けるようだ。


そういう訳で、早速、健康診断が行われることとなった。毎年男女別で、日程が別の日になるように行われる。

男子が健康診断の日は、女子は他のクラスに移動して、合同の授業を行うことになっている。ほぼ毎年、1学年がA~H組まであって、人数もかなり多いので、特に女子が1日掛かるのですって。


反対に、女子が健康診断の日には、男子が合同授業を受けることになる。

健康診断は、A~D組が診断時は、その間はE~H組が計測等の手伝いをし、E~H組が診断時は、逆にA~D組が計測等の手伝いをする。

こうやって、合同のクラス交流を通じて、話をする機会を与えるようだ。そうは言っても、なかなか難しいのが現実である。


今回は健康診断なので、男女別々の行動が必要になってくる。しかし、球技大会では男女混合で試合をおこなう為、その際は男女共に交流可能となるのだ。

普段の授業では、男女混合でおこなわれることがないので、男女共に気合いが入ると、聞いている。特に、女子の前で、活躍するところを見せたい男子は。


こういう時、外部生よりも内部生の方が、多少有利な面があるらしい。

今までの間に多少は交流している為、お互いの弱点や利点を知っている場合も、あったりするのだとか。

学年ごとのクラス別対戦となっており、その学年で優勝したチームは、他の各学年の優勝チームと対戦できるので、こちらは案外、毎年盛り上がるらしい。


球技もバスケ、バレーボール、サッカーの3つから選択可能で、しかも全て参加してもOKなのよ。でも、実際に全部参加するのはハード過ぎるし、時間的にも無理らしいけれど…。今までに、全部参加希望した人すら、全くいないそうよ。

2つまでが限度らしいわ。


ただ気を付けないといけないのは、試合が重なることも大いにあるので、その時はどれか一つを優先する必要がある。途中からの参加は可能でも、途中退場は認められていなかったり。代理出場する者が間に合わない場合は、人手が足りない状態で試合することにもなる。

代理出場している者は、途中退場は絶対に出来ないけれど、休憩を挟むような時であれば、例外的に交代可能ではある。


中等部でも似たような行事はあったけれど、高等部とは違っている。

健康診断は女子が午前中で、男子が午後で終わり、手伝いも特になかった。

また競技大会もあったけれど、完全に学年別に行い、男女別でのものだった。

まぁ、外部生がいない分、クラスも少なかったのだし、当然かもね。


私は体育が超苦手なので、全然楽しみではないけれど…。

それでも、夕月ゆづが、球技大会で活躍することに関しては、応援するのがとっても楽しみなの!うふふ。




        ****************************




 今日は、男子が健康診断当日であり、女子はこれから合同授業である。

男子の予定は、分からない。女子については、まずはA組とB組とE組とF組で、午前中は合同授業を行う。

担任が出席確認してから、男子も女子も共に、クラスから移動となった。

女子はこれから、家庭科調理室で料理実習なのである。


A組女子が調理室に到着すると、教室から比較的近い、E組とF組は既に来ていた。その直ぐ後に、B組が家庭科教師と一緒に来て、授業が始まった。

クラスごとに班を作って、作業するのかを思ったら、出席番号順で分けるということで、人数の関係で夕月ゆづとは班が別になってしまった。

どうしよう。私、何も出来ないのに…。


だけど、同じ班には、中等部で同じ演劇部に入っていた、女子の『ケーちゃん』が同じ班に居た。正直助かりましたわ。『ケーちゃん』とは、演劇部で仲が良かった方だったから。私は、女子でも面識ない人とは、ほとんど話が出来ないの。

私、こう見えても、結構人見知りの性格なの。


その上、私の自宅では、私が料理を作る必要もなく、いつも三千さんや真姫さん達が、食事の用意をしてくれる。母も私も、お料理どころか、家事全般は一切していないのである。つまり、自宅では料理をする環境さえない、ということになる。


バレンタインチョコを作る時でさえ、三千さんが付きっきりで、手も口も出してくるのよ!それには、理由があるのだけれど…。その理由はって、それは…。

以前に、キッチンの鍋とか丸焦げに焦がしたり、レンジの中で爆発させたりしたことです…。お陰で、全く信用されなくなったみたい…。悲しい。


 「未香子みかこ、皮むきやって…。いや、野菜切る方でいいから、これ…。あ、やっぱりこっちで…。」


…結局、私は洗い物係になった。野菜の皮むきしたら、中身が殆どないような状態になって…。切る作業は、大きさが区区まちまちの不格好になって…。って何でこうなるの~?私の不器用さが、同級生に知られてしまって、悲しい…。


隣の班になった夕月ゆづは、料理人さながらにフライパンを扱っていた。E組とF組にも、夕月ゆづに負けないくらいの、料理上手な子達がいるようだった。外部組の生徒達は、皆慣れたように作業していたけれど、自宅でも料理をしているのかしら?


内部生の生徒達は、自宅にお手伝いさんがいる家の子も結構いるので、班によっては、洗い物兼雑用係の方が多過ぎて、料理をほぼ1人でしていると言ってもいい、班もあった。夕月ゆづの班も、例外ではないわ。


何故か、私の班は私だけだけれど…。いいのよ。どちらにしろ、自宅では調理禁止されているのと、同じなのですもの。私の手作りと言っても、ほぼ、三千さんか真姫さんが、調理するのですから。…はあっ、いいのですわ!(人はそれを、と言う。)


でも、チョコだけは、頑張って手作りするのですから!毎年、夕月ゆづと一緒に作って、其々の作ったチョコを、交換するのだ!まあこれも、ほぼ、夕月ゆづ作みたいな物なのだけれど…。


午前中ずっと調理するだけあり、昼食も作ることになっている。他には、クッキーなどのおやつも作った。クッキーは、生地を伸ばしたり型抜きしたり等、一応私も参加出来ましたわ。ふふふっ。


でも…、型抜き時にはクッキー用の型を使ったのに、何故か私だけ、変な形に変わっているのでしょう?

型を抜く時、中々型から外せなくて、確かに少し引っ張ったりした覚えがあるのですが…。こんなに歪になるなんて…。本当にショック!


 「未香子って、型抜き使ってないの?えっ、使ったの?何の型を使ったら、こんな形になるの…。」

 「くくっ。未香子って、ある意味、別の才能があるよね?」


ケーちゃんが、残念な物を見る目で見つめてくる。うっ!いいの、いいのです。

味に問題なければ…いい筈だわ。

そして、いつの間にか、私達の班の料理を覗いた夕月ゆづが、私の何の形か、分からないクッキーを見て、声を出して大笑いしている。

「どうしたら、こうなるの?」と皆が聞いてくるけど、私に聞かないで!

…私が一番、分からないのだから…。


 「わあ、北岡君のクッキー。星とか雲とかあって、可愛い!」

 「ほんとだぁ。でも、星形の型抜きなんてあったの?私も作りたかった!」

 「星形も雲形も無いわよ。北岡君は、型抜きなしで作っていたのだから。」

 「えぇ!型抜き、使ってないの?凄い!流石だわ、北岡君。」


料理が終わったA組の皆が、夕月ゆづのクッキーを見に来たようだ。A組が、わ~わ~騒いでいるものだから、他のクラスの女子達も、調理を終え次第、興味津々な様子で見に来る。

E組とF組の料理上手の女子達も、見に来て、「わぁ、すごい!」と目を輝かせてビックリしていた。それぐらい、完成度が凄いのです。流石だわ。うっとり。





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