7話 外部入学者 ~萌々香の事情~
私の名前は、
もし不合格だったら、公立の高校を受験するつもりでいたんだけどね。『名栄森学苑』は、この辺りでは有名な私学の高校だから、合格出来たことは嬉しかった。
しかも、学費が高いから無理だと思っていたけど、奨学生として通えることになったので、家族に負担を掛けなくて済みそうで、ホッとした。
奨学生として、成績を維持するのは大変かもしれないけど、入学するからにはしっかり勉強しようと思う。
中学の先生はもちろん、私の家族も喜んでくれた。母は、お祝いに手作りケーキを焼いてくれた。父は、前から欲しかったスマホを、私用に契約してくれた。
1つ上の姉は、「妹がねぇ~、何とあの名栄森学苑に合格したんだよ!」と自慢していたらしい。妹は、「自分も行く!」と言っている。
妹は今年小学3年生だから、まだよく分かってないんだろうな。ただ、姉と一緒の学校に行きたいだけなんだよねぇ。
「えっ!萌々花ちゃん、
「名栄森学苑って、凄いじゃん!お金持ちの家の子が通う学校だよね。」
「あそこの学校って、勉強もレベル高いから、倍率も高いって聞くよ。」
中学の友達も、まさか合格どころか、受験したなんて思っていなかったみたいで、かなり驚いていた。でも、皆「よかったね。」と言ってくれる。
友達は皆、別々の高校を受ける。私立志望は、ほとんど合否決定しているけど、公立はこれからだから、友達の勉強に付き合ったりした。
そして、卒業式の後は、仲のいい友達だけでお別れ会をして、皆で泣きながら、「また会おうね。」と言って、別れを惜しんだ。
春休み中は、学苑の説明会があったので、母と一緒に参加する。
制服やら鞄やら、指定の物を買ったりしているうちに、時が過ぎて行く。
それから、あっという間に、名栄森学苑の入学式の日が来た。緊張して早起きし過ぎて、かなり早い時間に登校することになった。
電車は空いていたので、席に座る。電車の中では、名栄森学苑の生徒らしきい制服を着た人は、1人も居なかった。男子も女子も、他校と異なる目立つ制服なので、よく分かると思う。
名栄森学苑の中等部からの内部生は、全員車通学だと思っていた。
だから、中等部から車通学禁止だと聞いて、吃驚した。
お金持ちなのに、防犯上大丈夫なのかな?とか思ったけど、名栄森学苑通う生徒は、どちらかと言うと、大会社に勤務するような家庭の子供が多いのだとか。
それなら、一般家庭の子供である私が通っても、大丈夫そうかな?少し安心した。
電車を降りて、名栄森学苑専用のバス乗り場に移動する。すると、既に少数の学苑の生徒達が、バスが来るのを並んで待っていた。
その時、先頭にいた3~4人が、私の後から歩いて来た2人組の生徒に、「おはようございます」と挨拶している。敬語だから、先輩なのだろうか?
私も、挨拶した方がいいのか迷っていると、どうも知り合いのような感じだった。
2人のうちの1人が、「おはよう」と笑顔で返答している。その他の並んでいる生徒達とは、お互いに挨拶や会話をしないようだ。この2人は、私の後方に並ぶ。
さり気無く観察してみると、挨拶したこの人達は皆、私とは制服のリボンの色が違っていた。私のは明るい青色だが、この人達のは水色だった。
学苑の制服は、私学の学校の中でも、断トツで可愛いの!
男子の学生服は、紺のブレザーとスラックスに、白のカッターシャツとネクタイのセット。そして女子の学生服は、襟がセーラー風になった紺のブレザーに、スカーフ風の大きなリボンと、膝が丁度隠れるぐらいの長さのスカートのセット、になっている。
男子はネクタイが、女子はスカーフ風のリボンが、内部生と外部生とは別の色になっている。また学年が変われば、リボンの色も変わる。
今年は1年生 内部=
と言うことは、この人達は内部生ということになる。道理で、堂々としている感じだ。その他の人達は、私と同じ色リボンなので、外部生で間違いないだろう。
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「新入生代表、
新入生代表が呼ばれた途端、内部生だけでなく在校生までが、ざわざわと騒ぎだした。代表に呼ばれたのは、バス停で会った女子の1人だった。
私の後から来た2人組の背の高い方の女子生徒で、バックを肩に担いでいたから、「この人、男子がよくするような仕草だな~。」とは思っていた。
でも、檀上に向かう彼女は、とても上品な仕草で、お嬢様みたいだった。
まあ、多分、間違いなくお嬢様なんだろうけど。
彼女が檀上に現れると、主に女子がキャーキャー言っている。「きたおか君」と聞こえる気がするが、確か今、『きたしろ』さんと呼ばれてたよね?
静まるのを待って、彼女がまるで何もなかったかのように話し出す。何故か、先程のバス停での挨拶の時とは、全く違う感じがする。声も話し方も。
凛とした声と口調、綺麗な発音で、やはりどこかのお嬢様なのだろうか?
不思議に感じながらも、思わず引き込まれたように聞いていた。なのに挨拶終盤時、突然低めの声と口調に打って変わった。
「高等部では、演劇部改め映像部の『北岡』をよろしく!」
一瞬の間の後、体育館は「わ~」とか「きゃー」とかの大歓声。まるで、男の子のようになった彼女に、今まで以上の騒然となって、私は
一体、何ごと?今の誰?『きたおか』って誰かの名前なの?
彼女の豹変振りに、さっぱり意味が分からず、周りを見ても、外部生のクラスの生徒だけが「訳が分からない」、というような顔をしていた。
入学式と始業式が終わり、H組から退場することに。E~H組が、外部生のクラスなのだが、私はE組である。
クラスごとに順番に退場して行く。E組も体育館から移動していると、突然後ろから、「
振り返って見ると、其処には、入学生代表の『きたしろ』さんが、人の波を掻い潜って、此方に速足で向かって来ていた。私は、思わず固まってしまう。
「えっ!何で…?」と小さく呟く。驚きすぎてジッと見つめていると、彼女はフッと笑う。何だか、人懐っこいような笑い方で、…檀上の時とは別人みたい。
「これ、落とし物。名前、書いてあってよかった。」
そう言って、私の前まで歩いて来ると、「はい。」と手渡してくれる。どうやら、立ち上がる時に、スカートのポケットから落としたらしい。
手渡されたのは、私のハンカチだった。唯一持っている有名デザイナーのハンカチで、家では大事に仕舞ってあった物である。
名栄森学苑に通うからと、見栄を張って持ってきたのだ。こんな事なら、いつものハンカチにすればよかった。有名ブランドの貴重なハンカチに、自分のフルネームを書いてるなんて、恥ずかし過ぎる…。
「私も、この
何を思ったのか、彼女が先程と同じ、やや低めの声の砕けた口調で、私のハンカチを褒めてくれているようだ。
「あ、ありがとうございます…。このハンカチは大切で…。拾って
「ふふっ。気にしなくていいよ。大切なら、渡しに来て正解だったね。」
彼女は、笑い上戸なのだろうか?何だか、笑い方も話し方も、男の子っぽい感じ。まるで、男子と話している気分である。
同じE組のクラスメイト達も、困惑したような表情をして、私達のやり取りを見ていたようだった。
その時、体育館の出入口から、誰かを呼ぶ女子らしき声が聞こえると、彼女は振り返って其方の方を見ていた。彼女が呼ばれたのかな?
そして、もう一度私の方を振り向いて、「じゃあね。」と言ってから、今度は女子らしい仕草と言える、優雅な歩みで戻って行った。
う~ん。とても気さくな人、という感じだったけど…。
それ以外は、よく分からない不思議な人だなあ、と思う。
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