第3話 カンタンドの窮地、再び

王国軍は依然として劣勢だ。局所では押しているものの深入りすれば孤立して挟み撃ちされることから一進一退の戦いが続く。また、救援軍の到着が無くますます状況は悪くなるばかりだ。当然、王国軍の士気は下がり始め疑問の声が上がる。当初は騎士たちを鼓舞していたトゥーティではあるが段々と焦りを見せ始めた。

「申し上げます!血まみれの男があちらからやってきます。。いかがしますか?」

斥候がトゥーティに告げる。警戒しつつ話を聞くと、どうやらカンタンド地方議会の議員のようだ。聞くに、カンタンドに帝国軍が現れ内通者の濡れ衣を着せて議員たちを虐殺したようで死に物狂いで逃げてきたとのことだった。カンタンドの地方議員は殆どが虐殺されてしまったようで、悪夢姫は帝国に囚われているといった状況だ。

「もはや…ここまでだろう…」

トゥーティは初めて騎士たちに弱音を吐く姿を見せた。アストルガ率いる近衛騎士団はこの状況下で国王の下を離れることが出来ないだろう。前線では王国の騎士が次々に倒れてゆく。そして、トゥーティは決断したのだった。


______フォルツァ帝国城内

城内は悪夢姫の入城により沸き立っていた。帝国は事実、ナイトメアの効力が詳細に解らないことからドゥルーチェを危険視していた。軍事的な脅威であることは間違いなく帝国要人たちは強く懸念していた。ただ一方でお構いなしに別の心配をしている者もいた。帝国王の御前に突き出されたドゥルーチェは目を見張った。

(アタッカ…?)

ドゥルーチェが驚くのも無理はなかった。目の前にいる帝国王はアタッカそのものの外見であるからだ。

「悪夢姫、いや、ドゥルーチェ・アフェット姫よ、私はテンペスト・フォールテだ。」

明らかに名は違うが同じ姓を名乗っている。テンペストは続ける。

「ここまでお越しいただいたのは他でもなく、ぜひ俺と婚約していただきたいのだ。」


_____南部国境付近

「全員に告ぐ!直ちに王国へ撤退し、近衛騎士団長に従い王国を防衛せよ!」

トゥーティは力一杯に叫んだ。その命令は次々に伝播し、やがて王国騎士の撤退は完了した。激しい戦いにより王国は更なる損耗を被る結果となった。王国の歴史においてここまでの大敗を喫する戦いはなかった。

そして、騎士団長以下、5名の英雄たちが再び王国に戻ることは、なかった…。


「大変呆気ないものでしたね。」

レイテリィの言葉に神聖スケルツァ国王はニヤリと笑った。レイテリィの策によりカンタンドからの援軍は来ず、加えて目撃者となり得る議会議員の抹殺も行われた。だが彼には一つ疑問が残る。

「…レイテリィ、悪夢姫はどうしたのだ?」

レイテリィは何やら嫌な予感がしながらも、その問いに答えを返す。

「悪夢姫でございますが…、テンペスト様が妃に迎えたいと仰せでして献上した次第にございますが…」

神聖国王は怒り任せにレイテリィを蹴り付けようとしたが豪快に空振りし、ドスドスと足音を立てて去って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る