第5話 国王の決断
国王率いる王国軍は反撃のため、間近に迫る神聖国軍と対峙した。勢いを増した軍勢は止まるところを知らない。王国軍は国王の出立で幾分かの士気高揚を図れたものの、決して充分とは言えないものであった。圧倒的軍勢を見るや否や怖気付く者もあった。恒久的な栄華が続くと思われていた王国ではあるが、今では数年前までの面影はない。各地で貴族諸侯の地位や名声が下がり暴動も起きていた。もちろんこのことは国王の耳にも届いているが、特に食糧不足などについては王国としても支援できない状況にまで陥っていた。その中でこの戦いが起きているのだから、国王は決断したのであった。
(すべての民は私が守ろう。そしてすべての責任は私が取らねばならない)
だが、国王には一つ気にかかることがあったが、それは国王の中では未だ疑念の段階であるため行動に移せないでた。それはドゥルーチェをカンタンド地方に配置した後だった。彼女から内密に届いた書簡には国王の懸念と同様のものが記されていた。そこにはすべての元凶が枢機卿であるという主旨で記述されていた。ドゥルーチェは議長室で父親の手記を発見し、調査していたとのことだった。ドゥルーチェがこれまでに枢機卿に呼び出され、ナイトメアについて探られていたこともわかった。
しかし、かと言ってドゥルーチェの書簡だけでは今ひとつ足りなかったのだ。決定的な証拠とナイトメアへの信用が足りなかったのである。国王としても彼女が嘘をついているとは思えないが、それを大勢に説明して理解を求めることは非常に難しいものであった。ましてや備えなく正教会の枢機卿を相手にすることは国民や近隣の信仰諸国と敵対することになりかねない。
これによって、疑いある元凶を止められない今、迫り来る脅威に立ち向かわねばならなかった。そして今回は投獄以来、初めてフリオーソも出陣した。そして国王のそばで戦うと言う。第一皇子の軍勢も加勢したことにより先の戦いと比較して大きな兵力減少は免れることができた。こうして再び神聖国との戦いの幕が切って下された。勢いに乗る神聖国軍はとてつもない推進力で迫り来る。あっという間に陣形は押し切られ、幾人かの敵国騎士が国王の間近で剣を振るったがなんとか押し退けている。遂には国王も剣を抜いた。
「皆の者!わしとともに死んでくれ!」
大声を張り上げる国王に続き、臣下たちもそれに応えるように付き従った。
「グランディオゾに栄光を!」
そうして馬で駆け出した時だった。フリオーソは剣を実の父の胸に突き刺した。駆け出した臣下たちはもう既に先にいて、そこには親子だけが取り残されている。
「フ、フリオーソ…。最後まで…親不孝者よ…」
血の気の引いた顔をした父親から視線を外しながらフリオーソは呟いた。
「グランディオゾに…栄光を…」
剣を抜くと彼は静かに父親の亡骸をその地に置き、手を組ませると、トボトボと歩き出した。
悪夢の少女 下川科文 @music-minasan
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