悪夢に終止符を
第1話 再び迫る悪夢
父の部屋で見つけた日記から強まった枢機卿への疑念を確固たるものにする必要がある。ファイアリヒ亡きいま真偽を確認するには首謀者当人を探るほかないことは明白だ。だが枢機卿に近づける機会は滅多にない。が、唯一挙げられるのは7日に一度の正教会での礼拝の日だろう。
「よし、ドゥルーチェ。礼拝の日に俺たちで独自にやつのことを探ろうぜ!」
アタッカってこんな男の子だったかしら。この普段の元気と勢いは誰かに似ているような…。出来れば騎士団長を見習って欲しいものだけれど。不意にドゥルーチェは微笑んでいた。これまで感じたことのない、束の間の楽しさをも感じていたからだ。首長夫妻の一人娘として教育されてきたことで他の子どもと関わることが殆どなかったのだ。遊ぶことなど尚更である。
「アタッカ…。私ね、カンタンドを救援に向かったあの日の話、ちゃんと聴いていたよ。それで、私も両親のことを誤解してたんだって気付いたの。その…ありがとう…」
アタッカは頬を赤くして照れるように頭を掻いた。それを見たドゥルーチェはハッとして自身も頬を赤らめた。暫く見つめ合う2人。ドゥルーチェは少し期待をした。するとアタッカは静かに首を横に振り、彼女の両肩に手を添え距離を少し離すと、剣を口元に寄せて言った。
「アタッカ・フォールテ、ドゥルーチェ様をこの身を捧げてお守りいたします」
アタッカの眼差しは真っ直ぐにドゥルーチェの瞳に向いている。勇ましい敬礼にドゥルーチェも頷いて応える。
*
あの小娘め、カンタンドに逃げ隠れするつもりだろうか!だが聞くにこの件は国王が地方議会に提案していたそうじゃないか。もういい、徹底的に始末してやるまでだ。
「センプリチェ!次の策に移るのだ!」
ペザンテの一声で彼は動き出した。翌日になると早速ブリランテ王に急報が届くことになる。神聖スケルツァ国が挙兵し、グランディオゾ王国に迫っているとのことだ。以前のフォルツァ帝国との戦いの際は静観していたようだが今度はいよいよ直接攻撃に打って出て来たのである。
「あの変わり者且つ慎重な男…小癪な真似を…」
グランディオゾ王国は先の戦いで勝利したものの、近衛騎士団到達前に戦力を削られており復旧の最中であった。抗戦するため各騎士団が集められ、プレスト軍事相が鼓舞する。
「君たちいいかね!あの卑怯者ミステ=リオゾ・スケルツァに痛い目を見せてやるのだ!」
結果的にだが先の戦いに勝利したことにより現在は士気揚々のようだ。一帯に大きな勝鬨が響き渡る。民衆に見送られて一団は神聖スケルツァ国が待ち構える国境へ向かったのだった。
____同日昼過ぎ、グランディオゾ国南部国境
様々な怒号が戦場に響き渡る。意気揚々と出立した彼らでさえ、既に劣勢のこの状況に感づいている。それもそのはず彼らは神聖スケルツァ国軍の策にはまってしまっていたのだ。
「デリバ・レイテリィ、なかなかの策である。そなたのこと気に入ったぞ。」
法皇に深々とお辞儀をして謝意を述べる男がいた。そしてまた戦況を見てあっという間に的確な指揮を執るのだった。
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