第75話 後片付けの時間です
出席取り終了、解散後。
「悪いな。ちょい付き合ってくれ」
「ああ」
俺は木田余につきあって廊下方面へ。
いつもなら愛梨が出てきそうなのだが今日は出てこない。
こっちの様子を見て用件ありと分かったのだろうか。
どちらにせよ有難いのでそのままにしておく。
専門教室棟の階段を上へ。
もうこの付近には他に生徒はいない。
今の集合の後、大体解散して帰ったようだ。
文化祭は終わりだし片づけは明後日に時間があるからな。
外で出し物をしていた連中以外は居残る理由も無いだろう。
「本当は合同教室まで行くつもりだったが、誰もいないしここでいいか」
木田余はそう言って立ち止まる。
「何か秘密の話か」
「翠さんは間違いなく3年1組の先輩だよな。真鍋たちの研究会の先輩で」
「ああ」
それがどうかしたのだろうか。
「実は付き合う事になった。交友関係上真鍋には隠せないだろうからさ、最初に言っておこうと思って」
ん、何だと?
聞き間違いじゃないよな。
「何故にそうなった」
「いやな、ショーの時の効果音の話とか色々話をしたら結構話があってさ。それで向こうは3年だけれど、もしよければという事で……」
うーむ。
俺にはよくわからない組み合わせだ。
それにしてもさっきは随分深刻そうな話をしていたのにこれかよ。
いったい何があったんだ。
でもあの時の状況を考えるとその辺を聞くのはためらわれる。
だからちょい別の疑問をぶつけてやろう。
「でも学年2つ違うし一緒に居られる期間は短いだろ」
「それが悩みどころなんだけれどさ。でも可愛いし綺麗だし。それに色々知っていて話も面白いしさ。それに家も近いようだし学校外で会ってもいいかと思えば」
うーむ。
よくわからない組み合わせだ。
何がどうしてどうなればこうなるのだろう。
俺には理解できないが、まあ祝福はしておこう。
「とりあえずおめでとう」
絶対後で木田余が苦労するとは思うけれど、そんな感想は言わないでおく
「ありがとう。あと翠さんにも念を押されたけれど、あの魔術ショーの件については特に誰にも言ったりはしない。だから心配しなくていいと言っておく」
「さんくす」
「用件はそんな処だ。悪かったな、わざわざ付き合って貰って」
「いや、わざわざありがとう。お幸せに」
「サンキュー。それじゃ、翠さんが待っているから」
木田余は階段下へと向かおうとして、そして一度立ち止まる。
「絶望と希望、2つの結末をまあ見てしまったんだけれどさ。それでも今は希望の方を信じてみようと思ったんだ。じゃあな」
今度こそ木田余は走って去っていく。
おいおい結局俺には意味がわからないままだぞそれじゃ。
でもまあ木田余がそれでいいならいいけれどさ。
それに取り敢えず木田余から俺への風当たりも弱まるだろうしさ。
翠先輩とつきあうのならば。
ゆっくり階段を下りたところで愛梨が待っていた。
「用件は終わった?」
「ああ」
「なら帰ろうか」
取り敢えず木田余と翠先輩の事は話さず、他のしょうもない話をしながらいつも通り昇降口経由で駅へと向かう。
◇◇◇
火曜日、いつもの準備室。
片づけは大道具小道具をゴミ捨て場に投げてくれば完了だ。
なので時間が多大に余る。
そんな訳で結局いつもの放課後と同じような情景が延々と繰り返されるわけだ。
だべったりカードめくったり、そして俺は間近なテストに向けた勉強したり。
大和先輩は先程部屋を出て行った。
翠先輩にショーを手伝ってもらったお礼を渡しにだそうだ。
なおお礼の品は『短絡路を経由して買ってきた某有名店のスイーツ』とのこと。
甘い物なら基本的に喜んで受け取って貰えるらしい。
平和だ。
そう思った瞬間扉が開く。
大和先輩が戻って来た。
「何だか知らんが翠先輩にのろけられたぞ。話が通じて頭も良くて、でも可愛い彼が出来たと」
先輩の台詞に俺は大きくため息をつく。
もちろんそれは
正直
でも世の中は平穏な方がきっといい。
だから深く突っ込まない。
そういう意味でのため息である。
「どうした正利、何か知っているのか」
ここは話しておいた方がいいだろうな。
俺はそう判断する。
「文化祭2日目に川口先輩に診断してもらった木田余ですよ、相手は」
「うーん、可愛いはちょっと無いと思うわよね」
有明透子も俺と同じ意見のようだ。
「私も同じ意見かな」
愛梨も同意見。
桜さんは
でも先輩2人はうんうんと頷いている
「納得」
川口先輩からそんな台詞が出るほどだ。
何故あれが可愛いとか納得できるのだろうか?
俺には理解できない。
なので尋ねてみる。
「どういう事ですか」
「翠先輩も全知にかなり近い処までいっているからな。多分普通の人では話し相手として不足なんだ。だから相性が悪いながらも結局よく安浦先輩と絡んでいたりしたんだな。
でもあの2人だと安浦先輩の方が全知のレベルは上だし専門の移動能力以外はほぼ安浦先輩の方が上。何気にプライドが高い翠先輩はそこも気に入らなかったんだろうと思う。
でも今度は能力的には自分より下。全知の能力も今まで使っていなかったからまだまだこれから。でも一応全知は持っているから知識レベルが同じ程度で話は合う。これって翠先輩にとっては相当魅力的な物件だと思うぞ。それに共通の話題とか知り合いとかいればなおさらだ」
うーん。
何か色々間違っているような気もする。
でもまあいいか。
「お互い幸せなら他人が文句をつける事も無いですね」
「その通りだな。めでたしめでたし」
うんうん、俺も頷く。
だがそこで大和先輩はにやりとした。
嫌な予感。
「それはいいとして正利君。愛梨とはどこまで進んだかね」
おいおいそう来たか。
「高校生の本分は勉強ですから」
「2017年にある雑誌が調査したところによると、性交経験者の34.5%が『初体験は16歳から18歳の間』と答えているそうだぞ」
何という破廉恥なデータをもってくるのだ。
でもここで動揺してはいけない。
「大和先輩の方が年上ですから俺より気にした方がいいと思いますよ」
「生憎面白そうな相手がいなくてな」
そう言った後先輩は更に悪そうな顔をする。
「何なら私と初体験してみるか?」
「ダーリン、浮気は駄目ですよ」
何故そうなるんだ愛梨。
今のは完全に大和先輩の冗談だろ。
「うーん、私も頑張らないと」
桜さん何を頑張るんだ!
わかっているけれど突っ込みたいぞ!
勿論言葉の方のツッコミだぞ!
「私も女の子相手なら結構あるけれど、この世界の男相手はまだ無いのよね」
こら有明透子!
自分から怪しい台詞を吐くんじゃない!
何だかなあと思いつつ俺は再び参考書に視線を戻す。
業者テストも中間テストももうすぐだ。
今度こそ有明透子に勝つ!
出来れば恋人が出来て
でも愛梨はちょっと引き離したい。
いやマジで俺なりの面子があるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます