『レターパックで現金送れ』はうさぎです
鮭さん
第1話
「最近、『レターパックで現金送れ』と指示され、現金を騙し取られるケースが相次いでいます。いいですか。レターパックで現金送れは詐欺です。」
TVが言いました。へえ、そうなんだ。勉強になるなあ。ノートにかきかきかきかき。かきかきかきかき。
『レターパックで現金送れはうさぎです。』
たかしくんは、ノートにメモを取りました。
次の日。封筒が来ました。中を開きます。
『レターパックで現金送れ。』
と書いてある。お、来たぞ来たぞ。うさぎだぞ。早く、仲良くなりたいな。
「はい、どうぞ。」
人参を、あげます。『レターパックで現金おくれ。』に。
しかし、何も反応がありません。
「あれれれれ、お腹がいっぱいなのかな。また後で、あげようかな。」
半日、経ちました。
「うさぎさん、はいどうぞ。」
しかし、反応がありません。紙に向かって、人参を擦り付けます。
「うさぎさん、食べないと餓死してしまいますよ。それでもいいのですか?」
なにもいいません。『レターパックで現金送れ』と言う文面のみがただそこにあります。
困ったな、お腹減らないのかな。病院に連れて行こうかな。病院に連れて行きました。
「はい、今日はどうなさいましたか。」
受付のお姉さんが言いました。
「はい、兎が何も食べないもので。」
「はい、では六番でお呼びいたしますので、座ってお待ち下さい。」
「はい、では座って待ちますね。」
すわすわ(座っている。)。
「六番でお待ちの方〜。」
「はぁ〜い。」
診察室へ向かう。メガネをかけた小太りの先生が椅子にぽちょんと座っている。
「はい、今日はどうなさいましたか?」
高めの、人の良さそうな声で尋ねてきた。
「はい、ええと、ウサギが何も食べないし、ぴくりとも動かないんですよ。」
隆くんは述べた。
「えぇ、それは大変だ。大変です。大変ですねぇ。ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「はい、こいつなんですが。」
隆くんは『レターパックで現金送れ。』と書かれた紙を見せました。
「ほほう。これはウサギですか?ウサギには見えないのですがねぇ。」
不思議そうな先生。隆くんはメモしたノートを見せます。
「いいえ、いいえ。これは歴としたウサギですよ。ほら、ここに書いてあるでしょう。」
『レターパックで現金送れはウサギです。』
「あ、本当ですね。ではちょっと診察してみます。」
先生は納得した様子で聴診器を手に取り、当ててみます........。首を捻り頭を肩に寄せる先生。眉間にシワを寄せ、難しい顔をしています。
「どうですか?」
心配そうに尋ねる隆くん。
「申し訳ございません。申し上げにくいことなのですが、手遅れです。なにも体内で反応がありません。なにも、聞こえません。なにも、動いていません。」
残念そうに話す先生。
「そうですか.......。」
ガックリと肩を落とす隆くん。
「ああ、まあ生き物ですから、いつかは命が絶えるものですよ......。はい......。」
「そうですね....。」
涙を堪えることのできない隆くん....。ポタリ、ポタリと膝の上に涙の粒が滴ります。
「ですが、亡くなった動物たちに飼い主ができることもあります。それは埋葬です。ここの火葬場はペットの火葬も受け付けています。もしよかったらこちらへ。」
先生は「佐々木火葬場」と書かれたチラシを机の棚から取り出してきました。
「ここに行けば、きっとうさぎさんも、安らかに旅立っていけることでしょう。」
先生は言いました。
「あ、ありがとうございます。」
隆くんはどうにか声を絞り出します....。
「では、ご冥福をお祈りします....。」
「はい、、ありがとうございました。」
隆くんは部屋を後にします。先生一人になった部屋。
「くっ、、、また、、また救えなかった、、、、、。」
そこには、肘を机につき頭を抱える先生の姿が、、、。
徒歩十分。佐々木火葬場にはすぐに到着しました。白くて立派な建物です。白くて立派な建物だな、たかし君は思いました。
「お客様、本日は如何致しましたでしょうか?」
受付の、髪をワックスで整えた若い男性が言いました。綺麗にスーツを着こなしています。
「はい、ペットのウサギが亡くなったもので、火葬して頂きたいと思いまして。」
隆くんは辛そうに喋ります。
「そうなのですね。それはご愁傷様です。早速ですが、ペットのご遺体をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
空気を読んでいます、というような神妙な面持ちで受付の男性は喋ります。
「はい、、、。」
ごそごそごそごそ。バックの中をごそごそする隆くん。
「お願いします。」
『レターパックで現金送れ』と書かれた紙を差し出します。
ん、戸惑う受付の男性。
「こちらがウサギなんですか?」
単刀直入に尋ねます。
「はい、そうなんです。」
ごそごそごそごそ
再びバックの中をごそごそする隆くん。
「ほら、ここに書いてあります。」
『レターパックで現金送れ、はうさぎです。』
と書かれたノートを差し出します。
「ん、ああ、はい。そうなのですね。でははい、ペット埋葬コースですと、5万円になります。」
受付の男性は不思議に思いましたが、とりあえず受け付けてみることにしました。
「はい、ではよろしくお願いしますぅ。」
うさぎを渡す、たかしくん。
「火葬は三時間ほどで終了致します。ご案内先の居間でお待ちください。」
受付の男性はそういうと奥の方へとウサギを持って歩いて行きました。代りに中年の紫色の首飾りをつけたおばさんがやってきました。
「では、お客様。こちらへどうぞ。」
「はいい。」
奥の方へと歩き出すおばさん。ついていくたかしくん。
薄暗い廊下を進むと、畳が敷かれた和室が姿を表しました。ボーッ、と、出現しました。幽霊みたいです。
「こちらでお待ちください。」
「はい、ありがとうございます。」
「では、失礼致します。」
外に出ていく女将さん的人間。一人になったたかしくんは、泣きました。
「うぅ、うさぎぃ、うさぎぃ、、、。」
一方、受付男性は不審に思っていました。
(これ、どう考えても紙だろう。うさぎじゃなくて紙だ。わざわざ焼却炉使わなくてもよくないか。ライターでよくないか。おい、ライターでいいだろ。ライターで燃やして灰持ってきゃいいだろこれ。)
受付男性はライターで燃やすことにした。
ボボボボボー、ジュワワワワー、灰、ヒラヒラ、灰、ヒラヒラ、灰、あつめあつめ、灰、あつめあつめ
〜数時間後〜
「たかし様〜。焼きあがりました。」
「はい〜。」
呼ばれて出ていくたかし君。そこには、ちょっとだけ、灰が。
「こちらになります。この度のご不幸。お悔やみ申し上げます。」
神妙な顔をする受付男性。
「うぅっ、こんなになってしまって、うさぎぃぃ。」
号泣するたかし君。一方、受付男性は、
(うっしっし、焼却炉も使わないし、一瞬で終わるし、それで五万て、めっちゃいい商売じゃないか。これ、稼げるぞ、うっしっしっし。)
と、考えていました。
〜数日後〜
今日は佐々木火葬場の会議の日。受付男性は先日あったことを話します。
「『レターパックで現金送れ』をうさぎだと思って火葬しにきたお客様がおりました。焼却炉もなにも使わず五万円です。これはすごい利益を産めることでしょう。ということで、『レターパックで現金送れ』はうさぎだとCMで流してみてはどうでしょう。」
おお、すごい!!いい案だ!!バンザーイ!!バンザーイ!!
拍手喝采、即時決定。一週間後のtvcm...
ちゃらりらり〜♫
(佐々木火葬場の立派な建物が映し出される。)
『残された飼い主にできること、それは、ペットが気持ちよく成仏できるように丁寧に死体を処理することです。佐々木火葬場では、ペットの悔いのない最後を保証いたします。ペットの最後は是非、佐々木火葬場で。〜レターパックで現金送れ、は、うさぎです〜。』
ちゃらりらりら〜♫
このCMが流れた結果、たくさんの『レターパックで現金送れ』が佐々木火葬場で供養されることになりました。詐欺師は儲けることができなくなり、次第に『レターパックで現金送れ』型詐欺は消えて行ったのでした。
完
『レターパックで現金送れ』はうさぎです 鮭さん @sakesan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます