第3話 訪
朝の陽ざしに唐突に鳴り始める携帯からのアラーム音。いつもなら、この音を止めて、もう一度睡眠をとる。しかし、今日は、リレーの練習兼カレーを外部に作りに行こう親睦会だ。
重い身体を起こし、カーテンを開ける。当然のように眩しい光は、俺の目に降り注いだ。今日何かいいことが起きるかのように雲一つない晴天だ。
部屋から出て、昨日選んだ洋服に着替え、少し気持ちが高揚しているのを抑え、朝食を向かえる。そして、歯を磨いて、家を出る。自転車で10分にある高校に徒歩で行くのを腹立たせ太陽の下、汗と共に歩んだ。汗が首の後ろから浸り地にへと落ちていく。坂を上らなきゃ着かない立地には、悲しさを持っていたが、近いのでそれ以上は、求めなかった。学校につくともう他の三人は揃っていた。遅刻をしたのかと考え、時計に目を落とすと6時55分を指していたので、少し嬉しかった。
俺が、バトンの持ち方や渡し方、リードの仕方など知っている知識を三人に教えた。三人とも元々運動部なのもあり、飲み込みが早かった。大会当日までは時間もあるし、これからはカレー作りに行かなきゃいけないのもあり、軽く走って感覚をつかむ程度の練習を行った。少しずつ登校してくる生徒も見え始め、不審な目を俺たちに向けてくる。恥ずかしくなった俺たちは練習をやめて、止まっているバスの方へ向かう。まだ、集合時間からは10分ほど早かったが、みんな気持ちが高ぶっているのか、心なしか集まるのが早い気がした。そして、彼女が現れた。
女の子3人組で坂を上ってきた彼女が目に入った。少しでも、早く会いたかった俺は、練習した男たちにトイレにいこうと金魚のフンで誘い、バスを降り、彼女たちとすれ違う。声かけるぞ声かけるぞと復唱しながら歩み、すれ違う瞬間に少し顔が赤くなり、言葉は遮られた。
「あれ、駿太、顔赤くね?」練習を一緒にしていた南川 颯斗が俺に問いただす。俺は、あの女の子とすれ違ったからなんて言えるはずもなく、適当に少し走ったからかなと言葉を泳がした。用を済ませた後、何事もなく、俺たちはバスに戻った。
すると、集合時間になり、早くバスに乗れと急かす海老山の声が聞こえた、仕方がないので急いで、バスに乗った。特にバスの席順も決められてなかったので、自然に男子が後ろに集まり、女子が前に集まった。後ろに集まった男たちは、バスの乗車時間も長いことから人狼で遊び始めた。中村 歩が携帯に有料アプリを入れていたのもあって、人数が多くても多くの役職で遊ぶことが出来た。なにかで動画投稿者が人狼をしていたのをみたことのある俺は、それを頭に入れ、論理的に物事を捉え、言葉にした。
人数も多いのもあり、三戦ほど行うと目的地の清水BBQ場が見えてきた。山みたいな場所に川とBBQが出来る施設があるだけで、特に目を引くものはなかったが、これがイベント詐欺というものだろう。何かが待っているような感覚に陥った。まるで、宝があるかのような輝きが俺の目を覆った。当然、人狼をしている時も、前の方の席で談笑している田中を目に入れていた。笑っている彼女はかわいいと心の中で感じていた俺は、もはや、ストーカーだろと自分で突っ込みを入れるほどには、彼女に吸い込まれていた。
清水につくと、さっそくグループごとに分けられ、分担を決めていく。料理とは無縁だった俺は、食器やら野菜やらを取りに行き、洗い物をする分担を受け持った。まぁ、聞こえは悪いが雑用というものである。味にとやかく言われるのも嫌だし、一人で黙々とやりたかったのもあり、颯爽とその役をかい、取りに行く。食器と野菜を取りに行くときに、ばったり菜月に出会った。
「お前も雑用かよ。」
「人と関わらなくて済むからね。」
やはり、同じ考えを持つんだなぁと俺は感心し、仲良くなれそうだなと感じた。その考えとは裏腹に言葉を菜月は投げてきた。
「重いから持ってくんない?下まで運んで!レディファースト!!。」
なんだこいつ図々しい。めんどくさいと思ってた俺は、運ぶものかと脳内では考えていた。しかし、断れない性格なため、気付いたら菜月の食器を持っていた。こういうことは田中にしたいんだよと心の中で相変わらず彼女が踊っているのもあり、食器を持ちながら彼女を探す。薪による炎のもとに笑う彼女の姿が見えた。やはり、彼女は輝いている。俺の目には、彼女だけが輝くようにフィルターがかかっているのではないかという程、周りの景色は、ただの風景画にすぎない。その画に見とれているとみんながカレー作りに励んでいる場所に到達した。
当然、女の子と歩いて、その女の子が食器を持っていないという画は、第三者から見ると、不思議な画でしかない。しかも、あまり男女間の交流もない4月である。俺らは、注目を浴びていたかもしれない。かもしれないというのは、当然、俺の目には彼女が笑っている姿しか見えていないからだ。それが、不思議な画だという事に気づいたのも、菜月と別れ、自分の班に戻ってからだった。
俺は、菜月と付き合っているのかという質問を受けていたと思う。ただ、特に耳を貸すこともなく適当に返した。菜月に目を運ぶと俺の方を見て、手を合わせている。少しだけ、悪いことをしたと思っているのだろうか。俺にとってはどうでもいいことなので、素早く食器洗いに動いた。
そこからのことは、食器洗いに夢中になっていたからか、人に興味がなかったのか、定かではないがいつのまにかカレーは完成していた。丁度、太陽が真上に昇ったころだろう。
俺は、おいしいかおいしくないかと判断できないカレーを食べる。この時は、この後のクラス交流が楽しみで仕方なかった。今日こそ、田中と関わりを持とうと心に決心していた。なんて声をかけようか、何を話そうか。その思考が頭を回っているうちに皿に盛ってあったカレーは姿を消した。
そして、交流の時が来た。何をするかは、特に決まっていなかったがその場のノリで花いちもんめをすることが決まった。このクラスの女子は、割と賑やかである(騒がしい)。
その陰で物静かそうな田中の光は輝いていた。あわよくば、彼女の隣に陣とって、会話をしたいと考えていた。しかし、それは、あくまで理想に過ぎなかった。なにも彼女との関わりもなくクラス交流が終わってしまった。俺は、自分のシャイさに後悔と呆れの感情を抱いた。
自己分析をそこまでにして、俺らはバスに向かった。行きのバスの揚々さをみんな失い、疲れ果てている空気がバスの中を覆った。そこに、陽気な女子の声が響いた。
「明日、打ち上げを含めた親睦会をしようと思います。なるべく参加してもらいたいです。参加できる人はSNSにスタンプ押してください。」
俺は、すぐに心の中でナイス女子と叫んだ。申し訳ないが名前は憶えていない。しかし、まだ俺は、田中との関係を持つことが出来るチャンスがあると嬉しがった。この感情に浸っていると隣に座っている歩が参加するかという疑問を投げてきた。当然、即刻行くという返事をしたかったが、それも恥ずかしいので、塾があるか確認してから返事するわと無いのが確定している塾を言い訳にその場を凌いだ。そこからのことは睡眠に時間を捧げたので何も覚えていない。
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