第3話 二度と戻らない悪夢-前編

 王の命により敵国軍の陣地に使者が派遣された。

その護衛には騎士団が就くこととなった。その護衛の一行にドゥルーチェが加わりたいと申し出た。なんでもその理由は敵国軍の進軍した土地は彼女の故郷があるのだった。住民の殆どはカンタンド地方軍により救出されたと聞いているがそれでも何割かは命を落としたという。

「ドゥルーチェ、ご両親が心配なんだよね・・・?」

俺がそう聞たが目も合わせずに俯いている。暫くして彼女は無機質に言った。

「両親のことなんて心配してない。あの人たちは家族なんかじゃないもの。私が騎士たちに連れて行かれるときに、止めてなどくれなかった。私はただ・・・領地の皆さんが気掛かりなだけ・・・」

彼女の言葉からどことなく迷いを感じた。それ以降、彼女は遠くを見つめるだけで何も言わなくなった。

「あのさ、俺、父さんのこと勘違いしてた時期があってさ。戦争して人を殺すのに平和とか言って、人殺しが何を言ってんだって思ってた。でもあるとき戦死したんだ。それで初めて気づいたんだよ・・・」

彼女が少しこちらに視線を向けた。一応、聞いてはくれているみたいだ。相変わらず表情はそのままだけど。

「父さんが命をかけて守ろうとしたものに、そしてその勇気に・・・」

俺がそういうと彼女は顔を顰めて馬車のカーテンを閉めた。何か怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか。それから再び顔を出すことはなかった。


 敵国軍陣地が視界に入ると一行は驚いた。そこにあるのは残骸だけで人の住める様ではなかったからだ。その少し先には大軍がいることなど一目瞭然な陣が敷いてあった。


フォルツァ帝国軍陣地、数時間前____


 王国領土制圧に沸くフォルツァ帝国騎士たちは、奪った財産や捕虜を好き放題にしていた。止める者などおらず慣習化している。まるで官軍の皮を被った賊のようである。その土地にあるものを燃やしては財産や女を奪って回っている。それはこの地も例外とはならなかった。しかし、捕虜については例外がいた。兵士がその家の妻に乱暴しようとした時だった。剣がある兵の胸を貫いた。周囲の兵たちはその一瞬のことに言葉を失う。

「貴様、土地の長にして力を継ぐ御方に無礼を働くでないぞ?」

冷酷な声色の持ち主が剣を抜くと、生温かい鮮血が噴き出した。すると周囲の兵はその場で即座に片膝を着いた。「も、申し訳ございません、ファイアリヒ将軍・・・」と言い残すとその兵は息絶えた。

「このお二方をお連れしろ。」


漆黒の鎧に身を包んだ男が静かに目を瞑っていると伝令がやってきた。

「将軍、王国の遣いがやってまいりました。」

その男は静かに目を見開くと言った。

「さて、始めるとするか」

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