第10章 それぞれ、らしくなく
第76話 不安な冬の始まり
業者テストは全国順位や成績そのものは悪くなかった。
このままの全国順位なら国立医学部以外なら大体何処でも大丈夫だ。
国立医学部も一部の大学を除けば大丈夫な位だ。
学内3位というのが微妙に気に食わないけれど。
中間テストは微妙な順位だった。
1位が木田余なのは仕方ない。
彼女といちゃいちゃしていようがお泊り会までしてしまっていようが木田余は木田余だ。
お泊り会と言っても勿論翠先輩の家にも木田余の家にも許可を取った訳ではない。
甘い物を色々買い込んだ翠先輩が木田余の部屋へ金曜夜に移動して、そのまま土曜朝まで2人でだべったりアニメを見たりするというものだそうだ。
術で隠蔽処理をしているから部屋の外には翠先輩がいるとは気付かれない。
つまり中で何でもやり放題だ。
ただし木田余によれば一線超えどころかキスすらしていないとのこと。
問題は木田余ではない。
取り敢えず中間テストの総合順位、俺は学年2位だった。
ただし同点で有明透子が並んでいる。
ちなみに貼り出された順位では俺は右から3番目。
この辺ちょい悔しい。
せめてあと1点でも上であったなら……
そして更に問題なのがその次、つまり4位。
愛梨がついにそこに来てしまっている。
来年からは特待クラスに編入してはどうかという話が既にあるらしい。
つまりこのままなら愛梨とも同じクラス。
俺の勉強の環境、大丈夫だろうか。
更に不安な要素がある。
「都和先生はこの度、教育委員会経由で理化学研究所に派遣となりました」
と今日の昼、発表があった。
でもその実情は俺達は本人から聞いて知っている。
「新種の疫神が多数発生している事が判明しました。世界的な拡大の可能性がかなり高いと陰陽寮ではみています。
そこで陰陽寮の方でも緊急体制を取ることになりました。具体的には全国の一級無任所宮司や陰陽大属以上の術司が招集され、主な空港や港等の監視及び討伐業務にあたることになります。私もそういう訳でしばらく派遣です」
そう説明されても俺にはわからない。
わからない事は質問だ。
「疫神とは何ですか」
「疫病を司る怪異だな。つまりまあ新種の流行病が流行ろうとしている訳だ」
「それって普通は細菌とかウイルスによるものじゃないんですか」
「それも正しいのですが、どちらも実は疫神の存在が無いとある程度以上広まる事は出来ないんです。特にウイルスを原因とする病気は本来疫神の加護が無いと広まりにくい代物なんです」
うーん知らなかった世界の真実。
でもそれならだ。
「疫神というのは討伐できるようなものなんですか」
「神と名はついていますが実際のところ単独ではそれほど強くない怪異です。ですので数が少ないうちは討伐も容易い存在。ですが多数となると根絶は困難になります。ですからまず上陸時の水際、数が少ないうちに叩く事が重要視される訳です」
うーむ。
微妙なところで一般の知識と整合性がとれていたりする。
「そんな訳でしばらく学校を留守にします。この研究会自体は助手の田土部先生が顧問代理としてみてくれる予定です。田土部先生は一応専修の討伐免許持ちですのでここの事を話しても問題ありません。まあ非常勤なので毎日はいませんけれども。
それではよろしくお願いします」
大事にならなければいいけれどな。
この時の俺はそう思いつつもそれほど大騒ぎになるとは思わなかった。
◇◇◇
「先生は『単独ではそれほど強くない怪異』と言ったけれどさ。実際は疫神ってかなり強いからな。見かけても退治しようとは思わないで離れる事だ」
これは先生がいなくなった後、大和先輩の台詞である。
「強いってどれくらい? 異世界で疫神と似たような存在は中級レベルの聖職者が全力でなんとかなるか程度だったけど」
「多分同じくらいだな。今まで1年生が出会った怪異ではタイプ的にはレイスに近い存在だ。ただしレイスよりかなり強い。私でも単独では戦いたくない相手だ」
大和先輩でもそうなら俺達じゃ逃げた方が無難だろう。
「もし運悪く出会ってしまった際はどうすればいいですか」
「逃げろ。短絡路を使っても何してもかまわない。ただどうしても逃げ切れない場合は一応光属性や聖属性の魔法が有効だ。武器攻撃等の実体攻撃は無効だからな。
あと正利は耐性があるから気にしなくていい。正利は基本的に不老不死系だし動物系でも無いしな。ただ属性が近い分正利から疫神への有効な攻撃も無い。しかも疫神は正利自身にはダメージを与えなくとも正利に取り付いて広まることは出来る。取り付かれた事に本人は気付けない。だから無理しないで近寄らず逃げろ。対策としてはそんなところだな」
つまり深く考えずに逃げろと言う事か。
「でもまあ、先生とか選りすぐりが見張っている限りそう問題は起きないと思うぞ。あの辺の戦力は正直化け物級だからな」
「何か現場を見たことがあるんですか」
大和先輩は頷く。
「ああ、この学校に入る前一度だけな」
「どんな事があったんですか」
「まあ、ちょっとした惨劇勃発寸前という感じかな」
先輩はそう言って肩をすくめる。
「この世界は私達が思っているよりも遥かに脆弱な代物らしい。何度も危機にあっているしひょっとしたら滅びたりしているのかもしれない。ただそれに気づく者はほとんどいない。たまに処理が完全じゃなくて誰が見ても大事故とかが起きたりする事もあるけれどな。そうでもない限り何が起きたのか起ころうとしたのか当事者以外は誰も分からないし気づけない。知らないうちにかけられた世界改編の魔法と同じさ。
だからまあ、言わぬが花って奴だ。そのうち正利もわかるだろ」
どういう事なのだろうか。
今の俺にはわからない。
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