第6話 再度

 学校の陸上競技大会を一週間後に控えた6月。学校の中間テストや陸上部の先輩の県大会の応援が重なった5月は、忙しくてかおるんへの感情を忘れさせてくれた。歩は頑張っているだろうかとか思う余裕もなく、5月は去ってしまった。始めのうちは、歩がなんて返信しようと照れながら焦っていたのを全力で応援していた。あの日以来、かおるんとは連絡は取っていないので、いい感じに歩となっているだろうと期待感を抱く余裕ができたのも最近のことだ。未だに、俺は色がない世界を彷徨っているのではなく、色はついた。鮮やかでないだけだ。しかし、あのころとは違う変化があった。

 中間テストで数学を教えたことをきっかけに竹永と連絡を取り合っている。自分で言うのもなんだが勉強は中の上ぐらいは出来る。彼女は専ら勉強ができる子ではないので、教えてあげていた。彼女の努力もあり、ぎりぎり赤点は回避していた。といっても校内で話すことなどほとんどなく、夜に連絡を取り、教える程度だ。

 6月に入ると陸上競技大会の仕事の確認が本格化してくる。俺は、陸上競技部に入っていることもあり、基本的な運営を部活動で行う。当然、それ用の委員会も存在しているがあまり興味もなく俺は別の委員会に颯斗と所属していた。少し、クラスのリレーの練習を朝していて、充実した生活を送っている。かおるんの色が薄くなると同時に、恋心も消えたんだと一人で考えていると授業が知らない間に終わっている。最近、竹永と目が合う気がすることも多いが連絡を取っているから変に意識しているだけだろうと適当に流している。そんな生活を繰り返し、前日まで時が進む。

 前日と言っても練習があるわけでもなく、普通に授業を受けて部活動をする生活だ。いつものように朝教室で、歩や颯斗と話していた。そこに女の子の影が近づいてきた。かおるんだ。目の前に現れるまで気が付かなくなるまで、彼女の色が無くなっていることに俺は驚くと同時に喜んだ。かおるんの横に二人女子がいたことに気づいたのは喜んでいる最中であった。かおるんは俺たちに対して言葉を発した。

「明日、リレー出るんだよね?」

「出るよ。みんなで優勝するわ!」

と根拠もないのに俺と颯斗は元気よく返した。歩はただ、笑っているだけだったが俺と颯斗の元気に押されていた。俺もこの颯斗の元気さには可能性を信じたくなる。

「じゃあ、頑張ってね!応援してるよ!ぱやとしゅんしゅん!」

俺らの元気に答えるようにかおるんも元気に言葉を発して自分の席に戻っていった。俺は、心の中でやっぱり優しい子だなと感心していた。ただ、これは恋心ではなく、ただの感心であると理解もしていた。

「応援されてないな歩。」

「忘れられたな。」

俺と颯斗は歩を煽る。衝動的に歩はうるせえと反応して笑った。そこに涼が教室に入って来ていつもの雑談タイムが始まる。いつも大したことは話していないが、今日はなにも記憶に残らない。かおるんがまだ俺のことしゅんしゅんって呼んでるんだなぁと頭の中で彼女の声が反復していた。しゅんしゅんと呼ばれなれていないから俺も驚いているだけだろうと自己正当化を始めた。窓から差し込む日の光は俺の心まで照らしているようだった。やがて、朝のチャイムが鳴り響く。それは、8時40分を指し示す。

 中間テストを受け、勉強に励む人もいれば、変わらず騒いでる人、寝ている人がいる中で俺は特に何もせずただ授業を受けていた。ついこの前までは、授業時間でさえもかおるんをおっていたなぁと考えていると1時間目が終わっていた。おもしろくも楽しくもない授業を聞くのはつまらないが、授業を聞いておけばある程度の点数はとれる。なんで、授業を聞いて理解できないのかが逆に疑問に思う程だ。あっという間に授業も終わり放課のチャイムが鳴る。15時25分を指し示していた。俺は練習着に着替えて部活に向かう。

 いつものように短距離のメニューをこなした後、明日の陸上競技大会の仕事の確認をする。誘導が主な仕事であるため各自の担当を確認し、自分たちの待機場所がクラスの待機場所でないことを知った。明日が楽しみだと部活の友達と話しながら家に帰った。

 明日も早いし寝るかと支度をしていると携帯が光っていることに気づいた。携帯のロックを解除すると「数学わかんない。助けて。」と竹永からメッセージが来ていた。電話できるかメッセージを送ると刹那に電話がかかってきた。まだ、時間は10時であったし、11時には寝れるだろうと考えていた。俺は授業中に終わらせた明後日までの課題を教えて欲しいとのことなので、適当に解説をして理解させた。答えを教えるのは手っ取り早いが利用されている感じが嫌だから俺は、答えを相手から導こうとしている。ワークが終わり感謝の言葉を述べられると、

「明日何出るの?」

竹永に疑問をぶつけられた。部屋の電気を消して寝る支度を進めながら俺は答える。

「俺は100と200とリレーかなぁ。」

「多すぎでしょ。バカじゃないの?」

「うるせえよ。竹永は何出んの?」

「風夏でいい。教えないけど!」

理不尽すぎると思った。けど、名前で呼んでいいと言われたことは少し嬉しかった。今まで感じていた壁を少しだけ壊せた気がする。そこから、風夏がアニメをよく見ることを聞き、おすすめのアニメを教えてもらった。今まで、勉強の話しかしなかったが話してみると面白い奴なんだなと評価が上がった。そのあとの雑談も楽しく感じずっとくだらない話をしていた。気が付くとカーテンから明るい光が俺の目を襲っていた。時間を見ると5時半を指し示していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る