第10話 召還と召喚

数日後の未明、王都グランディオソ____


王座の前に整列する騎士団幹部と新兵の少年、そしてナイトメアの力を持つとされる少女。皆、王の言葉を固唾を飲んで待っていると、儀仗兵が声を上げる。

「ブリランテ王の御成りである!」

静かに歩を進める王はやがて王座に座すと、彼らを見やった。

「トゥーティよ、悪いな。此度の戦い、ご苦労であった。然ればとて敗戦については……」

王が言いかけると王座の間の扉が開いた。

「殿下、無礼になりますぞ……!」

守役を押し退けて王座の間に入り込む皇太子はズカズカと王の前に立ちはだかった。然るにその様子に動じることなく王は言った。

「なんの用だフリオーソよ。お前は相変わらずの無礼者よ。」

王である父の言葉に気分を害したのか、酷く顔を顰めた。

「父上、それよりも此度の戦いで帝国に大敗を喫したようですな。それはどの者が指揮したのでしょうか。王国の恥を晒すのとは無能の極み。すぐにでも処罰すべきかと?」

そう言うと後方のトゥーティを睨みつける。空気は一気に凍りついた。やがてその目は別の者を探すため動き始める。この場に召喚された少女を視界に捉えると不敵に笑みを浮かべる。何かを思いついたような様子で王へ向き直ると、続けた。

「この責任はナイトメアなどという欺瞞を働くものに負わせるが妥当では?ついでにこのような者を連れてきたプレストめもろとも…」

息子の横暴に痺れを切らした王は声を荒らげる。

「戯け!いい加減にせんか!」

突然のことに少女は恐怖に支配された。あまりの恐怖心に耐えきれず目を閉じて頭を抱えた、その時だった。目を閉じ暗黒となった視界に先程までの様子がある。またも温かい風が当たる感覚とともに頭痛の様な違和感を経る。驚く間もなく目の前の事象は動き、一瞬の出来事に息を呑む。

『父上、王国のためです。』

皇太子は王の返り血を浴びながら狂気の笑顔を浮かべている。それから少女は我に帰ると目を見開いた。

(陛下はまだ生きておられる…!」

「解りませんか父上、今一度ご再考を!ナイトメアなどこの世にはありません!謀られているやも知れませんぞ!」

皇太子と王との論争は次第に激しさを増してゆくばかりだった。

(でも、私の力は当てにならない。もし誤りなら殺される…私…死にたくない…)

そのとき少年は落ち着きのない様子で整列の後方から事の成り行きを見守っている。言い争いの末に皇太子は剣を抜いた。

(でも、王様が死んではダメ…!)

少女は立ち上がり国王の元へ駆けた。王座の間は一瞬の驚嘆の声のちに静まり返った。


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