第77話 不穏の足音
そのニュースははじめは国際欄の、それもごく小さな記事から始まった。
『〇〇国〇〇地域で原因不明の肺炎が拡大?』
そんな感じだ。
だから俺も特にそんなニュースを意識するなんて事は無かった。
都和先生の派遣の事を知っていてもだ。
研究会の方は毎年恒例の冬合宿の計画なんてやっている状態。
都和先生の代わりに物理や化学の実験を担当する田土部先生が代わりに顧問として参加してくれるそうだ。
「今度の合宿は能力者や亜人として持っていると便利な能力の習得を目的にしましょう。例えば1年生は基礎的な心理封鎖や思考誘導技術、2年生は大和さんはリーディング技術の応用、川口さんはアイテムが何もない状態での術式起動といった辺りでしょうか」
以前の合宿とは違って割とかっちりした計画を田土部先生が提案してきた。
「陰陽寮付属術式研究センター支所あたりはどうでしょうか。冬なら間違いなく空いていますし、いい温泉もあります」
「そのセンターというのはどんな場所なんですか」
「那須野御用邸の敷地内にある陰陽寮の合宿施設です。温泉もあるしトレーニング施設も充実していて様々な能力の訓練が出来る場所になっています」
何かいかにも目的のある合宿と言う感じだ。
だが先輩2人はどうも反対らしい。
「あそこは冬はほとんど外に出れないし面白くないですよ。やっぱり冬は寒い日本を尻目に南国の島でのんびりとするのが最高でしょう」
「同意。去年あまりにも何もなくて訓練以外ずっと温泉入りっぱなし」
なんて言っている。
「でも今の1年生はそう言った基礎訓練をまだやっていませんよね。機械トレーニングなんかもまだですし」
「機械トレーニングって何ですか」
「能力に応じてトレーニングできる機械が色々あるんだよ。まあシミュレーターみたいなものだな」
「能力の強さもある程度測定できますしね。今後の目安になると思います」
「今年の1年は全員魔法を使えるし問題ないと思いますよ」
どうも大和先輩はセンターより南の島に行きたい模様。
「機械トレーニングをするのでしたら簡易シミュレータを借り出してきてパラオの訓練島あたりでやればいいじゃないですか」
「今は能力を使っての国外移動は自粛してくださいと陰陽寮から来ています」
「無人島へ直接なら問題ないんじゃないですか」
「それも今は自粛推奨だそうです」
「都和先生が行った疫神対策の関係かな」
「おそらくそうだと思いますけれど発表は無いですね」
という事は、だ。
「残念ながら合宿は国内か。冬休みまでに自粛も解除にならないかな」
「その辺も今の処不明です」
「なら合宿寸前まで場所を決めないというのはどうですか。どうせセンターが予約で埋まる事もないでしょう」
「それも方法の一つですね」
先輩達はどうしてもセンターは嫌らしい。
まあ確かに建物内に籠ってと言うのは楽しくないよな。
俺としては機械トレーニングとか基礎訓練とかに興味が無いわけでもないけれど。
本来高校生は勉強するべきだとおもうけれど、合宿の2泊3日くらいなら訓練に当ててもまあいいかな。
「そう言えば初詣後の神社等清掃アルバイトの件、情報入りました?」
「まだ話がきていません。例年ですととっくに話がおりてきている頃ですが」
そう言えば以前そんな事を聞いたな。
「お盆の後みたいなアルバイトがまたあるんですか」
「ああ。本来ならな。あれで装備をもう少し充実させるつもりだったんだが」
ん? でも待てよ。
「撫子先輩ってあまり装備を使いませんよね」
愛梨が俺も疑問に思った事を口にする。
「飛行補助に使える箒を買おうと思ってさ。でもあれは
「箒で空を飛べるんですか」
「普通の箒では無理だな。それ用に魔力回路を仕組んだ専用の箒だ」
それも楽しそうだな。
「だいたいお値段いくらくらいなんですか」
「安いもので50万、高いとキリがないな」
「何ならネットで見てみましょうか。愛梨さんなら使えるかもしれませんから」
田土部先生がそう言ってパソコンを操作する。
「こんな感じですね」
「どれどれ」
箒と言っても実際に掃除をするような箒とはだいぶ形が異なるものが表示された。
「これってミニバイクとかにしか見えないんですけれど」
「最近は箒と言ってもミニバイク形態のものが多いです。乗りやすいですしその辺に置いておいても目立ちませんから。昔ながらの箒型のものは乗るのが難しかったり乗り心地が悪かったりで最近はめったに見ませんね。魔力が相当強くないと回路が小さい分浮き上がりにくいですし」
「ミニバイク型でも箒って言うんですか」
「魔女が乗って空を飛ぶものは全部箒と呼ぶのが一般的な習慣です」
なんだかなあと俺は思う。
こんな感じでこの頃の俺達はまだ気づいていなかった。
この先、都和先生たちが出ている事がどういう意味をもっていたのかを。
元々冬は怪異もわりと静かになる季節。
怪談のシーズンも基本的には夏で終わっている。
だから俺達が異変に気付くのはもう12月も半ば過ぎ。
もうすぐ冬休みという時期の、一見穏やかなある日だった。
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