第9話 枢機卿の計画

 遂にあの小娘を私の管理下に置くことができた。あとはあいつをどう始末するかだ。わが正教会が正教会たらしめるものはなんだ。そうだ、圧倒的な権威だ!あんな力のおかげで神への信仰が薄れてはならない。古くより続く悪夢一族との因縁は私の代でケリをつけねばならん。私の名声と共にな…


グランディオゾ大聖堂のとある部屋_____

「ドゥルーチェ、お茶でもどうかね」

要らないと答える彼女に少し苛立ちを覚えながらも、教徒に茶を入れさせたのだ。やはりここで始末してしまおうか…。いや、そうもいかない。他国の異教徒に裁きを与えるためにも、まだこいつは必要であることは事実だからだ。それにどうせ始末するならば、とことん利用するまでだ。それにしてもガキのくせに扱いの難しいやつだ。

「枢機卿猊下、よろしいのですか。あの小娘の生意気な様と言ったら…」

声を掛けてきたのはカンタンド地方の司教フェル・センプリチェだ。彼は私が司祭の時分より付き従う弟子だ。聞き分けも良く何でもこなしてきたものだから、今回この計画の一端を担わせることにしたのだ。すると期待通りの働きを見せたのだ。あの王国軍を出し抜いてファイアリヒをカンタンド地方に誘引、占領させた。しかし、やはり邪魔が入った。あの小娘、とうとう悪夢予知ナイトメア・サイトを使いおったか。奴らの血族を没落させるどころか今では名声が飛び交う始末だというのだから、何と腹立たしいことか。まあいい…策は練った。あの混乱の中で必然的にファイアリヒ公は始末される。そうすれば私の関与は闇に消える。では、次の策を使うとするか。


少女の日記_____

両親が死んでから幾日か経った。以前、彼が言っていたことが頭をよぎる。私の両親は死に際に何度も私に謝罪をしていた。私を守れなかったことを悔いているようだった。そして、愛していると涙と、その血を流した。そうだ、私も勘違いしていたんだ。カンタンド地方を治める長である2人がどんな思いであの瞬間に死を覚悟したのか。今さら遅いというのに涙が溢れてくる…。来る日も来る日も主に赦しを求めている。

そして昨晩、悪夢予知をしたの。枢機卿はセンプリチェ司祭と何かを企んでいるわ。どうやら私の故郷がファイアリヒに侵攻されたのは枢機卿の指示だった。新たな指示を出しているのだけれど、その悪夢予知は何故かそこで途切れてしまう。私は枢機卿を絶対に許さない。何が神の御心よ。お父さん、お母さん…私が2人の意思を受け継ぐからね。

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