第6話 死の悪夢

 ドゥルーチェの予知能力によりファイアリヒの奇襲を見破った王国軍だったが、戦力差だけは覆せるものではなかった。ファイアリヒ本隊およそ800に対し、王国軍ナイトメア護衛隊はおよそ500で、さらには練度の差も露呈していた。徹底抗戦により何とか持ちこたえている状態ではあるが、依然として劣勢だ。護衛隊の騎士たちはただただ本隊の合流を待ち望みながら剣を振るう。

「団長の隊はまだ来ないのか!早馬は出したんだろう!」

護衛隊長がアルコに問う。アルコはそれに答えたがスルーされた。いや、仕方がない、戦闘中だ。

「ナイトメアの子どもを探せ!傷つけたら俺に殺されると思え!」

ファイアリヒがドゥルーチェを探し始めたようだ。目的としては生け捕りの様だが、王国としても渡すわけにはいかない。刻々と時間が過ぎゆく中で、多くの王国軍騎士が斬られてゆく。護衛隊があきらめようとした時だった。前方からトゥーティ隊と近衛騎士団が怒涛の如く現れた。その数およそ300、騎士団長と近衛騎士団長の隊がいれば互角に戦えるだろう。

「護衛隊長、よくぞ耐えた!感謝する!」

トゥーティの言葉に王国軍は士気が向上した。本隊と近衛騎士団の合流により何とか押し返す形となった。しかし、帝国軍から一騎飛び出す者がいた。ただならぬ雰囲気を漂わせて迫り来る。黒き鎧とその男が放つ覇気、それはまるで魔王のようだ。

「さあ!力を持つ者を出せ!」

圧倒的な威圧に押され斬り伏せられる王国軍騎士たち。殆どの者はその覇気になす術もなく動揺が広がっている。このままではいずれ進路が開かれ、ナイトメアを守りきれないと誰もが感じた。帝国軍が刻々とドゥルーチェに迫る。ドゥルーチェは恐怖したが、落ち着いて胸に手を当てる。

(私、もう死ぬんだ…お父さん、お母さん…ごめんなさい…)

アタッカはまたも違和感を感じ、ドゥルーチェを見やる。

「くそ!俺はまだ戦える、戦うんだ!」

そうしてアタッカはファイアリヒの方へ駆け出した。

(私が死ねば、終わるんだ…)

ドゥルーチェを視界に捉えたファイアリヒはニヤリとすると、勢い良く駆け出した。

「見つけたぞ!世のため、ここで死ね!」

鮮血が舞う。誰もが目の前の死から目を背けた。少女が戦場に散る、そんなことは誰もが味わったことのない衝撃だからだ。

凍りつく空気、大人たちは子どもに課した事の重大さを思い知った。しかし、その状況を薙ぎ払う声が響く。

「将軍!」

滴る血はファイアリヒの背後に流れ落ちた。

「何故…だ…」

落馬するファイアリヒ。血溜まりが出来るのは容易い深手だ。その光景を目の当たりにした帝国軍は、慌てて後退した。一人取り残されたファイアリヒは王国騎士団に取り囲まれた。

「俺は、大事な人を守りたかった…姫さん元気でな…」

そう言うとファイアリヒは静かに目を閉じた。


_____王都グランディオソ

騎士団と近衛騎士団は国王に謁見した。戦後報告をしたトゥーティとアストルガに国王が告げる。

「二人とも大義であった。敵将は何か言っておったか。」

二人は顔を見合わせた。はてな、と顔を顰める二人に、国王は「気にするな…」と言うと王座の間を後にした。

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