第4話 悪夢姫の悪夢

フォルツァ帝国、数日前______

その日の夜、城内は突然 喧騒に包まれた。

先帝ヴァルター・フォルツァはカンタンドの戦いで敗れ、忠臣ファイアリヒを失った。帝国の王は代々、気性が荒く野蛮な者が多くヴァルター帝もまさにそのような性格であったが、あまりの屈辱にかなり落ち込んだようだ。その様子を目の当たりにした第一皇子は心配して帝国騎士団長テンペスト・フォールテに相談していた。彼はファイアリヒ亡き後に昇格した。第一皇子と同じ17と歳が同じであり幼少期から共に育ってきた。しかし、彼らの溝は年を追うごとに広がっていくこととなった。大きなきっかけはファイアリヒの死と王国との和解に不利な条件が残ったことによる混乱だった。実は2人は敗北を喫した先帝を出し抜いて王位を継承するつもりでいた。父親を島流にすると言う第一皇子に対し、テンペストは報復を懸念して抹殺することを提言して対立した。だがテンペストは企みを隠したまま、一度 自身の案を取り下げた。

その夜、第一皇子率いる軍勢およそ3万人が城内になだれこんだ。テンペストは一目散にヴァルター帝を殺害し、後からやって来た第一皇子に見つかるも直ちに殺害した。貴族諸侯には親子で相打ちに成り、後のことは自分に任せるよう言われたと説明した。

こうして彼の野望は叶ったのである。第二皇子は幼く、その他は皇女であったため半ば無理矢理、王位を奪い取った。元々、上流階級であったが故に付き従う貴族も多かったことで彼の野望はより盤石な状況で達成された。こうして彼のクーデターはこうして成功したのであった。

さらに言えば、神聖スケルツァ国のレイテリィも圧に負け、いや、呆れて悪夢姫の処遇に関しては帝国の判断に委ねることになったことも成功したことのひとつであろう。


そしてこの現状である。

「ドゥルーチェ姫、婚姻のことですが!」

テンペスト帝は召し上げたドゥルーチェに相変わらず婚姻を迫っていた。諸大臣たちにより一応は捕虜として扱うことを了解しているようだが、ドゥルーチェに対して「婚姻すれば自由になれる」と言い、まったく引く様子はない。そうして毎日、ドゥルーチェの入る牢に通ってはそう言い寄った。


グランディオソ王国______

敗走したアタッカたちは王国に到着した。敗北の報せを聞いた王は床に崩れ落ち涙を見せた。王国は再び敗北を喫し、さらにトゥーティ、アチェルを含む先代騎士団長が育てた英雄たちが戻らなかったのだから無理もない。暫くして王は立ち上がり、当面の間は自らが騎士団の指揮を執ることを宣言した。再編成に当たり近衛騎士団と統合され、反撃のため国王が采配を握ることになった。

「皆の者、よく聞いてほしい。我が王国は厳しい局面に差し当たったが、どうかわしに力を貸してほしい。よろしく頼む」


同刻、グランディオソ正教会には釈放されたフリオーソの姿があった。

「お前さんの失態で計画が狂ってとるぞ。次の策は万全なんだろうな」

当初は国王をさっさと片付けてしまおうと思ったのだが、こやつがしくじったために計画は練り直しになった。とはいえ、テンペストはともかくスケルツァ王はよくやってくれたな。レイテリィとやらも中々切れ者のようだ…が、目的のために、惜しい人材ではあるが神聖国は滅びてもらわねばな。あとはテンペストが上手くやりよるだろうか。

「これでお前さんも我が正教会の信徒なった。神に赦しを乞うのだぞ(このバカ皇子め)」

儀式を終えた枢機卿はブツブツと文句を言いながらその場を後にした。(今まで信仰心など無かったろうに、今さら赦しを乞うときたかあの大バカ皇子め)

そんなことよりもナイトメアのことを忘れておった。暫く奴を見とらんな…。一体どうなってるのだ。

その点について、議会からも動向が入ってこないから枢機卿が知らないのも無理もなかった。

枢機卿が事実を知るのは暫くしてからのことで、国王との教皇軍派遣の軍議の際に知らされた。(なんてことだ。どこの皇子もバカ皇子じゃないか。計画に加担していなければすぐに始末するところだまったく)まあいい、暫く奴は放って置けると思えば都合がよいかも知れんな。

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